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神戸に超新星フレンチが誕生!「ESPICE(エスピス)」

2016年10月末、神戸にフランス料理店「ESPICE(エスピス)」がオープン! 南仏の三ツ星やパリの三ツ星で修行されてきた江見常幸シェフによる繊細で美麗なフランス料理の数々を御紹介していきます

執筆者:麻生 玲央

江見シェフがガストロノミーシーンに復活!「エスピス」

エスピス

2016年10月、神戸にオープンしたフランス料理店「エスピス」

芦屋にある「エルデアンジュ芦屋」で神戸フレンチシーンの次世代エースとして活躍された後、この4年間小さなフレンチバルという形式の店「ノット(KNOT)」でじっくりと力と経験を蓄えておられた江見常幸シェフ(35歳)が、2016年10月末「ESPICE(エスピス)」というフレンチレストランのシェフに就任され、本来やりたかった料理をできるだけリーズナブルな価格でより多くの人達に提供すべく再起動されました。

店名の「ESPICE」とは常に円を描きながら上昇を続ける「螺旋」(「SPIRAL」スピラル)と「空間」(「ESPACE」エスパス)を掛け合わせたフランス語の造語です。これから進化していくレストランの店名にピッタリなスパイス(「épice」エピス)の効いた店名ですね。

店内

「エスピス」の内装

江見シェフの料理世界は、22歳の時に南仏の「ナルボンヌ(Narbonne)」から西へ32kmの山中にあるレストラン「オーベルジュ・デュ・ヴュー・ピュイ(Auberge Du Vieux Puits)」(当時はミシュラン2つ星、2010年からは3つ星)のシェフ「ジル・グージョン(Gilles Goujon)」さんの料理に出会ったことから始まりました。
大阪で開かれたフェアでグージョンさんの料理に感動した江見シェフはすぐに弟子入りを志願し、その3年後には実際に許可され渡仏して、日本人の誰もいない環境で多くを吸収されました。

その後パリの3つ星「アルページュ(Arpège)」でも腕を磨かれて、2011年に帰国後は「エルデアンジュ芦屋」のシェフを任され、その後は神戸の「ノット」で将来の構想を練りながら、飛び立つ機会を窺っておられたのです。

坪庭

店内には「坪庭」もあります。

三宮駅から北へ歩いて5分ほどのレストランはフロアに22席、シェフズカウンターが4席の、白とグレーを基調として茶や緑を配したナチュラルですっきりとした安らぎの空間です。

江見シェフを含めてキッチンには4人、フロアには大阪のグランドメゾン「マルメゾン」で長年ソムリエを務められた吉間崇行さんを始め3人、と計7人という充実した布陣です。しかしながら気取ることなく「子供さんも大歓迎」とのこと。小さい頃から本物のフレンチを気軽に楽しんでもらいたいという江見シェフのポリシーからなのです。

「エスピス」ディナーコースより

パン

パンの盛り付け方も面白い

2016年11月現在、ランチが3,500円と5,000円(共に税別)の2コース、ディナーコースは8,000円(税別)のみとなっており、サービス料は無料! カウンターだけの小さい店でもサービス料をとる店が多い中、ガストロノミーのレストランでサービス料がないというのは画期的。こういう良心的な取り組みが若い世代の食べ手を増やしていくキッカケにもなると思いますし、次世代のレストラン経営の新潮流となっていくかもしれませんね。

それでは以下、ディナーコース8,000円の料理から御紹介していきます。

・はじまり
ブーダンノワール

アミューズその1「ブーダンノワール」

まずは自然(環境)をテーマにしたアミューズ3種(3皿)が登場。
上写真のアミューズは「土」に見立てた根菜パウダーの上にリンゴを葉巻のように巻いて作った「ブーダンノワール」! 筒状の中にはブーダンノワールのムースと、リンゴのジュレが入っており、口の中でコク・甘味・酸味がバランスよく調和していきます。一般的なブーダンノワールは野趣的で重いことが多いですが、この葉巻状のブーダンノワールはとても軽やかで上品な仕上がりに。

それに「ブーダンノワール」は(豚が土の上で生きているので)どこか土っぽいイメージがありますし、この盛り付け(表現)も実に良いアイデアですね。

タルタル

こちらは「ムール貝」を使ったタルタル

上写真のアミューズは「海」を思わせる石の上にムール貝のタルタル料理が乗せられて登場。さらに石の中には本物の石と見間違うほど精巧に見立てて作られた「シュー」が入っており、シェフのアソビ心が存分にぞ発揮された一皿となっています。

タルトレット

野菜を使ったタルトレット

こちらのアミューズは「森」ということで、切り株の上にジャガイモやカボチャ、牛蒡にパンデピスなどを使ったタルトレットを乗せた一皿。この小さなタルトレットの上に配置された野菜の数々はどれも精密な仕事が施されており、その仕事量と質には驚きすらあります。これぞ現代ガストロノミーの世界に復帰した江見シェフの本気力。天才的なセンスの良さと実力の高さ、そして料理にかける尽きない情熱が3種のアミューズからヒシヒシと伝わってきます。

・かに 青りんご セロリ
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かに 青りんご セロリ

多彩なアミューズに続いては、一皿目の前菜です。「蟹」の身とミソをそれぞれの調理法で仕上げた一皿で、身の部分は大根で包んだ筒状の料理にし、ミソの部分はムースにして、ムースの下にはセロリや大根を小さくカットしたものを、上には牛蒡を使った螺旋状のチュイール乗せるという多層構成にしてあります。

また、あわせるソースには、胡瓜やアボカドを使ったガスパチョと、甘味のある蟹の身を引き立てる程好くビターな抹茶のパウダーを配置。

蟹の身と蟹ミソの二種、どちらも美味しいのはもちろん、素材を活かした繊細な調和感が素晴らしい。思わず唸ってしまう美麗な盛り付けも素敵ですし、職人芸と言うべき神経の行き届いた完成度の高さもお見事! まさに「蟹」を使ったフランス料理の傑作と言えるでしょう。

・ホタテとクルミ 泡雪
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ホタテとクルミ 泡雪

続いての前菜は「ホタテ」のスフレ。後から「菊芋のコンソメ」を上からかけて出来上がりです。ホタテのスフレの下には、クルミとクルミオイルでソテーしたホタテ、その下には白菜のエチュベという三層構成になっており、シェフ曰く「冬の鍋をイメージしました」とのこと。

ホタテのスフレは滑らか食感で雲のような泡のような軽やかさ、ホタテの持ち味もピュアなまでに活かしてありますし、ここまで隙の無い完璧なスフレ料理は初めて。このホタテのスフレだけでもその美味しさに驚きますが、菊芋のコンソメに白菜の甘味が付与されることで、さらに味わいに奥行き・多層感が生まれるのです。フランス料理は足し算料理だということを改めて実感できる逸品でした。

・サワラ キノコの香りと焦げたピュレ
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サワラ キノコの香りと焦げたピュレ

魚料理は「サワラ」。50度前後の低温でじっくりと熱入れしたサワラは後からさらに皮目を炙ることで、より風味を増した仕上がりに。合わせるソースは仔牛のジュとグレープフルーツを使った甘辛テイスト。甘味と酸味、コク深い味わいで、サワラとの相性も抜群です。

そしてサワラの周りにはジャガイモの輪、黒ニンニクと焼き茄子のピュレ、キノコのデュクセルを詰めた芽キャベツ、さらにポルチーニ茸とマッシュルームのパウダーという手間と時間をかけた圧倒的なディテール! これぞフランス料理! ここまでフランス料理を突きつめていながらも全体的な構成と味わいに今の時代にフィットした軽やかさとエレガントさ兼ね備えているところも、さすがですね。

・鴨 Forest
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鴨 Forest

肉料理は「鴨」。「森(Forest)」がテーマということで、キノコが盛り(もり)沢山! ジロール茸やトランペット茸、キノコのチュイール、さらには抹茶のシフォンとカシスの実と、シェフらしさに溢れた一皿となっています。鴨には「クレームドカシス」と「ブランデー」、「鴨の出汁」を使ったソースを合わせてあり、フルーティなテイストと円やかなコクが鴨に寄り添うようなマリアージュ。

鳴門金時

焼きたての鳴門金時!

さらに付け合せとして登場したのが、この竹炭で包んで焼いた鳴門金時! 中はホクホク食感で程好い甘味が鴨料理の付き合わせとして名脇役の存在感。

ちなみに、この料理はシェフではなくサービス(支配人)の吉間さんがデクパージュされます。こういうやりとりもフランス料理らしくて良いですね。ホテルのグランドメゾンで勤務されてきたベテラン吉間さんならではの安定したデクパージュ技術を間近で見ることができるのも「エスピス」で食事をする時のお楽しみの一つといえるでしょう。

・ブルーチーズのクレメダンジュ
ブルーチーズのクレメダンジュ

ブルーチーズのクレメダンジュ

メイン料理の後は2種類の料理から一つを選択することになります。上写真はその一つ「ブルーチーズのクレメダンジュ」。ハチミツのチュイールの下にはブルーチーズのクレメダンジュ、その中にはフランボワーズのピュレ入り。
メイン料理の後のチーズ(フロマージュ)もガストロノミーに相応しい料理として出すシェフの情熱の高さとアグレッシブな姿勢には脱帽ものです。

・チョコレート ほうじ茶 オレンジ 人参
チョコレートundefinedほうじ茶undefinedオレンジundefined人参

チョコレート ほうじ茶 オレンジ 人参

デセールは「チョコレート」。まずは球体のチョコレート菓子が出てきます。球体に刺さっているのは細いカッペリーニ。

とろとろチョコレート

チョコレート好きにはたまらない一皿

そこに上からアツアツのチョコレートをかけると球体のチョコレートがトロトロ~と溶けていきます!

球体の中にはクランブル、人参とオレンジのピュレ、アーモンドクリーム、ほうじ茶のアイスクリーム、スペルト小麦、などが入っており、トロトロのチョコレートと混ぜ合わせて食べると様々な食感・味わいが楽しめるようになっています。まさに「ショコラ・シュルプリーズ」と名付けたくなる珠玉のデセールです。

・La terre
La terre

La terre

最後は「大地(La terre)」と名付けられた小菓子。「ビーツのフィナンシェ」、「チョコレート(ナッツ入り)」、「バナナのソフトキャラメル」の3種類の小菓子の内、ビーツのフィナンシェ以外はチョコレートで作られた土の中に隠されており、スコップ型のスプーンで掘り出して探し出す、という趣向。最後の小菓子にまで「驚き」と「美味しさ」が続くところが江見シェフのセンスの良さ。そしてそれらを高いクオリティで実現するチーム力にもブラボー!です。

師匠ジル・グージョンさんへのリスペクトが生み出す料理

ワイン

こちらは「ルクセンブルク」の白ワイン。フランスワインだけではなく、様々な国のワインを揃えられています。料理に合わせたワインペアリングもあります。

師匠ジル・グージョンさんの料理から受けた若き日の鮮烈な感動。それが才能が開花する前の江見シェフの運命を決定づける出発点でした。今でもどんどん高みに行かれる師匠を追って、再び南仏のヴュー・ピュイへ戻ることも考えた江見シェフですが、今回「エスピス」という場を得て「日本の神戸で師匠に追いつくべく頑張る」という決断を今夏、グージョンさんに直接報告に行かれました。

「ジル・グージョンさんの教え「伝統を受け継ぐことがフランス料理人の使命」を守って、そこから自分のこだわり、遊び、そして我儘を手間と時間を惜しまず皿の上に表現して行きたい。そして神戸の地で神戸を盛り上げて行きたいのです」と決意を新たにされる江見シェフ。

「エスピス」という店名に込めた螺旋力で進化を続けてジル・グージョンさんのお店を超えるレストランになることを期待したいですね。

<DATA>
・店名: ESPICE(エスピス)
・所在地:神戸市中央区中山手通2丁目3-25 メゾンエスプリ生田1-1
・アクセス:神戸市営地下鉄「三宮駅」より徒歩約3分
・地図:Yahoo!地図
・TEL:078-333-1919
・営業時間:12:00~14:00(LO)、18:00~21:00(LO)
・定休日:不定休
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※メニューや料金などのデータは、取材時または記事公開時点での内容です。

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