「四国まんなか千年ものがたり」の車両、車内の様子

「四国まんなか千年ものがたり」の編成

「四国まんなか千年ものがたり」の編成


「四国まんなか千年ものがたり」は、JR四国のキハ185系特急用ディーゼルカーを改造した専用車両(全車グリーン車なので「キハ」ではなく「キロ」と改称された)3両編成の列車である。それぞれの車両に愛称が付いていて、大歩危へ向かう場合、先頭の1号車が「春萌(はるあかり)の章」、2号車「夏清(なつすがし)の章/冬清(ふゆすがし)の章」、3号車「秋彩(あきみのり)の章」となる。

中間車両は白色

「四国まんなか千年ものがたり」の編成。反対側から眺めると中間車両は白色となっている


車体の色も車両ごとに異なり、1号車は春にちなみ、若葉をイメージして緑、3号車は秋の紅葉をイメージした赤みを帯びたオレンジ色である。面白いのは中間の2号車で、大歩危に向かって右側が夏をイメージした青、左側が冬の雪をイメージした白と両サイドで塗色が異なっているのが面白い。以上で、4色が使われ、四季を表しているのだ。

1号車の車内

1号車、春萌(はるあかり)の章 車内の様子


2号車の車内

2号車の車内はカウンター風


車内は、ゆったりと食事ができるようなテーブル席がメインで、4人席、2人席、1人でも利用できるような窓を向いたカウンター席と多様なシートが用意されている。シートの色は車体に合わせて1号車は草色、2号車は白のシートに青系統のクッション、3号車は赤みを帯びたシートと変化を持たせている。

3号車の車内

3号車、秋彩「あきみのり」の章は赤系統でまとめている


すべての車内に共通するのは古民家風の造りで、木組みの天井をガラス張りとして、一見すると二階建て風に見えるユニークなインテリアだ。列車内とは思えない空間は心地よい旅を演出してくれる。

古民家風の天井

古民家風の天井には座席が映し出される
 

「しあわせの郷紀行」、旅のはじまり


車内へ

いよいよ車内へ(大歩危駅にて)


多度津行きの列車「しあわせの郷紀行」は大歩危(おおぼけ)駅が始発だ。ドアは1号車、3号車に1ヶ所づつあるのみ。ホームのドア前には赤いカーペットが敷かれ、アテンダントさんが笑顔で迎えてくれる。チーフと思われる男性を中心に、女性スタッフが数人乗務し、温かいもてなしを受けた。私が予約した席は2号車。窓を向いたカウンター席だった。

大歩危付近の車窓

大歩危付近の車窓


定刻14時20分に大歩危駅を出発。駅の係員や地元の人たちが手を振って見送ってくれる。進行方向左側には吉野川の渓谷があり、対岸にすぐ現れる「妖怪屋敷と石の博物館」のベランダからも関係者が並んで手を振ってくれた。気づきにくいけれども、アテンダントさんが放送で案内してくれるので、車内からも大勢の乗客が手を振り返す。こうした交流は楽しいものだ。

大人の遊山箱

「おとなの遊山箱」


詰所で忙しく作業していたアテンダントさん達が、一斉に動きだし、各テーブルに食事を配り始める。木造りの箱を一人にひとつづつ置いて行くのだが、置かれたのは三段の重箱だ。これは、地元徳島県の子供たちが野山に遊びに行く時に親から渡されたお弁当箱を模したもので、遊山箱と呼ばれている。乗客は大人が主体で平均年齢が高そうなので、名付けて「おとなの遊山箱」。

開け方のコツをアテンダントさんから教わり、その通りに出してテーブルに並べる。地元にある日本料理店の料理長監修の料理で、手まりご飯、細巻き、徳島産鰆(さわら)の柚庵焼、れんこんフライ、煮物などがぎっしり詰まっている。午後2時を過ぎての出発でお腹が空いており、大変美味しく食べることができた。

「大人の遊山箱」の中身

「おとなの遊山箱」の中身


列車は、特急にもかかわらず、実にゆっくりと進んでいく。数分走ったのちにたどり着いた最初の駅・小歩危駅で早くも停車。ただし、ドアは開かず、単線のための行き違いで高知方面へ向かう定期の特急列車を待避した。渓谷側のホームだったので、絶景観賞タイムでもある。

小歩危付近の車窓

小歩危付近の車窓


動き出したと思ったら、次の阿波川口駅でも停車する。誰かが、このような特急列車のことを「特に急がない列車」の略称だと言っていたが、それは正しいかもしれない(笑)。

阿波川口駅で最初の途中下車、その後、阿波池田駅へ


たぬきがお出迎え

阿波川口駅では、たぬきがお出迎え


阿波川口駅ではドアが開く。食事を中断するために渡された大きな紙を広げて埃がかぶらないようテーブルを覆い、外に出てみる。ホームに降り立つと、狸の着ぐるみ2匹が歓迎してくれる。この駅のある山城町(徳島県三好市)は、狸伝説の里として有名なので「狸」が登場したというわけだ。小さな駅舎を出ると駅前広場があり、そこでは列車到着にあわせて出店がオープン。和菓子や柚子酢などの地元名産品や狸伝説の冊子が飛ぶように売れていた。

デザートは和菓子と紅茶

デザートは和菓子と紅茶


15分程の停車時間が終わり、車内に戻るとゆっくりと発車。吉野川の車窓が続くけれど、次第に穏やかな盆地の様子へと変化する。あまりにも悠然と進むので、早くも食事が終わり、デザートの時間となる。和菓子とドリンクのセットで、コーヒーではなく紅茶を注文したら、伝統工芸品のようなつくりのティーカップに入っていた。大谷焼という徳島の名品とのことで6種類のカップが用意されている。

車内販売

車内販売のワゴンがまわってきた


一息ついていると、アテンダントさんがワゴンを押してまわってきた。車内販売もあり、沿線の名産品や列車関連グッズが目に留まった。せっかくなので、記念にと、カラフルな車両イラストが描いてあるクリアファイルと缶バッジを購入した。

阿波池田駅

かずら橋のミニチュアがホームにある阿波池田駅


山の中に開けた交通の要衝阿波池田駅に到着。ここでも8分程停車となる。ドアが開くのでホームに降りて、近隣の名所となっているかずら橋のミニチュア模型を眺めたりする。池田と言えば甲子園の常連、高校野球の強豪池田高校のある町である。別のホームで列車を待っている高校生は、その生徒かもしれない。

スイッチバックのある「秘境駅」坪尻駅でも途中下車

吉野川を渡る

吉野川を渡ると、山越え区間へ


阿波池田を出発し、徳島線が分岐する佃駅を通過すると、列車は大きく左にカーブして吉野川を渡る。川の様子をじっくり眺めさせてくれる配慮か、徐行しながら進む。大歩危駅から1時間以上眺めてきた吉野川とは、これでお別れである。

鉄橋が終わると、列車は左へ左へと曲がっていく。地図で見るとU字型にカーブしたことになり、左下の車窓を流れる吉野川の対岸には先ほど通過したばかりの佃駅が見える。列車が走っていますよ、とアテンダントさんが教えてくれたので、目を凝らすと2両編成のディーゼルカーが右から左へと進んでいる。この列車を追いかけているみたいだが、佃駅から徳島線に乗り入れて分かれていくローカル列車のようだった。

坪尻駅で途中下車

「秘境駅」坪尻駅で途中下車


箸蔵(はしくら)駅を通過すると、右に曲がりながら山越えに差し掛かる。いくつものトンネルをくぐり抜ける間に先頭車両に移動して、運転台の脇から前方に注目する。鉄道ファンらしき乗客が何人も集まってきた。

いくつ目かのトンネルを抜けると、本線からそれて左に分岐する線路へと入っていく。山の中に一本だけホームがある。四国で数少ないスイッチバックのある坪尻駅である。まわりには人家が見当たらず、道路もないのでクルマでは駅前に入ることができない「秘境駅」だ。特急列車が停車するとは異例中の異例である。もちろん見学のための停車なのだ。

「日本屈指の秘境駅へようこそ」の横断幕もあるけれど、無人駅なので出迎える人はいない。普段は、ほとんど利用客のいない秘境駅も、このときばかりは大勢が降り、つかの間の活況を呈する。駅前には茂みがあり、けものみちが最寄りの道路へと続いている。「まむしに注意」との看板が2枚も立ち、駅から歩きだすのは命がけかもしれない。

スイッチバックを体験

坪尻駅ではスイッチバックを体験


数分の停車ののち、全員が乗車したことを確認して発車。列車はバックして本線を跨ぎ、別の線路に入り再び停車。運転士が車内を移動して、最後尾から先頭の運転台に戻ってくる。安全を確認した後、再び発車。今度は、さきほど進入した線路ではなく、右側の本線を走り、左下に坪尻駅を見下ろしながら勾配を駆けあがっていく。まもなく四国の背骨のひとつである讃岐山脈を貫く長大な猪鼻トンネルを抜けると香川県に入っていく。

香川県に入り、巨木見物と琴平駅でのサービス


たぶの木

讃岐財田駅では、たぶの木を見物


香川県最初の駅讃岐財田(さぬきさいだ)でも停車。駅前に立っている樹齢700年を越えると言われる巨大な「たぶの木」がパワースポットでもあるので見に行く。まもなく高知方面への特急列車が通過するとのことで、車掌さんやアテンダントさんが構内の踏切で警備にあたってくれた。

特急通過後、たぶの木の見物に行った人が全員戻るのを確認して出発。列車は次第に山里から平地へと移っていく。農家の屋根の下に位置する三角の部分に「青いライン」が描かれているのがこの地域の特色である。家を火災から守るおまじないのようなものなど諸説あるようだが、正確な意味は分かっていないようだ。また、夏にはひまわり畑が目に留まり、その時期には徐行運転も行うことになる。
琴平駅の専用待合室

琴平駅の専用待合室でフェアウェルサービス


16時21分、華やかなミュージックホーンを鳴らしながら琴平駅に到着。言わずと知れた「こんぴらさん」こと金刀比羅宮の最寄り駅である。ここでは21分も停車する。スタッフの半数はここでお別れ、ここで下車する人もいる。その前に、ホームの隣接した乗客専用の待合室へ案内され、フェアウェルサービスとしてシャーベットが配られた。部屋の中には大きな木をデザインしたオブジェが飾られているが、これは先ほど停車した讃岐財田駅のたぶの木をイメージしたもので、「四国まんなか千年ものがたり」のシンボルマークともなっている。

琴平駅駅舎

改装工事が終了し美しさを取り戻した琴平駅駅舎


約3時間の旅の終点・多度津駅

飯野山

讃岐富士とも呼ばれる飯野山が見えると旅もおわりだ


岡山行き特急「南風」に抜かれ、各駅停車が出発したあと、列車はゆっくりと琴平を後にした。スタッフ、乗客の半数が下車し、さびしくなった列車は、讃岐富士を眺め、夕陽を浴びながらのんびりと終点多度津へと向かう。
多度津駅に到着

終点・多度津駅に到着


予讃線が合流する多度津は、四国鉄道発祥の駅であり、一大ジャンクションでもある。ここで岡山駅や高松駅、さらには松山方面へと乗り換えて旅を続ける乗客に、アテンダントさんは一人ひとりに挨拶して旅を締めくくってくれた。普通の特急列車なら1時間ほどしかかからない多度津~大歩危間を3時間近くかけてのんびり走る観光列車「四国まんなか千年ものがたり」。美味しいものを食べ、息をのむ絶景を眺め、ユニークな小駅で途中下車を楽しむ旅は、鉄道旅行の魅力をあますところなく味わえる充実した時間であった。

アテンダントさん

アテンダントさんがホームでご挨拶


高額で特別なクルーズ列車が目につく昨今、ほどほどのお値段の観光列車「四国まんなか千年ものがたり」は、おススメの列車である。なお、乗車券、食事券は、全国のJRきっぷ売り場で購入可能だ。

「四国まんなか千年ものがたり」
運賃=大歩危~多度津 1280円
特急料金(全車グリーン席) 2460円
食事代(税込)
大歩危⇒多度津 「しあわせの郷紀行」4500円
多度津⇒大歩危 「そらの郷紀行」5500円(さぬきこだわり食材の洋風料理)
「四国まんなか千年ものがたり」公式サイト 

取材協力=JR四国



※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。