明治の資産家が遺した人生の記録
お金と人生の問題を考えるようになったときに、ぜひ読んでほしい本があります。それは、本多静六さんの『私の財産告白』です。本多静六さんといっても、ご存じない方も多いかもしれません。明治時代に生きた方で、この本が出版されたのも65年も前なのです。本多静六さんは、「公園の父」ともいわれる造園家ですが、同時に積極的な投資(株式・不動産)で財産を築きました。自分の体験を明かしながら、人生で節約や投資の必要性を訴えた『私の財産告白』は、現代にも通じる普遍的真理を伝えています。
貯蓄すべき時、投資すべき時
その中でも、私が強い感銘を受けた一言は、次の一文です。好景気時には勤倹貯蓄を、不景気時には思い切った投資を、時機を逸せずに巧みに繰り返すこと
景気が良いときには、一生懸命に働き、本業で稼ぎ、そして貯金をすることに励みなさい。景気が悪くなったら、今度は投資に目を向けなさい。しかも、大胆な投資をするのです。このサイクルを繰り返せば、自然とお金持ちになると、本多静六さんは力説しています。
私たちのサイクルは、どうなっているでしょうか?意外と、この正反対をしていることが多いように思います。
景気が良くなると、凡人は増えた収入で、もっとお金を増やそうと、労少なくお金を稼げる道(投機、ギャンブルのような投資)に進みがち。これを、「濡れ手に粟」といいます。
そして、景気が悪くなると、今度は、地味に働き詰めとなります。世の中に楽して儲かる道などないと観念して、実直堅実な労働にまい進します。「財テク」は死語となります。
普通の人は、高値で買い、安値で売る
このサイクルを、資産価格の推移として観察すると、こうなります。好景気になると、カネ余りで投資が盛んになる。資産の買い手が増えるので、資産価格は上昇する。それによって、景気は再加速して、インフレが進み、いずれはバブルに発展する。
不景気になると、お金に窮した人は資産を売って現金化する。資産の売り手が増える一方で、投資をする余裕のある買い手がいなくなる。そこで、資産価格は下がる。下がる資産を見て、人はますます換金に走るから、さらに下がる。最後に暴落する。
本多静六さんが勧めるサイクルとは、正反対の行動を取るとどうなるかというと、人はピークの高値で資産を買い、ボトムの安値で資産を売るということになります。だから、世間には投資に失敗したという人が多くいて、「投資などするものじゃない」という間違った諫言が流布しているのです。その視点で、本多静六さんの言葉を、こんな風に言い換えることもできます。
・投資熱があるときには、貯金をしなさい。市況が冷え切った所から、投資を始めなさい。
・本業が忙しいときには、仕事に没頭しなさい。最高の収益率を稼ぐのは、本業なのです。
さて、あなたにとって、今というときは、投資のチャンス?それとも、貯金に励むとき?大きな流れの中で、本質的なタイミングを見極めることが、最重要なことなのです。
あざとい情報にだまされないで!
最後に、私がこの本をお薦めする理由を挙げてみます。・実在の人物が、最初から最後までを告白した、実録であること。
・金持ちになっただけでなく、名誉と尊敬を獲得した大家の歴史であること。
・難解なテクニックや賞味期限の短いノウハウではなくて、いつの時代にも通用する原則であること。
・自著を売ることに、金銭的なインセンティブを持つ著者ではないこと。
・だれにでも再現可能な、日常的な知恵が織り込まれていること。
現代というあざとい世相においては、以上の理由とは真逆の出版が行われ、間違った手法で、投資難民が作り出されていることに、注意喚起したいと思います。