民泊も合法化され、転機となる1年に

2017年、宿にとっては、少し逆風が吹く年になるかもしれない。例えば、今年、シニアを中心として圧倒的に人気が出るのは「豪華観光列車」だ。東日本を走る「TRAIN SUITE 四季島」や西日本を走る「トワイライトエクスプレス瑞風」の登場もきっかけとなり、宿よりも観光列車が話題となる。

また、アジアからのクルーズ船がますます増える。寄港ごとに入国としてカウントされることもあり、訪日外国人数は一層増えるが、船内泊となるために宿には泊まらない。そのため、2016年8月に起きた「入国者数は増えるが、宿泊者数は減る」現象が2017年にも確実に起きるだろう。

そして、2017年には旅館業法が改正され、「民泊」が合法化される。日本の宿は、さらにコンテンツ力を強化しないといけない時代になってきている。

マーケットを見ても、40年間もの長きにわたり観光市場の主役だった「団塊の世代」が2017年には全員が70歳代に突入して超高齢化。その市場は徐々に縮小していく。一貫して彼らをターゲットとしてきた日本旅館も大きく変化が求められている。

2017年、日本の宿業界では、こうした消費者の変化に伴う新たな動きが加速しそうだ。ただし、逆風も、発想を変えれば、追い風になる。


【第5位】ねこ宿

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角上楼にて

少し前に「猫カフェ」がブームとなったが、今では訪日外国人が訪れる定番の人気スポットになっている。宿の分野でも「ねこ宿」は意外に支持者が多い。以前は、保健所とのからみや、猫嫌いのお客様からの苦情等で、猫を隠していた宿が圧倒的だったが、時代が変わるとこうも変わるものか、猫の苦情はぴたっとなくなり、「猫」が看板になる宿は年々増えている。

猫は、独特の癒しパワーを持っているのだろう。スマホでも猫関連ゲームやアプリは人気が高く、猫を眺めるアプリ「ねこあつめ」は2017年には実写映画『ねこあつめの家』になる。「小説を書く事に行き詰まってしまった主人公が猫を眺める物語」で、猫をまったりと眺める内容だそうだ。

猫のたくさんいる「猫島」の多い瀬戸内あたりの支持アップもあり、2017年はあらためて「ねこ宿」がじわっときそうな予感。


【第4位】若者宿

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五島列島のゲストハウス「ネドコロノラ」を運営する若い2人

若い人たちに「宿を運営してみたい」という人が多い。若者向けの宿開業セミナーを開くと予想以上に参加者が集まることでも証明されている。隠岐の海士町では、4月に「島食の寺子屋」を開校し、将来宿をやってみたい若者を公募し、2年かけて育成するという。島や全国の宿で働きながら学ぶ仕組みで、調理もできるようになれば、本格的に宿が運営できる。

一方、地方の温泉地等では「後継者がいないので廃業したい」という宿が後を絶たない。10年間で2万軒が廃業し、あと4万軒が残る旅館業も、このペースでいけば20年で消滅することになる。現実として、80歳を超える館主が、企業で定年を迎える息子を自宅兼用の旅館の後継者として待っているという「老老承継」が地方の典型だ。ただし、自宅として承継できても、旅館の経営は容易ではない。その結果、シャッター商店街と同じく、旅館は廃業するがそのまま自宅として住み続けるという「仕舞た屋」旅館が増えていく。

そこで、これ以上地域の灯を消してはいけないという自治体が、旅館と若者のマッチングに乗り出すだろう。その結果、若者が旅館に住み込み、運営を委託される形で新しい宿を開業するのだ。

鳥取県岩美町では、かつて海水浴客を相手にしていた民宿が「旅人の宿NOTE」として生まれ変わった。これは、民宿のオーナーが地域おこし協力隊だった小林さんに運営を委託したものだ。海の目の前でスペイン料理を出す宿として、新たな客層を開拓している。

2017年、そんな新たな事業承継がさらに推進されそうな気がする。


【第3位】聖地宿

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隼の聖地の宿「BASE8823」(ホームページより)

2016年には映画『君の名は。』が大ヒットし、映画に登場したエリアを訪ねる方がとても多かった。同様の「聖地巡礼」は、アニメの世界では年々増加し、前述の岩美町は深夜アニメ『Free』の聖地として知られるようになった。その他にも、大洗ではアニメ『ガールズ&パンツァー(GIRLS und PANZER)』(通称ガルパン)が、湯涌温泉ではアニメ『花咲くいろは』が、と聖地化した地域は挙げればキリがない。漫画『湯河原くんは大山田高校でモテる方法を考えていたが』はタイでブームとなった結果、湯河原温泉をタイ人が訪ねるようになったように、地元も気づかないうちに聖地になっていることも少なくない。

また、聖地と言ってもアニメばかりではない。サイクリストの聖地、ライダーの聖地、鉄ちゃんの聖地と様々な聖地がある。そうした聖地においては、特定の宿が聖地化しやすい。これまでも、金田一温泉「おぼない旅館」のハイキュー部屋のように聖地部屋が造られることはよくあったが、恒常的にファンのための宿としていこうという宿が今後増えていくと思われる。尾道の「ONOMICHI U2」はサイクリストにとって宿が聖地化したし、香美町のやなせたかし記念館に隣接する閉鎖中の公共ホテルは、アンパンマンファンの聖地宿として再生されそうだ。20世紀最速バイク・スズキ「隼」に乗るライダーの聖地として鳥取県八頭町に「隼」駅があるが、近くの里山にライダーのためのドミトリー式のゲストハウス「BASE8823」ができた。日々のガレージはまさに壮観だろう。

2017年、聖地宿がますます増えそうだ。


【第2位】おひとリッチ

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AllAboutガイド村田さんが案内する星野リゾート「一人旅」

観光旅行者における一人旅比率が年々増加し、2015年度には17.5%と過去最高にまで高まっている(じゃらん宿泊旅行調査2016)。男女別では、どの年代も男性の一人旅比率が高く、20~34歳男性に至っては28.8%が一人旅だ。その理由としては、性別・年代にかかわらず「ひとりが気楽」「興味が深められる」が多いのだが、「行く人がいない」「予定が合わない」「合わせるのが面倒」といった理由も少なくない。これは、従来(無理して予定を合わせてまで)「誰かと行く」ことを旅の目的とした時代が終わり、「自分のために行く」ことが増えていることが背景にあるように思う。さらにその裏には「つながり疲れ」があり、たまには一人になりたい、という願望が潜んでいるのだろう。

日本の宿も一人旅を受け入れる宿が増えている。前述の「おぼない旅館」もそうだが、湯治文化が残っていた東北の宿は一人旅歓迎の宿が多い。しかし、近年、宿の現場では「交通費は安上がりに、宿泊費は少しリッチに」というおひとリッチ傾向を感じる。この主人公は、主に30~50代の女性。その舞台としての典型は、創業時から一人旅を歓迎する「星野リゾート」だ。「消費」額としては決して安くはないが、自分を取り戻すための「投資」としては高くない。

2017年、一人旅を受け入れる宿はさらに増えていくだろう。


【第1位】セラピー宿

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養生館はるのひかりの「養生食」(ホームページより)

そして、今年の1位は「セラピー宿」。これまで一貫して、旅とは、少しヨソイキの恰好をして出かける非日常の「ハレ」の場だった。しかし、そうした方を相手にした豪華な会席料理を出す旅館は、知らぬうちに格安バイキング宿と化し、温泉地の主人公は、ハレの日の旅行者から、日常の延長としての「ケ」の場においてパワーチャージする旅人へと変化してきている。旅は「消費」から「自己投資」へと変わろうとしている。

女性の宿泊者が多く、一人旅が宿泊者の過半数という栃尾又温泉の「宝巌堂」。37℃のぬる湯で瞑想しつつ長湯すると、日常の疲れがどこかに飛んでいく。1日のうち少なくとも3時間は入浴タイムなので、ひとり旅がちょうどいい。野菜中心の料理と静かな湯治場の環境で癒されるリピーターが年々増えている。
箱根にできた「養生館はるのひかり」は、働く女性にとってのあこがれの宿。玄米を中心とした野菜食は、胃に負担をかけることなく満腹感を得られると評判。開放的な温泉大浴場は、熱い湯とぬる湯で浴槽が分かれるが、これは栃尾又温泉と同じ。人それぞれに好みの湯加減で浸かることこそ温泉の醍醐味だからだ。養生館ももちろん一人旅OKだが、予約を取ることがまずは最初の難関だ。
山梨市の「保健農園ホテルフフ山梨」は名前こそメディカル風だが、医療スタッフが監修、地元農家とコラボして、様々なプログラムを体験する滞在型の宿だ。適度な睡眠、運動、食事、コミュニケーション、リラクセーションを習慣化するため、セラピーに特化している。2泊3日の滞在がおすすめだ。

昨年末、旧知の東鳴子温泉「旅館大沼」さんから連絡があった。一汁三菜プランなど、現代湯治を推進している宿だが、ファスティングを始め、これまでの旅館料理を改めようかと思うと。それだけ、心身に優しい食事や宿を求めている方が多いのだろう。2017年、パワーチャージをしに宿に出かける人がますます増えそうな気配がする。


 
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