すでにご存知の人も多いだろうと思いますが、グランドプリンスホテル赤坂(旧・赤坂プリンスホテル)が今年(2011年)3月末に営業を終え、丹下健三氏設計の独特な外観で赤坂見附の交差点に存在感を示していた新館が取り壊されるのだそうです。

東京都心部に数多く進出した外資系ホテルとの競争激化に加えて、建物や施設の「老朽化」が一因だとされていますが、新館が開業したのは1983年であり、竣工時から数えてもまだ築30年に達していません。ちょうど新館の建設当時から開業後の数年間にかけて、私自身が赤坂見附に行く機会も多かったため、それほど昔のことにも感じられない印象です。

建物構造自体に何らかの問題があったのかどうかは知る由もありませんが、「老朽化」というよりは「経済的耐用年数」を過ぎたというのが正しい解釈だろうと考えられます。大規模改修工事や施設の更新に多額の費用を使っても採算性が見込めず、それよりも新館を取り壊して再開発を進めるほうに価値が認められたのでしょう。

グランドプリンスホテル赤坂

グランドプリンスホテル赤坂(旧・赤坂プリンスホテル)新館 40階建て
1983年3月開業 2011年3月末営業終了


一般的に建物の耐用年数(寿命)は、物理的耐用年数、経済的耐用年数、社会的耐用年数の3つに分けて考えることができるようです。

物理的耐用年数は建物構造の老朽化、劣化に伴うもので、概念としては比較的分かりやすいものでしょう。しかし、この物理的耐用年数による建物寿命を迎える前に、経済的耐用年数や社会的耐用年数によって建物の価値が大きく下がることもあります。

経済的耐用年数は「赤プリ」のような商業目的のビルにかぎらず、一般のマンションや住宅でも考えなければならない問題です。居住者の高齢化や空室の増加によってマンションの管理費、修繕積立金が十分に集まらなくなれば、適切な維持管理や修繕ができなくなり、建物の寿命が縮まることに繋がりかねません。一戸建て住宅でも費用面の問題などにより補修や定期的な改修ができなくなれば同様です。

社会的耐用年数は内的要因と外的要因とに分けることもできます。内的要因とは、社会の変化に取り残されて陳腐化した設備や間取りなどによって所有者自身が「このままではもう住めない」と感じるものです。まだ十分に使える設備でも、最新設備の機能を知れば「もうそろそろ買い変えたい」と思うことはあるでしょう。建物のデザインや外壁、構造などでも同様のことは起こります。一方、外的要因とは社会構造の変化、法律や制度の改正、都市計画の施行などによって建物の使用目的が達せられなくなったり、居住環境が変わったりするような場合です。建物とは関係ありませんが、地上波放送の地デジ移行によってまだまだ使えるアナログテレビ(物理的耐用年数はまだずっと先だったはずのテレビ)が一斉に寿命を迎えることはご存知のとおりです。

長期優良住宅制度の導入によって物理的耐用年数の問題への取り組みがようやく緒に就いたばかりです。維持管理のしやすさ、設備更新のしやすさなど、一部には経済的耐用年数や社会的耐用年数に関する対策もありますが、これは居住を開始してから所有者自身が取り組まなければなりません。その一方で、既存設備の陳腐化を加速させるような新技術、新機能の開発も盛んで、住宅設備も年々進化している最中です。

さらに、これからの人口減少やそれに伴う空家問題も次第に深刻さを増していくものと考えられます。まったく誰も住まなくなった家は、どんなに物理的耐用年数が長くても無価値になるばかりか、固定資産税の負担などマイナスの資産ともなりかねないでしょう。

人口減少問題だけではなく、大都市と地方の格差問題、海外からの移民受け入れ問題、老後の生活資金や年金の問題、将来をしっかりと見据えた(コロコロ変わらない)法律の整備、さらには国内の経済や労働問題など、さまざまな要因が住宅の寿命と密接に繋がっています。国には、住宅の物理的耐用年数への対策だけではなく広い視点でしっかりと政策を進めていってもらいたいものです。


話は戻って冒頭の赤プリ……個人的には新館の解体工事がどう進められていくのかにたいへん興味があります。これから数十年後、建て替え問題(解体)に直面する超高層マンションも出てくるでしょうからね。

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