建築家・設計事務所/建築家住宅の実例

変形地に建つ職住一体の家[唐原の事務所併用住宅]

福岡市北部の郊外に完成した、福岡県と横浜に事務所を構える建築家・矢作昌生さんの自邸です。「職住一体」をコンセプトに3階建ての鉄骨住宅を自ら設計することで、家庭生活と仕事の両立を実現させた理想的な住まいです。

執筆者:川畑 博哉

建築家・矢作昌生さんの自邸

2017年の春に完成した建築家・矢作昌生さんの自邸は、博多まで電車で15分、最寄りのJRの駅からも徒歩3分という利便性の良いエリアに建っています。目の前を小川と鉄道が走り、周辺には農地が広がる豊かな自然が残っています。

そのような恵まれた環境を住宅に取り込むことに加え、職住一体の距離感、仕事と子育て、家族の変化、建築の長寿命化、エネルギーを極力使わずに快適に過ごすことなどをテーマにして、この家は設計されました。

4つの異なる表情をもつ家

外観
東南側の外観。赤茶色の外壁はアフゼリア材のスノコ張り。1枚単位での交換が可能。
入口
バルコニーの上の3階が宙に浮いているように見える西側の外観。
外観
3階がバルコニーの上に張り出したように見える北西側の外観。西側に海の中道線が走る。
外観
獅子頭のようなシルエットの東南側の外観。煖炉の煙突が立ち上がる。
外観
屋上テラスが見える南側の外観。道路からは裏側になるので、設備スペースとしている。
all photo by Koichi Torimura

最寄りの駅から歩いて行くと先ず目に入るのが、赤みがかった木の外壁の建物です。

建物は変形の土地のほぼ中央に配置し、住宅と事務所の入口を南北に分け、駐車場を7台分確保しながら、屋根を傾けて北側の隣家への圧迫感を最小限にするよう配慮しています。

外観からはとても複雑に見えますが、8本柱の単純なラーメン構造のメインフレームから、枝のように水平・垂直にブレース構造を拡張させることによって、見る角度によって表情が違うユニークな建物になったのです。

吹抜けのLDKと電車を眺めるバルコニー

LDK
階段を中心に南側にバルコニー、北側にキッチンが配置されている。
LDK
3階からキッチンとダイニングを見下ろす。東側のストーブはHwam製(Classic 4)。シーリングファンが天井から風を送る。
LDK
3つ並んだ造り付けの子供達の勉強机。
台所
北側の長いキッチンカウンター。収納と共に建築家のデザインによる造り付け。カウンターのトップはステンレス。
バルコニー
海の中道線を眺めるリビングバルコニー。床はアフゼリア材。
all photo by Koichi Torimura

北側の玄関から2階に上がると大きな吹抜けの空間が現れます。ここが家族の生活の中心になるLDKです。床は厚さ1.5cmのムニンガ材のフローリングになっています。天井は最も高いところで約5mもあります。

鉄骨のメインフレームに挟まれた階段の東側には造り付けの本棚、西側には子供達の勉強机が並んでいます。キッチンカウンターは北側の壁に沿って横たわっています。

南側には川と鉄道を眺めるリビングバルコニーが続いています。夕方に窓をフルオープンにすれば、デッキチェアに座り行き来する電車を眺めながら寛ぎの時間を楽しむことができます。鉄道ファンならずとも羨ましい光景です。


3階に3つの寝室と屋上テラス

階段
部屋の中心を貫く軽快なスチール階段。
3階
階段を上がりきった手前と奥に家族の寝室が振り分けられている。
寝室
線路沿いの変形の寝室。奥にはトイレがある。
寝室
北側の寝室の窓から屋上に出ることができる。
屋上
北東側に伸びる屋上テラス。床は無塗装のアフゼリア材。
all photo by Koichi Torimura

3階は緩やかに分けた3つの寝室をできる限り南側に寄せて配置しています。

厳しい斜線や日影規制をクリアするために北側は勾配屋根とし、山並みの眺望を楽しむことができる北東側には、寝室から出入りする屋上テラスを設けています。


職住一体を実現するスタジオ

洗面室
洗面脱衣室。窓からランドリーバルコニーに出られる。
風呂
線路側に窓のあるバスルーム。
事務所
東南側に仕事机と横長の窓を開けたスタジオ。壁に沿った机は長さ約8.5m。天井は垂木現し。
事務所
窓をフルオープンにすると前面道路と一体になる。
事務所
ミニキッチン付きの打ち合わせスペース。
all photo by Koichi Torimura

2階の西側を占めているのはバスルームと洗面脱衣室。リビングバルコニーに生活感が溢れ出ないようにとの配慮から、バスルームで隔てるようにして、北西の角にランドリーバルコニーが設けています。

1階は矢作さんと4人のスタッフのワーキングスペースです。広さは約15帖。床はラフに使える土間コンクリートで、土やコンクリートの蓄熱性を利用したサーマ・スラブ暖房になっています。

真ん中に大きな作業机が置かれ、長手方向に一直線に並んだ長い机が造り付けになっています。階段下の収納の奥はミニキッチンのある約6帖の打ち合わせスペースで、スタッフの休憩や食事にも使われる多目的空間です。

自ら設計による職住一体の理想的な家を実現した矢作さん。この家をベースとして家庭生活と設計活動の両方を充実させることでしょう。これからの活躍が益々期待されます。

[唐原の事務所併用住宅]
所在地: 福岡県福岡市
構造・規模: 鉄骨造 地上3階
竣工年月: 2017年3月
敷地面積: 181.87m2
建築面積: 78.2m2
延床面積: 145.02m2
設計・監理: 矢作昌生建築設計事務所
設備設計: 構造設計 なわけんジム


矢作昌生[矢作昌生建築設計事務所]プロフィール

「常に真っ白な気持ちで建て主さんに向き合い、ご家族のライフスタイルや土地や地域の個性を読み解き、一見ネガティブに思えるような条件も、発想やデザインの力で魅力にしていけるような設計を心掛けています。」とのポリシーで、これまでに戸建て住宅や集合住宅を80件以上設計してきた中堅建築家です。

矢作昌生建築設計事務所
福岡事務所 Tel.092-719-0456
横浜事務所 Tel.045-834-5267
http://www.myahagi.com/

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            矢作昌生 [Yahagi Masao]


これまで登場した矢作昌生建築設計事務所の住宅

 

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