日本のカジノはギャンブル依存症を具体的にどう防止すべきか?
「カジノ法案」が成立し、10年以上にわたる議論を経て日本にもカジノができることが確実となった。これにより、数年後にはカジノ、娯楽施設、ショー、会議場、ホテル、レストランなどが一体化された統合型リゾート(IR:Integrated Resort)が誕生するが、その一方で、ギャンブル依存症の元凶になるとする反対派もいる。ギャンブル依存症(疑い含む)538万人の原因とは
反対派が論拠とするのが、厚生労働省が発表している国内におけるギャンブル依存症(疑い含む)538万人という推計だ。事実であれば膨大な数であることから、カジノを作ればもっと悪化すると反対派は主張している。だが、反対派の主張には一つスッポリと抜け落ちているものがある。現在のギャンブル依存症はカジノによって引き起こされたものではないという点だ。
ギャンブル依存症の9割はパチンコが原因
今起きているギャンブル依存症は、カジノ以外の既存のギャンブルによって起きていることは言うまでもない。理由は単純で、日本にはまだカジノがない(違法店除く)からだ。では何が原因かというと、大半はパチンコ(パチスロ含む)だ。国立病院機構久里浜医療センターで病的ギャンブリング外来の責任者を務める河本泰信・精神科医長は『夕刊フジ』(2014年11月11日付)の取材に対し、同センターにおけるギャンブル依存症患者の9割の原因がパチンコやパチスロであることを明かしている。
誰でも入れる既存のギャンブル
それほど理由が明らかであるにもかかわらず、既存のギャンブルには依存症対策のプログラムは存在しない。パチンコはもちろん、競馬や競艇などの既存のギャンブルではID等のチェックは行われず誰でも制限なく入ることができる。誰がどれだけのお金を使うかも本人の自由で、依存症を防ぐ方策は事実上存在しない。
桁違いに厳しいカジノのチェック
一方、カジノの入場チェックは格段に厳しく、入場の際はパスポートなどのID提示が義務づけられている。「カジノができると青少年が遊んで非行のもとになる」と主張する人もいるが、そもそも未成年(国によって年齢は異なる)は入場することさえできない。
ラスベガスのようにカジノを通って客室へ行く場合はその限りではないが、テーブルでディーラーからIDの提示を求められる。
もし見逃せば営業停止などの厳罰が下るだけに、その運用は極めて厳格だ。
日本人利用禁止は逆効果
では、入場が許可された人に対して具体的にどんな対策を取ればいいか。反対派の中に多いのが日本人の利用禁止という意見だが、それは逆効果で、むしろ弊害のほうが大きい。なぜなら、カジノに入れない日本人を客とした違法カジノを増やしてしまうからである。
現在、都内だけでも300軒を越す違法カジノがあると言われているが、そうした店が存在できるのも日本に合法カジノという受け皿がないからで、せっかく合法カジノを作っても日本人利用禁止では意味がない。
高額な入場料はかえって依存症の引き金になる
他にたびたび議論されるのが、日本人に高額な入場料を課すというアイデアだが、それは日本人利用禁止よりも悪影響を及ぼす恐れがある。なぜなら、高額な入場料は、それを取り返そうとして無茶な賭け方をさせるなど、かえって依存症の引き金となるからだ。
ギャンブル依存症を防ぐためとして高額な入場料を課している国などほとんどないのはそれが理由だが、唯一導入しているシンガポールでもその効果は疑問視されている。
最も実効性があるのが「利用回数制限」
どんな方法が依存症防止に役立つのか。私は約30年間、カジノをはじめとした国内外のギャンブルの現場を取材してきたが、そこから見えてきたのは、依存症の大きな要因は「ギャンブルへの参加頻度」と「ギャンブルへのアクセス(距離)」という事実だ。
どんなに遠くても来てしまうのはそれだけハマっている証拠だが、もっと重要なのはその頻度だ。
自分を押さえられず、毎日のようにギャンブル場に通ってくるような人は、事実上ほとんどが依存症かその予備軍と言える。
よってその防止策としては、月または年に何回以内というような「回数制限」を設けるのが有効だ。規定回数に達してもやりたくて我慢できないという人はその時点ですでに依存症の疑いありと判断できるからだ。
これが最も現実的で、実施に無理がない方法と言える。
今後一年かけて法案の中身は決められていくが、政府には現実的で実効性ある方法を検討してもらいたい。