環境は食欲を左右する……色・照明・におい・人との関係も
食欲は周りの環境に左右されると言われています。食器の色や形、盛り付けだけでなく、室温、室内装飾の配色なども重要な要素。そして、耳から入る「音」も大切な因子です。
- 身体を動かして本能的に空腹を覚えて起こるもの
- 目の前に食事を出されて「おいしそうだな」と感じることで起こるもの
いずれにせよ、食欲は「食事と食べる人」との関係だけに留まりません。食事をどのような環境で食べるのかにも大きく影響されるのです。
食環境で大きく影響を与える因子としては、「室内や皿などの色」「室温」「明るさ」「におい」「音」「一緒に食べる人」などがあります。「空間の印象評価に及ぼすBGM のジャンルと照明の光色の相互作用的影響」によると、空間の居心地を決める因子は「BGM」が最も効果的であるとしていることから、今回は、特に「音楽」の食事に対する影響についてお話してみたいと思います。
心身に影響を与える音楽の力……食欲への影響は?
「モーツアルトを聴いて免疫力を上げよう!」という話があります。モーツアルトの音楽を聴くと免疫力が上がり、健康的に過ごせるというのです。「未病改善における音楽療法 ―豊かな食生活を求めて―」の中では、心地よい音楽を聴くと、- 唾液分泌量が増加すること
- 唾液IgAが増加すること
- 唾液コルチゾールが減少すること
- 唾液インスリンが増加すること
- 食前では、唾液αアミラーゼが増加すること
- 末梢の体温が上昇すること
- 血液中のリンパ球数が増加すること
- インターフェロン-γ産生が高まること
- 血圧や心拍がより安定すること
が分かったと報告されています。さらに、同論文の中で、「便秘症や下痢症が音楽療法で改善し、食生活が豊かになった事例もたくさんあります」という記述が確認できます。
毎日、何気なく摂っている食事ですが、音楽を上手に使うと、より健康増進に役立つことができるかもしれません。
「好きな音楽」を聞いているときに食べた物も「好き」?
次に、平成20年度日本調理科学会大会でされた別の研究についてもご紹介しましょう。「食事環境の違いが食欲等に及ぼす影響」という調査研究です。女子大生によるアンケート調査で、好きな音楽を聴きながら食事をすると食欲が上がり、嫌いな音楽や日常の騒音の中ではおいしいと感じないという結果が出たというのです。好きな音楽を聴いて気分が高揚した状態は、脳では、そこにあるものすべてが「好き」だと思うように錯覚するのかもしれませんね。
音楽で食欲増進! 食卓に相応しい音楽の選び方
1人で食事するのであれば「好き」な音楽を選ぶことは簡単ですが、複数が集まっての食事では好みが分かれます。もう一つ興味深い研究を紹介しましょう。日本家政学会63回大会(2011年)でのセッションで「騒がしい洋楽」「穏やかな洋楽」「クラシック」「学生食堂の録音」「BGMを使用しない」の5つを試したところ、「騒がしい洋楽」では食欲が下がったそうです。「クラシック」は「優和性(融和性または宥和性の間違いではないかとも思いますが、原文のまま記します)」「高尚性」が高く、「騒がしい音楽」では「優和性」が低かったそうです。また、脳内安静度も学生食堂の録音やクラシックで高く、騒がしい音楽で低いという結果でした。
また、曲を限定した研究としては、「アルツハイマー型認知症の音楽療法」の研究で、「赤とんぼ」「トッカータとフーガニ短調」「ソーラン節」「アイネ クライネ ナハトムジーク」の4曲を使って、脳のα波を測定したところ、「赤とんぼ」と「アイネ クライネ ナハトムジーク」でα2成分(11~13Hz 速波成分)が増加したという結果もあります。
ここでもモーツァルトの「アイネ クライネ ナハトムジーク」が脳によい影響を与えるという結果が出ています。
こうしてさまざまな論文を紐解いていくと、たくさんの人たちと食事をする際には、食事中のBGMにクラシック、とくにモーツァルトの曲をかけると、食欲が上がり、おいしく食事を食べることができるのではないかと考えてもよいかもしれません。
例えば、残業で遅くなってしまい、帰宅後、1人で食べる夕食などでも、好きな音楽を聴きながら食事をすれば、食欲がわき、おいしく感じることができそうです。
心地よい音楽の効果を上手に使って、おいしく食事ができる環境づくりを目指しましょう。