建て主のYさん一家は夫婦と元気なお子様の4人家族で、ここに自邸建設のために土地を求めたのが今から3年前。女性誌の編集者でもある奥様が、以前から注目していた建築家の廣部剛司さんにコンタクトをとり、家づくりが始まりました。
家の中心を走る渓谷
住宅としては決して広くない26坪という敷地面積に加えて、道路に面した西側の正面以外は隣家が迫っているという厳しい条件の中で、どのように快適な住環境をつくり出すか。この課題を前に廣部さんの脳裏に浮かんだのが、以前アメリカ旅行で訪れたコロラド州にある「メサ・ヴァーデ」という渓谷でした。天然の大屋根の下に組積造の集落が佇むこの遺跡の「守られ」かつ「地球に開かれている」感じを、この家で実現してみたいとYさんに提案したのです。
玄関を入って先ず目に飛び込んで来る東西に走る吹抜けは、緩やかにカーブする壁に沿って奥に行くほど間口が広くなり、やがて南側の中庭まで続いています。ここに入り込む日射しが、日時計のように日の出から日没までの太陽の動きを室内に映し出します。この家のタイトル「Gray ravine(グレー・ラビーン)」とは、この吹抜けをラビーン=渓谷と見立てて廣部さんが名付けたものです。