多くの介護者が抱える「食べてくれない」という悩み
歳をとると食が細くなるとは言いますが、食べてくれない理由は食が細くなることだけではありません。疲れていたり、食べ物だと分からなかったり、その原因を取り除くことで食べてもらえることもあります。ちょっとしたコツを知っていれば、原因を確かめることができます。
「食べてくれない」と一口に言っても、その理由はさまざまです。食べないタイミングや状態を見極め、対処方法を考える必要があります。よく目にする「食べてくれない場面」を3つの状況に分け、それぞれで考えられる理由と対処方法を栄養士の視点から解説します。
ご飯が目の前にあるのに食べない場合の対応法
「ご飯を目の前に置いたのに、食べ始めてくれない」これは非常によくあるケースです。これには大きく5の理由が考えられます。1.食べてよいのか分からずに待っている
この場合は簡単です。「どうぞ召し上がれ」の言葉が聞き取れなかっただけですから、食べ始めるまで「どうぞ召し上がれ!」と繰り返せばいいだけです。ただし、聞こえなかっただけなのか、それ以外の理由なのかは介護者には判断がつきません。そのため「うるさいな!」と言われる覚悟で、一度だけ耳元に向かって「ご飯です!」と大声で言ってみるのも良いかもしれません。これでも食べ始めてもらえない場合は、続いて説明する食べ物の認識や箸の使い方によるものだと考え対応してください。
2.食べ物を食べ物として認識していない
3.スプーンや箸の使い方を忘れた
この2つの対応はどちらも同じです。まず、スプーンや箸を正しい持ち方で持たせます。高齢者の手を持ち、一口目を介助して動きを思い出してもらい、二口目は手を離して見守ります。これで食べ始めなければ、もう一度介助。2~3回介助を繰り返しても食べてもらえない場合は、体調が悪い、気分が乗らない、自分で食べたくはないと判断し、食事の始めから最後まで介助を行います。
4.食べ物以外のものを触っている
食べ物以外のものを触っている場合、食事どころではなく食べ物以外のものに興味が向いていると考えられます。そういった場合、食べ物以外のものは手の届かない場所へしまい、食べ物に興味が集中するよう促しましょう。
5.食器を並べ替えて遊んでいる
こちらもよくあるケースです。この場合、コース料理のように順番に出したり、1つのお皿に盛り付ける等、目の前にあるお皿を1つだけにして、スプーンを持ってもらうと食べ始めてくれることがあります。
ご飯を途中で食べなくなってしまう場合の対応法
「食べ始めてくれた」とホッとしたのもつかの間。食べるのを途中でやめてしまうことがあります。これにも5つのパターンがありますので、対応方法をご説明します。1.食事以外のものに興味が沸いて食事に集中できない
とにかく食事中は食事に集中できるように周りをシンプルに整えます。それでも介護者の顔を一生懸命見ていたり、天井を這っているエアコンのパイプが気になったり、胸元にこぼれたご飯の1粒が気になる等、それはもう「どうして?」と思うようなことが多々あります。原因を除去できる場合は除去しますが、除去できない場合、「そっか~。じゃ、次はご飯食べましょうか」とにっこり笑ってお誘いしてみましょう。そして必要に応じて「食べ始め」の際に必要だった「スプーンを持ってもらう」「食べる動作を思い出す」等の介助も行ってみます。
2.スプーンを置いた後、持とうとしない
今まで何をしていたのか覚えていないことも多いので、こちらも1と同様、「休憩中ですか?」とこちらへ注意を向けた後、「ご飯食べましょうか」とスプーンを再度持ってもらいます。もしも嫌がるようであれば「疲れましたか?」と聞いてみて、答えが「Yes」であれば食事介助を行います。
3.食事の途中にどこかへ行こうとする
どこかへ行こうとしてしまう場合は、トイレに行きたいということが往々にしてあります。食事中にトイレに行かなくても済むように先に行っておいてもらうのが得策ですが、緊急の場合もあるので、行儀が悪いですが途中でトイレに誘導します。
4.食事中に寝てしまう
寝てしまうケースが病院では非常に多いです。昼間寝て夜中にずっと起きているという場合や、昼も夜も常に寝ているという人もいます。いずれにしても、食事を食べ終わるまでは、何が何でも起こしておくことが必要です。また、傾眠傾向が強い場合には薬の影響も考えられるため、主治医に眠気が強く、食事が食べられない旨を説明するのが良いかと思います。
5.むせてしまい食べ続けられない
むせるのが今回1回だけなら良いのですが、頻回にむせる場合には必ず医師・看護師・管理栄養士などの専門家に相談して下さい。食事の形態や姿勢不良による誤嚥が考えられます。姿勢は食事の途中でもその都度、声をかけたり、傾いてしまう場所にクッションを入れるなどして正しい姿勢になるよう促してみてください。食事の形態については、「介護食のレベルを表す5つの指標と使い方」を参考にして下さい。また姿勢崩れによる誤嚥が考えられる場合には、「高齢者の食事中姿勢と食事介助方法」で食事中の安全な姿勢や介助方法について詳述していますので、あわせてご覧下さい。
その他にも話かけられて返事をしようとてむせたという事例をよく耳にします。話しかけるのは必ず飲み込んだことを確認した後にして下さい。飲み込んだかどうかは「喉」を見て確認します。喉が動けば飲み込む動作は終えたはずですが、心配な場合は口を開けてもらい、口の中を見せてもらってください。また、酸っぱいものでむせる場合も多々あります。酢をすべてNGにする必要はありませんが、酢の使用量を減らすなど加減を考えて対応しましょう。
食べ方が原因で食事が進まない場合の対応法
ご飯は食べてくれているものの、一口量が少ない、手で食べようとする等、間違った食べ方をしているために、食事が進まないというケースもあります。1.飲み込んでないのに口へ入れようとする・食べるペースが早くなった
大量に口の中へ入れることができないよう、1回に渡す量を加減します。小さいスプーンを使ったり、小さい食器に入れて渡したりすることで、すべてを口の中へ入れてもさほどの量にならないように調節します。
2.一口量が少なく(多く)なった
スプーンと食器が使いづらいことが主な原因。さまざまな介助食器が出ているので、状況に合わせて使い分けてください。また料理が一口サイズになっていないために、適量がすくえないこともよくあります。スプーンに乗る大きさに切って調理するように心がけてください。一口量は健康な人で20ml程度が適量と言われています。飲み込みが悪い場合は1~3ml程度がよい場合もありますが、あまり一口量を減らすと、食事を口へ運ぶ回数が増えて、食事時間も長くなるので、上手に調節をして下さい。介護用の自助具については「介護用の「自助食器」の使い方」も合わせてご覧下さい。
3.手で食べようとする、スプーンの柄ですくおうとする
4.スプーンが上手に口へ入らない
スプーンや食器の使い方が間違っている場合は、正しく持たせて様子を見ます。持ててはいるものの、スプーンが上手に口へ入らない場合、途中からは手を持って介助します。2~3回の介助で口へ持っていける場合もありますが、食べ終わるまで介助が必要な場合もあります。様子を見ながら介助して下さい。
重要なのは食事環境と体調・姿勢への配慮
以上、さまざまなケースでの対応方法を記しましたが、何事もはじめが肝心です。食事に際に注意する点としては共通して以下の3点が挙げられます。- 食べることに集中できる環境を整える:手の届くところに食事以外置かない、テレビを消すなど
- 体調を整える:疲れていないか・しっかり起きているか・痛いところはないか確認する、トイレに行っておく
- 食べやすい姿勢で座る:曲がった姿勢で座っていないか、椅子と机の高さは身体に合っているか
まずはこの3点をきちんと確認し、疲れさせない工夫した状態で食事をしてみて下さい。一口に「食事を食べてくれない」と言ってもいろいろなケースがありますが、介助する側のちょっとした工夫で日々の食事に変化があるかもしれません。介助する側もされる側も、気持ちよく楽しく食事ができると良いですね。