『ひよっこ』でベタな設定が使われたワケは?
2017年7月9日(日)21時に同時スタートの二つの連ドラ、TBS系『ごめん、愛してる』とフジ系『警視庁いきもの係』の初回を連続してみてびっくりしました。主人公が「頭に銃弾が残っている男」という設定がかぶっていたのです。『ごめん、愛してる』の岡崎律(長瀬智也)はボディーガード中に撃たれ、残った銃弾によりいつ死ぬかわからない。『警視庁いきもの係』の須藤友三(渡部篤郎)は捜査一課の刑事だったが事件で撃たれて、リハビリのため「いきもの係」に配属されるというもの。それぞれの原作を確認すると『ごめん、愛してる』は原作の韓流ドラマどおり。『いきもの係』は原作小説第一作『小鳥を愛した容疑者』を読むと頭を撃たれてはいるけど、銃弾は残ってはいません。おそらく『いきもの係』が『ごめん、愛してる』を意識して設定を寄せてきたのでしょう。
「頭に銃弾が残っている」というのは現実社会ではめずらしい出来事ですがドラマなどフィクションではありがちな、いわゆる「ベタ」な設定です。同じようなレベルで記憶喪失の設定があります。これを『ひよっこ』で父・谷田部実(沢村一樹)が失踪した原因として使ってきました。
大きな伏線としては二点。第73話でひったくり犯に金を奪われ「家族のための金なんだ」と抵抗して棒で殴られていましたが、病院に行った形跡はなかったことが明らかに。これで家族を放り出したわけではないことがわかりました。第83話では実がすずふり亭前にあらわれて料理ショーケースをのぞいて去っていく姿が視聴者の前に。これで肉体的には健康であることが示されました。
金を取り戻すために犯罪に関わってしまい、家族のもとに帰れなくなった可能性も考えられますが、悪い人がほとんど出てこない性善説的作風の岡田惠和脚本にはなじみません。やっぱり記憶喪失か、でもそれもベタすぎるよなー、というのが大方の予想でした。
過去には和久井映見も菅野美穂も
先の『警視庁いきもの係』は部分的記憶喪失だし、先日まで放送の『フランケンシュタインの恋』も人間だった時の記憶を失っていました。連続テレビ小説・朝ドラ史上では『鳩子の海』(1974~1975)が最初。広島の原爆など戦争の影響で記憶喪失になった戦災孤児・鳩子が自分の出自を追い求めるストーリーでした。また『澪つくし』(1985)はヒロイン・かをる(沢口靖子)の夫・惣吉(川野太郎)が海で遭難。数年後、再婚したら記憶喪失状態で見つかって……という正統派メロドラマ展開。
『ひよっこ』の出演者でいえば『もう一度君に、プロポーズ』(2012)で和久井映見は病気で夫の記憶を失ってしまうし、岡田恵和脚本で菅野美穂が記憶喪失したフリをする『あいのうた』(2005)というのもありました。
ベタな設定の裏に描かれる戦争のテーマ
そのベタすぎる記憶喪失を使ってきたわけですが、『ひよっこ』制作統括の菓子浩プロデューサーによると戦争のトラウマが原因の記憶喪失が戦後に多く見られたという医学的根拠があるんだそうです。患者数の統計などはなさそうなのでフィクションの分野での盛り上がりで見ると、第二次世界大戦中から直後ぐらいに記憶喪失ものの名作が生まれています。代表作とされるのは『心の旅路』。ジェームズ・ヒルトンの原作が1941年で翌年に映画化。第一次大戦の砲撃で記憶喪失になったイギリス陸軍の大尉が踊り子・ポーラと恋に落ちて子どもも生まれる。しかし交通事故にあい、記憶が戻ったかわりに記憶喪失になった後の記憶をなくしてしまう。この後、二人の愛が甦るまでを描いた作品です。
『チャップリンの独裁者』は1940年公開。独裁者とそっくりのチャーリーは第一次大戦従軍中の墜落で記憶喪失になっています。戦争が原因ではありませんがヒッチコックの『白い恐怖』(1945)もあり、このころ記憶喪失設定の映画が多数制作されています。日本だと『鳩子の海』が戦争の影響ですね。
『ひよっこ』も時代は太平洋戦争後約20年でベトナム戦争中。おじの宗男(峯田和伸)のビートルズ来日編などで戦争の傷跡を描いてきてきました。そのつながりを考えれば記憶喪失も単なるベタ設定とはいえないでしょう。
大きなストーリー展開で視聴率は最高潮に
しかしビートルズ来日編の第13~14週で週間平均20%を突破。さらに父・実再登場の第17~19週で21~22%と最高潮に達しました。やはり細やかさもいいのですが、一般的な人気が得られるのはストーリーの大きなうねりです。
ひよっこ週間平均視聴率
実も茨城に帰って落ち着いたようで、これからみね子はどう進んでいくのか?今後の展開も楽しみです。