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住宅への「コンバージョン」のハードル

かつて、オフィスビルなどを住宅に転換する「コンバージョン」が注目された時期がありました。現在でもコンバージョンは実施されているものの、目立って増加しているという状況ではなさそうです。その背景や現状を考えてみました。

執筆者:平野 雅之


東京都心部を中心に大型オフィスビルの供給が続き、「2003年問題」が大きく報じられていた頃に、空室が懸念される既存中小ビルの対策として注目されていたのが「コンバージョン」(用途変更・用途転換)です。

オフィスビルのコンバージョンは、従来のビルの躯体はそのままに事務所部分を住宅などに転換するものですが、当時は大手ゼネコンでも取り組みを始めたところがあったほか、国土交通省の政策でもその後押しをしていました。

コンバージョンが注目を集めた背景には都心居住の需要の高まりと、都心の利便性の高い立地での用地不足も指摘されていたのですが、その後も新築マンションが数多く供給され続けたこともあり、最近では「コンバージョン」という言葉を聞くことも少なくなっているでしょう。

もちろん、現在もコンバージョンは実施されているのですが、国土交通省がまとめた「建築物リフォーム・リニューアル調査報告」の2015年度下半期受注分によれば、事務所の工事件数(全数推定)211,489件のうち、住宅へ用途変更されたのは349件、わずか0.17%にすぎません。

店舗から住宅への用途変更も同様で、214,911件のうち1,389件(0.57%)にとどまり、「コンバージョンが盛んに実施されている」とは言い難い状況です。

オフィスを住宅にコンバージョンする場合には、新たに内外装工事をしたうえで新築マンションよりも安く供給することができ、通常のマンションよりも天井を高くすることが可能な例も多いなどのメリットがあります。

その一方で、コンバージョンの必要性に迫られるビルは小規模で古いなど、立地以外の面では競争力が弱い場合も少なくありません。

管理員室をはじめ共用部分が十分に確保できなかったり、エントランスが貧相になってしまったり、窓の位置に制約があったり、繁華街のビルでは住宅としての環境面に難があるなどさまざまな問題のため、コンバージョンを検討しながら実現しないことも多いようです。

それ以上に住宅へのコンバージョンを難しくしている要因は、多すぎる住宅数かもしれません。各地で空き家問題が深刻化するほどの「家余り」の状況のなかでオフィスを住宅に転換しても、需要が見込めるのは一部の地域に限られるでしょう。

供給側の意図による住宅用途のコンバージョンはハードルが高そうですが、近年はコンバージョンも含んだ広い概念としての「リノベーション」が注目を集めています。

単に古い建物をリノベーションするだけにとどまらず、地域のニーズを掘り起こす活動を伴う場合もあり、「需要に基づいたコンバージョン」はこれから増えていくように感じられます。

地域によっては今後、「民泊」への転換が一気に進むかもしれませんが……。


>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX

(この記事は2007年3月公開の「不動産百考 vol.9」をもとに再構成したものです)


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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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