映画ファン好みな作品が並ぶ「キネマ麹町」とは?

2017年4月の番組改編で「日曜洋画劇場」が終了するなど、近年テレビの地上波で映画を観る機会は減少傾向にあります。また、たまにテレビ放送される映画もメジャーなタイトルが多く、「知らない映画に出会える喜びがない」という声も少なくありません。

とは言え、“テレビで映画に出会う”というニーズがないかといえば、そうとは言い切れないでしょう。“午後ロー”の愛称で親しまれているテレビ東京の「午後のロードショー」はツウな映画ファンから高い支持を得ている、という状況もありますし、深夜放送帯に目を向ければ意欲的な映画番組枠もあります。地上波テレビで映画鑑賞――による映画との出会い方は、いまなお健在と言えるでしょう。

そんな状況の中、東京エリアを放送対象地域とするTOKYO MXのテレビ映画枠「キネマ麹町」は、“毎月特集テーマを決めて、初心者からマニアックな映画ファンまでご満足いただける上映を目指している”という触れ込みで、午後ローに勝るとも劣らないラインアップを誇っています。

例えば、2012年の8月の特集は“夏!格闘技特集”で、その放送の中には(失礼ながら)メジャーな映画とは言い難い『いかレスラー』をラインアップ。ほかにも“香港映画特集”や“「がんばれ!おじいちゃん、おばあちゃん」特集”、“男も惚れる!ブラッド・ピット”など……特集および放送される映画がとにかくユニークなのです。
「キネマ麹町」の公式サイトでは、過去の上映作品および特集を2012年8月まで遡って見ることができる。

「キネマ麹町」の公式サイトでは、過去の上映作品および特集を2012年8月まで遡って見ることができる(画像は「キネマ麹町」公式サイトより)

しかし、「キネマ麹町」について色々調べてみても……正直に申し上げて、番組が盛り上がっているとはいえず、知名度はお世辞にも高いとは言えません。果たして、この映画ファンに刺さる番組はどんな人たちが作っているのか? そして、どのような信念を持って番組作りがされているのか? そんな疑問を解決すべく、同番組の“館長”にメールインタビューを行いました。


こだわりは、とにかく「観たい!」と思う作品を選ぶこと

――いきなりストレートな質問ですが、「キネマ麹町」とはナニモノなのでしょうか。

キネマ麹町館長(以下、館長) 地上波の映画放送枠が少なくなってきている中で、レギュラーの映画枠を持つことに一定の需要があるのではないか? という狙いに加えて、キー局さんではなかなか放送されないであろう作品の選定をする「MXらしさ」――という思いからスタートしたのが我々「キネマ麹町」です。番組名は“麹町にある映画館”(編注:TOKYO MXの社屋は東京の麹町にある)というコンセプトから決まりました。
「キネマ麹町」はそれまであった映画枠の「シアター092」をリニューアルし、2014年9月よりスタートした

「キネマ麹町」はそれまであった映画枠の「シアター092」をリニューアルし、2014年9月よりスタートした


ただ、じつはTOKYO MXの映画番組枠は「キネマ麹町」が初めてではありません。前身に当たる「シアター092」という映画番組枠が2011年4月から放送されており、その後2014年9月より現在のキネマ麹町へリニューアルしました。

ちなみに「シアター092」の時代は“フランソワ・トリュフォー特集”、“チャップリン特集”、“ウディ・アレン特集”、“京マチ子特集”、“日本ミステリー特集(『犬神家』、『金田一』シリーズなど)”、“80年代女優特集(『セーラー服と機関銃』、『黒いドレスの女』など)”などを放送してきました。いまの「キネマ麹町」のラインナップと比べると名画系が非常に多くなっていて、コアな映画ファンの方々向けというイメージが強かったですね。


――「キネマ麹町」の番組コンセプト、ターゲット、「これだけは譲れない」というポイントを教えてください。

館長 「作品の規模にとらわれず、担当者自身が観たい!」と思った作品を放送することです。劇場公開されていない作品にも観応えのあるものはありますし、何度も放送されている作品にも、改めて観ることでの気づきがあると考えています。

それ以外に細かいこだわりとしては、テレビ放送なので、途中から観ても話がわかりやすくて面白いものや、一瞬を切り取っても画面に引き込まれてしまうような画力の強い作品を選ぶこと。

しかし、第一に重要なのはやはり、とにかく「観たい!」と思う作品を選ぶことです。


――「キネマ麹町」は月ごとに設定しているテーマ、チョイスする作品のセンスが光ります。これらはどのような流れで決めているのでしょうか? またどれくらい先まで予定は決まっているのでしょうか。

館長 各月ごとにテーマを決めて、作品群に厚みを持たせるようなチョイスをしています。以前の例で言いますと、季節のイベントなどからテーマを決めていました。また、配給いただく各社さまと打ち合わせをしながら決めているところもあります。会社さまごとに得意のジャンルがあるので、皆様に育てていただいていると感じています。また、先の予定は半年先を目途に決めています。


――毎月のラインアップを見る限り、編成部の皆様はかなりの映画通と存じます。スタッフ構成と、プロフィールを教えてください。

館長 ときどき変わりますので、あくまで時点のスタッフとしては、私(館長)のほかに2名の男性スタッフ、計3名で番組の編成を行っています。各メンバーのプロフィールは、本人たちに聞いてきました。
かなり熱量の高い映画好きが運営している「キネマ麹町」。ちなみに、予告編をスタッフ自身が手掛けることもあるという。

かなり熱量の高い映画好きが運営している「キネマ麹町」。ちなみに、予告編をスタッフ自身が手掛けることもあるという。


【館長】
映画よりもテレビドラマの方が好きなタイプ。基本はスタッフの言いなり。フェイバリット映画は『トイストーリー』シリーズ。子どもに観せたい史上最高の作品です。


【スタッフA】
映画館の雰囲気が大好き。居るだけで癒されます。また小学生のころ、木曜洋画劇場で映画の魅力を感じて以来、地上波映画の大ファン! 地上波映画の魅力を「キネマ麹町」を通していろいろな人に伝えたい一心でがんばっています。誰よりも「キネマ麹町」の大ファン!

フェイバリット映画はたくさんありますが……『007』シリーズはいつ観てもワクワクします! 各ボンド役のカッコよさはいつ見ても真似したくなるし、自分のヒーロー的な存在。ちなみに歴代ボンドではロジャー・ムーアとピアース・ブロスナンがいちばん好き! それ以外に『トランスポーター』と『TAXi』シリーズも大好きです。街中を猛スピード走るドライブシーンや『トランスポーター』シリーズにおけるジェイソン・ステイサムの筋肉美、スタイリッシュな戦い方が大好きで何度も観直しています。男の憧れです。『TAXi』以外にもリュックベッソンの製作、監督した作品はどれも好き! 『レオン』、『ニキータ』、『ダニー・ザ・ドック』!


【スタッフB】
映画はジャンルを問わず広く浅く。立川シネマシティで見た『マッドマックス 怒りのデスロード』の極上爆音上映はキメまくりでその余韻が今でも残っています。

フェイバリット映画は『ドッジボール』。『ナイト ミュージアム』シリーズのベン・スティラーがライバル役で登場する2004年(日本公開は2005年)のスポーツムービーです。「ドッジボールは19世紀の中国のアヘン窟でアヘン中毒者たちが死者の生首を投げあったことから始まった」や「車が避けられればボールも避けられる」などギャグ満載なのに、意外に王道スポ根なストーリーのギャップが大好きで2年に1回ぐらい観てしまいます。


「キネマ麹町」の特集へのこだわり

――特集についての質問です。ほぼ毎月、何かしらの特集を組んで作品を展開していますが、そのなかでもっとも反響があったものはなんでしょうか?

館長 2015年1月に特集したアクション特集で、『山猫は眠らない』シリーズ3作品をしたときですね。同作は当時、あまり地上波で放送されていなかったこともあり、かなりの反響がありました。

最近では、2017年4月に放送した“ドニー・イェン特集”もご好評いただけました。『イップ・マン』シリーズ最新作の公開に合わせて放送することができたのもよかったですね。

そのほかですと……2016年12月の“ゾンビ祭り!”ですね。同時期に『バイオハザード:ザ・ファイナル』が公開されるのに合わせて、地上波ではなかなか放送できないような作品を揃えてやってみたいという気持ちで特集を組みました。
クリスマスにかなり攻めた特集を展開。支持を得た(画像は「キネマ麹町」公式サイトより)

クリスマスにかなり攻めた特集を展開。支持を得た(画像は「キネマ麹町」公式サイトより)


地上波で“ゾンビ物”と言うと、どうしてもメジャー作品だけになってしまいますが、この特集では我々らしいB級、C級のゾンビ作品(編注:具体的には『ゾンビ・ウォー101』、『ZMフォース ゾンビ虐殺部隊』、『人造人間13号』)を放送することができてよかったです。

それと、クリスマスにゾンビ映画を放送するというギャップもTwitter上で反響がありました(笑)。たとえば……
「クリスマスに『人造人間13号』を放送するMXが好きだー!」

「本日はXmas!皆さんにゾンビをお届け!、番組表からこれなのでサムズアップ必至である」

「クリスマスの昼間にこれを放映するTokyo MX。モテない奴がチョイスした感が最高じゃない?」

「キネマ麹町はホントいいセレクトなんだよなー」
……など、よろこんでいただけた反応が多くて本当にうれしかったです。


――逆に「これは失敗したな」という特集はありますか?


館長 「キネマ麹町」として名前をリニューアルした1周年記念として、2015年9月のシルバーウィークに『アンダーワールド』シリーズ4作を、2日間午前と午後に分けて一挙放送したんです。さすがに2日間でシリーズ4作品はやり過ぎたかなと思いました。なにせ、連休中に続けて家にいらっしゃる方がどれだけいるんだ? って話ですから(笑)。


――2016年から定期的に、“夜キネマ”と銘打ってマカロニ・ウエスタンを上映しています。地上波でマカロニの名作が観られるのは大変貴重な機会だと思います。

館長 ある一定の年齢層に“グッとくる”作品を探していたところ、地上波では最近見かけないマカロニ・ウエスタンを紹介してもらえたのが、“夜キネマ”を始めたきっかけです。お酒を飲みながら、よい音楽と映像に酔いしれるイメージで、ゴールデン帯に放送するのも面白いのでは? と期待して放送しております。

今後はマカロニに限らず、ゆったりと観られて劇中BGMにも懐かしさを感じさせるような作品を上映してみたいと思っております。たとえば、2017年5月20日の午後7時からは『バグダッド・カフェ ニューディレクターズカット版』を放送しますよ。
夜キネマのラインアップは今後、マカロニ以外も展開予定(画像は「キネマ麹町」より)

夜キネマのラインアップは今後、マカロニ以外も展開予定(画像は「キネマ麹町」公式サイトより)


――スタッフ間で“意見が割れた”特集、あるいは作品はありますか?

館長 先にもご紹介した“ゾンビ映画特集”は、そもそもやるのかやらないか? やるとして、どこまで編集するか? などで意見が割れました。ゾンビ映画を1ヵ月間放送するなんてもちろん初めてですから、どのような反響につながるのかまったく予想できませでしたからね。

カット編集についても、ここまではOKでここはNG――“頭が飛ぶシーン”や“ゾンビの頭に爆弾がついて飛ぶシーン”、“内臓が出るシーン”などはダメかな――というやり取りをスタッフ間で重ねました。最終的には、ひとりのゾンビ映画愛のあるスタッフに押し切られた形です。結果はさきほども述べた通り、とても反響があり、やってよかった特集でした。


――やりたかったけどやれなかった特集、上映したかったけどできなかった作品があれば教えてください。

館長 スティーブン・セガール最新作の特集ですね。やはり、テレビ東京の「午後のロードショー」様が先にやられますので(笑)。あとは、描写がキツめのホラー映画の特集は放送時間的に難しいですね。


――今後やってみたい特集、上映したい作品があれば教えてください。

館長 映画祭とコラボレーションした企画をやってみたいです。前年度に何かしらの賞を受賞した作品や、当年度にノミネートされた作品を放送してみたいです。

具体的な作品やジャンルとしては、『ビバリーヒルズ・コップ』、『ダイ・ハード』など80~90年代アメリカのアクションなどを、懐かしい吹き替え版で放送したいです。

あとはジャッキー・チェンやブルース・リーなどのメジャーカンフースターの作品。任侠映画、インド映画、『メジャーリーグ』シリーズ、80年代アメリカ映画などなどなど……想像するだけでワクワクする作品ばかりです。


――月ごとの特集、または放送する映画のリクエストは受け付けているのでしょうか?

館長 実現できるかはさておき、首を長くしてお待ちしています! 2016年には、アンケート結果を踏まえて音楽特集やサスペンス特集に挑戦した実績もあります。TOKYO MXの公式Twitterなどで映画の告知もしていますので、リツイートなどでリクエストいただければ! 我々の知らないおもしろい作品をぜひ教えてください!


特集だけでなく、放送のスタイルにも強いこだわり

――テレビで映画放送をする場合、色々と苦労や制約もありそうです。

館長 私の趣味趣向もあるのかもしれませんが……おもしろくて尖った作品ほど、レーティングでPGやR指定がついているのは残念ですね。と言うのも、「キネマ麹町」の放送枠は基本的に日中なので、そういった作品を放送するが困難になってしまいまうのです。

暴力表現や性的描写などテレビ放送用に編集をかけることがありますが、それでもオリジナルのよさを消さないように、また視聴者の興を削がないように、苦労しながら編集点を見極めるなど、イメージとの葛藤はつねにありますし、場合によっては放送を諦めることもあります


――「キネマ麹町」では本編開始からエンドロールまでノーカットで放送することもあります。テレビ放送ではかなり珍しいことですが、やはり強いこだわりがあるのでしょうか。

館長 エンドロール終わりまでご覧いただく方ばかりではないと思いますが、少しでもほかの地上波さんとは違うことをしたいですので! 映画館の余韻のようなものを少しでも感じていただけるよう、エンドロールが放送できる状態になっている作品は基本的にすべてノーカット放送したいと考えております。

また、CM無しのノーカットで放送したことも何度かあります。「テレビの中の小劇場」を目指してがんばっています!


今でこその、地上波放送の意義とは

――「日曜洋画劇場」が2017年4月の番組改編に伴い消滅し、惜しむ声が多くあがりました。HuluやNetfllixなどの配信サービスが台頭しているという現状もありますが、それでも“知らない映画に巡り会える”、“映画に興味がなくても映画の面白さに気づける”などにおいて、地上波で映画を放送する意義はあると考えています。それについてはどうお考えでしょうか。

館長 意義や大義などではなく、「キネマ麹町」は気楽に観てもらえる映画枠にしたいと思っています。テレビにかじりついて観なくても、そのおもしろさが伝わるような作品をチョイスして、軽い気持ちで映画の世界に入ってもらいたいと考えています。我々が目指すところは、まずそこかと。流し見でOKなのです! もちろん、作品へのリスペクトは忘れていませんよ!!

大きな望みとしては、「キネマ麹町」枠で出会った作品を「もう一度しっかり観たい!」と思ってDVDを借りに行っていただくとか、同じ役者さん、監督さん作品に手を広げてもらい劇場に足を運んでもらうとか、木曜洋画劇場、日曜洋画劇場などのように「今週の『キネマ麹町』は何を放送するのかなぁ?」とワクワクしていただくとか……そんなことになったら幸せです


――ちなみに「午後ロー」に対してはどのような思いがありますか?

館長 ひとことで言えば“尊敬”! キャッチの部分やHPの作りなどいつも参考にしていますし、イチ映画ファンとして放送を楽しみにしています。映画熱をガツガツ盛り上げていただき、それに乗っからせてください(笑)。

ただ、ひとつ言わせていただければ……「セガールの最新作をやらせてほしいなぁ」。あと、「ドニー・イェンは取らないでほしいなぁ」と……(笑)。


――今後の特集ラインアップについて決まっている範囲で教えてください。

館長 2017年5月は、MXで放送初のヤンキー系映画『ガチンコ』や、ミニシアター系の名作『バグダッド・カフェ』、6月以降は”マカロニ”あり、またまた、ドニーさんの映画や、サモ・ハン・キンポーの映画! 夏は邦画を厳選して放送する予定です。
今後も「キネマ麹町」らしい作品の放送が予定されている(画像は「キネマ麹町」公式サイトより)

今後も「キネマ麹町」らしい作品の放送が予定されている(画像は「キネマ麹町」公式サイトより)


――「キネマ麹町」を現在楽しんでいる方、またこの記事をきっかけに「キネマ麹町」を知った方、それぞれにメッセージをお願いします。

館長 まだまだ、認知度は低いですが、「こんなおもしろい作品を放送している映画枠は何だろう?」と思ってもらえる「キネマ麹町」にしていきたいです。リクエストなどいただきながら皆様といっしょに育てていきたいです!


「キネマ麹町」は映画への愛にあふれた番組だった!

いかがでしたでしょうか? 「キネマ麹町」のスタッフは、ユニークなラインアップながら(だからでこそ)映画への愛が半端なものではないことがわかっていただけたでしょうか。

筆者が感動したのは、エンドロールがある映画はそのすべてを放送し、時にはノーカットで放送するなど、映画をまるごと楽しみ、余韻にも浸れるようなこだわりを持たれていること。普通に考えればCMを多く放送したほうが利益は上がるのにそこまでのことをしてくれるなんて!

配信サービスがしのぎを削り、スマートフォンでも気軽に映画が観られるようになった今でこそ、こうした「軽い気持ちで知らない映画に触れられる」地上波放送は貴重です。ぜひ、軽い気持ちで「キネマ麹町」を観てみて、映画の世界に入ってみてください!


【キネマ麹町 番組概要】
スクリーンMX1:おもに、土日の夜に「MX1」で放送。
スクリーンMX2:おもに、土日の昼に「MX2」で放送。
詳しい放送スケジュールおよび、視聴方法は公式サイトをご確認ください。
キネマ麹町公式サイト



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