幸せ恐怖症?幸せなのに、何かが足りない
問題のない恋愛に物足りなさを感じてしまう女性たち
問題のない恋愛が怖くなって
キヨコさん(31歳)もそのひとり。仕事のかたわら趣味でジャズピアノを習っているのだが、その教室で知り合った3歳年上の彼とつきあい始めたのが1年半前。「3年ほど恋愛から遠ざかっていたんですが、その彼とはごく自然につきあい始めました。音楽の話は合うし、一緒にジャズクラブに行ったりして本当に楽しかった。だけど1年くらいたったときに、なんだか急に不安になったんです」
彼女は親と同居しているが、週末はいつも彼のひとり暮らしの部屋で一緒に過ごした。もし同棲するとか結婚するとかいうことになっても、親も反対はしないだろうという確信がある。なにより彼と一緒にいると自分が穏やかな気持ちでいられる。何も問題のない恋愛なのだ。それなのに、彼女は不安になった。
「何も問題がないことが問題だったのかな。とにかく不安でたまらない。でも何が不安なのかわからない。彼はよく『キヨちゃん、ここに住んじゃえば?』とよく言っていたし、お互いの中で結婚も遠くはないという意識があった。とはいえ、私は今すぐ結婚したいというわけでもなかったので、とりあえずこのまま楽しくて幸せならいいと思っていたはず。でも、何かが足りない。そんな気持ちでいっぱいでした」
その「何か」がわからないから、彼女はイラだっていた。友だちは「平和すぎるからじゃない?」と言うが、確かに「恋愛している実感」はなかったのだという。
彼の情熱を無意識に試してしまった
仕事中の彼に、愛情を試すようなメッセージを送って……
「やっぱり彼の愛情を確認したかったのかもしれません。愛情というより情熱かな。彼の中に、どうしても私でなければいけないという情熱があるかどうかを知りたかったんでしょうね。試すつもりはなかったんだけど、ある日突然、彼に『死にたい』とメールを送ってしまったんです」
運悪く、それは彼が多忙で会社に泊まり込んでいる日に当たってしまった。もちろん、彼女はそんなことは知らない。彼からはすぐに「どうしたんだ、とにかく落ち着いて」と返事が来たが、その後、彼女が沈黙を守っていると2時間ほど連絡をくれなかったという。
「すぐにでも駆けつけてくれると思ったんです。でも彼はそうはしてくれなかった。何よりも私が大事だというわけではなかったんだと確認できた気がして……」
2時間後、彼は電話をかけてきたが、彼女は出なかった。その後、彼は大事な仕事の正念場で会社に泊まり込んでいると説明するメールを送ってきた。
「そんなときに試すようなことをした私がいけないんだけど、そんなときにそういうことをしてしまうのは、彼と私の相性がよくないのかも、と悪い方向に考えたんですよね。あのときの気持ちをきちんと思い出すのはむずかしいんですが、とにかくふと思い立ってしたことが、どんどん私の中のネガティブな感情を助長させていった」
結局、自滅だった
朝になって、彼女は「別れよう」とメールを送った。出勤すると、徹夜明けの彼が彼女の会社の前に立っていた。「死にたいだの別れたいだの、どういうことなの? ちゃんと説明して」
彼のその言葉に、自分に対する情熱は感じられなかったとキヨコさんは言う。彼とはそれきりになった。何度か彼から話し合いたいと言ってきたが、彼女は無視してしまった。
「今思えば自滅ですね。平穏で幸せな状況に耐えられなくて、自分から問題を起こして、自分の気持ちが萎えていった。何をしていたんだろうと思うことがあります」
優しい彼に、激しい情熱を求める矛盾
自然と付き合い、穏やかな関係を続けていたのに……
「今から考えると、私も“何か”が足りないと感じていました。私の場合は私から告白してつきあい始めたんです。プロポーズは彼からだったけど、それもプロポーズしやすいように私が仕向けたので、常に相手の愛情をどうはかったらいいのか悩んでいました。彼はおっとりしていて冷静なタイプなので、やはり情熱を感じられなかった。優しいけど情熱的ではない。そこが不満だったのかもしれませんね。私から突然、婚約を破棄したんです」
彼は「オレにはルミちゃんしかいなかったのに」とつぶやいた。それでも執拗に追ってくるようなことはなかったという。
「追われたら戻ったと思うんだけど。でも今になってみると、彼は私の思いを尊重してくれるタイプだったんですよね。彼と一緒になればよかった。すごく後悔しています。情熱は一時のことだけど、優しさは一生のものだと思う。彼の優しさと器の大きさを見抜けなかったんです、私は」
情熱的な恋愛のほうが一見、幸せに見える。だが必ずしも情熱的なことがいいとは限らない。穏やかな幸せを手にしている喜びをつかみきれなかったことを、ルミさんは激しく後悔しているそうだ。
「この幸せでいいんだ、という強さが私に足りなかった。あの穏やかな幸せが怖かったんですよね。だから本当の幸せを逃がしてしまった。そんな気がします」
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