テレビを通してつくられた、ケネディ大統領のイメージ
映画『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』は、ケネディ大統領が暗殺された1963年11月22日から、国葬を執り行い、そして、ホワイトハウスを去るまでの4日間を描いた作品です。ケネディ大統領が誕生したのは1961年1月20日。ケネディ大統領は43歳、ジャクリーンは31歳でした。在任期間は3年に満たないにも関わらず、歴代アメリカ大統領の中でも圧倒的な人気を誇ります。ケネディがニクソンと争った1960年の大統領選は、史上例を見ない接戦となりました。ケネディを勝利に導いたのは、テレビ討論会でした。アメリカでは、1941年に白黒テレビ放送が開始され、1954年にはカラー放送も始まりましたが、カラーテレビが一般家庭に普及したのは1970年代になってからです。
本作では、ジャッキーがホワイトハウスを案内する様子を撮影するテレビクルーの様子、テレビで放送される白黒の画面が交互に映し出され、ケネディ大統領のイメージがつくられていくプロセスの一端を見ることができます。
ジャッキーを象徴するピンクのシャネルスタイルのスーツ
1963年11月22日、テキサス州ダラス市内をオープンカーでパレード中のケネディ大統領は、多くの市民が見ている前で何者かに狙撃され死亡しました。ケネディ大統領の死亡が確認されると、大統領専用機に遺体が運ばれ、副大統領のジョンソンが第36代大統領に昇格して就任宣誓が行われました。この時、ジャッキーは服を着替えてはどうかと促されますが、血まみれになったピンクのシャネルスタイルスーツのまま同席します。それがどのようなメッセージを発するのか、どのような共感と反発を招くのかを十分に考慮した上での決断でした。
ピンクのシャネルスタイルスーツは、ジャッキーの象徴として、多くの人々の記憶に刻まれることとなりました。ジャッキーは、悲しみ、怒り、恐怖、不安といった自らの感情を、血まみれになったピンクのシャネルスタイルスーツに包みこみ、ファーストレディとして大役を果たす覚悟を人々に示しました。
ジャッキーがファッションアイコンとなりえたのは、聡明で美的感覚に優れていただけでなく、ファッションを通して、勇気や覚悟を示したからに他なりません。
ジャッキーに勇気を与えた「キャメロット」
ケネディ大統領の国葬は、暗殺から4日後の11月25日に執り行われました。国葬の準備と並行して、ホワイトハウスを出た後に住む場所も早急に手配しなければならないという状況で、ジャッキーは夫を亡くしたファーストレディとして、母親として、女性として、さまざまな選択と決断を下していきます。ホワイトハウスは、大統領が交代する際に、家具や調度品、美術品などが刷新されるのが慣例となっています。ジャッキーは自ら資金を調達し、アメリカの偉大さを伝える博物館のように修復しました。ファーストレディとしての装いやホワイトハウスの修復は、社会的なイメージづくりが主な目的ですが、ジャッキー自身が身につけ、生活していく中で、ジャッキー個人の経験や記憶と深く結びついていきます。
ファッションやインテリアは、ジャッキーの社会的イメージと個人の記憶を循環させ、過去と現在と未来をつなぐ、大きな原動力を授けてくれます。国葬の準備を進める中で、ジャッキーは第16代アメリカ合衆国大統領として、奴隷解放宣言を行うなど多大な業績を残したリンカーンの葬儀に倣うべきだと閃きます。
国葬の前日11月24日には、暗殺の容疑者として逮捕されたオズワルドが射殺され、ジャッキーも恐怖に心が揺らぎます。ジャッキーの勇気を奮い立たせてくれたのは、ケネディ大統領が愛したミュージカル「キャメロット」でした。「キャメロット」とは、神話に登場するアーサー王と円卓の騎士たちが統治していた王国のこと。
歌詞の一節は、ケネディ大統領のイメージと重なり、国民に希望を与えた偉大なアメリカ大統領の物語は現代にも語り継がれています。忘れてはならない
かつて昔、一瞬でも光輝く瞬間があったことを
それを人々はキャメロットと呼んだ
私たちは、ジャッキーのように重大な選択や決断をする立場にはありませんが、本作をご覧になると、ファッションやインテリアは表層でありながら、その人の人生と強く結びついていることに気付かされます。
白黒テレビの視聴者に、スーツやドレスの色は伝わらないけれど、ジャッキーは色を身につけることを大切にしていました。ファッションやインテリアを通して、私たちは変わっていく世界の一端を知ります。ファッションやインテリアは想像力や創造力を鍛え、私たち自身も変わっていく姿勢を持ち続ける勇気を奮い立たせてくれるのではないでしょうか。
【作品情報】
作品名:『ジャッキー/ファーストレディ 最後の使命』
URL:http://jackie-movie.jp/
公開日:3月31日(金)より、TOHOシネマズ シャンテほかにて全国公開
配給:キノフィルムズ
© 2016 Jackie Productions Limited
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