食と健康

栄養学的には同じ?オーガニック食品・有機栽培とは

【管理栄養士が解説】スーパーの食品コーナーなどでも見かける「オーガニック」「有機栽培」「自然派」表記の野菜や肉。他の商品より身体によく健康的なイメージがあると思います。中には農林水産省によって「有機JAS」マークで認定されている商品もあります。しかし栄養学的にはそうでないものとほぼ同じと言われています。これらの商品の成り立ちと、健康的な食生活の考え方を解説します。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

オーガニック食品・有機栽培とは

有機野菜

有機野菜は身体によいと考えられています。有機野菜を選べば本当に安心なのでしょうか?

「オーガニック食品は健康によい」というイメージがあると思いますが、実はオーガニック食品は、「食べる人の健康」という視点から作られたものではありません。オーガニック食品を選ぶことは決して悪いことではありませんが、成り立ちについて正しく理解しておきましょう。

オーガニック食品の始まりは、少し遡りますが、第二次世界大戦後の日本から見る必要があります。焼け野原から復興し、高度成長期に入った日本では、「機械化、化学化、大規模化」を軸に近代農法が盛んになるとともに、工業も飛躍的に発展しました。人々の生活は格段によくなったと思われましたが、一方で環境破壊による大気汚染、土壌汚染をはじめ、水俣病、イタイイタイ病など深刻な健康被害を生み出してしまいました。

その状況を変えようと立ち上がった人たちの中から、環境を守るためにと有機農業を始めた人たちがいます。これが評判を呼んで徐々に広まり、現代のオーガニック農法につながっています。

この流れで分かることは、「オーガニック」のそもそもの目的は「化学肥料や農薬を使わないこと」「食べる人に健康に良い野菜を提供すること」ではありません。環境破壊から自然を守るため、すなわち人間が自然とともに「共生」するために、自然の有機肥料を使い、田畑にいる他の生物と命を共有していくことが目的です。

有機肥料を使って農産物を栽培するようになったこと、もともと自然にあるものを使って栽培することが、健康的な取り組みとしてその後も好意的に受け止められた、というのが正しい流れになるかと思います。「健康のために有機栽培を始めよう」と考えられたわけではないのです。

農林水産省による有機JASマークとは

この自然への取り組みは国政でも評価され、農林水産省によって「有機JASマーク」が制定されることとなりました。登録認定機関による検査を受けて合格した事業者の商品にのみ「有機JASマーク」をつけることができます。

もちろん、この検査に合格していない事業者が「有機」「オーガニック」など紛らわしい表記をすることは法律で禁止されています。有機栽培やオーガニック食品を選びたい場合は、目安にするとよいでしょう。

自然派、オーガニックなら身体にいいの?

このように国による法律で守られているのだから、やはり「自然派」「オーガニック」は身体にいいのではないかというと、決してそうとは言い切れません。あくまで自然派・オーガニックは「自然とともに生きる」ために始まった活動。栄養学的にも、それを口にする人間の身体のために始められた活動ではありません。

さらに、植物は根から水分や窒素、リン酸、カリウムを主体とした「無機の栄養素」を取り込んで成長します。そのため、植物に与えた有機肥料は一旦、土壌の中で無機質に分解され、その後、植物が吸収することになります。遠まわしではありますが、何が言いたいかというと、一般の無機肥料でも有機肥料でも植物が吸い込むときには同じ状態になっているということです。

そのため、オーガニックとオーガニックでない植物の栄養素には、栄養学的には大きな差はないといわれています。

ただ、1点違うことがあります。仮に食べた人間への栄養面での直接的な影響は同じであったとしても、環境破壊が少ないオーガニックな方法で栽培された食べ物を食べることは、長い目で見ると環境を守ることにつながり、間接的に自分の身体を守ることにつながります。何よりも子どもたちにとって、オーガニックは「自然との共生」、言い換えれば「食物連鎖」などを学ぶための絶好の機会にもなります。オーガニックなものを選ぶことは「食育」の一環と考えるのもよいのかもしれません。

旬の食べ物を新鮮なままいただくことこそオーガニック

畑の大根

旬の野菜を旬のときに食べるのも「自然との共生」につながります。

以上のように、自然の食物連鎖を大切に守ることがオーガニックの趣旨ですので、この趣旨に添えば、「オーガニック」と表記された商品を購入することだけが健康的で「自然」な生き方というわけではありません。

畑から採れたままの野菜を食べる、海から獲れた魚を食べるなど「自然を感じる」ことも大切な食育です。

現在はハウス栽培も盛んになり、ほぼ1年中、どんな野菜も手に入るようになりました。しかし、日本には四季があり、その季節折々の食材があります。春には春が旬の野菜や魚があり、夏には夏の旬の野菜や魚があります。仮にオーガニックと記された食材でなくても、四季を感じながらその季節に合った食べ物を食べることは自然との対話になりますし、ハウス栽培の熱効率等を考えると、露地栽培の野菜は自然にやさしい栽培方法であることは間違いありません。

日本ではスーパーに行けば手軽に食材が手に入り、「商品を選り好んで」も食生活が成り立ちます。一方で地球全体を見回せば、まだまだ食材は不足している状態です。食料生産量を上げる努力も必要です。有機栽培は一般の栽培に比べると同一面積あたりの生産量が少ない傾向にありますので、このような現状を鑑みると「オーガニック」「自然派」と記された商品を購入することばかりが「自然との共生」ではないようにも思いますし、とても難しい問題です。

もちろん、農薬を過剰に使用して生産性だけを求めるような農法を推奨するわけではありませんが、私たちが生きている限り、環境をまったく汚さずに暮らすことはできません。無理をしない範囲で自分たちにできる「自然との共生」を目指すことが、本当に地球に優しい「自然派」の生活なのではないかと思います。
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