今、つらくても、きっといつかいいことがある?
「彼のためなら私はいいの」というまるで演歌の世界のような関係はどうなのか。
カナさん(31歳)は、ときどき大げんかをして会わない時期がありながらも、同い年の彼と10年つきあっている。原因は彼の浮気。そして30歳までには結婚したいとずっと思っていたが、その願いは叶わなかった。
「友だちによく言われますね。そんなつらい思いをするくらいなら、いっそ彼とは本当に別れたほうがいいって。私も彼の浮気癖には疲れ切っているし、ここ何年かは誕生日も忘れられていて、このままつきあっていていいのかなと思うこともあるんです。ただ、もう10年もつきあっているし、私は彼にとって最後の砦みたいになっているような気がするんですよね。だからいつかは結婚しようと言ってくれるはず、いつかは私の大事さに気づいてくれるはずと信じています」
友人たちには「けなげすぎる」と言われるそうだ。デートをすっぽかされても、クリスマスイブを他の女性と過ごしていたとわかっても、カナさんは激怒したことがない。たとえ陰でひとりで泣いていても。
「今どき、なに“演歌”やってるのよと友だちに言われることもあります。でもつらいことをがんばれば、きっといいことがあるんじゃないかと思って……」
今、つらくても耐え忍べば、きっといつかいいことがある。私たちはついそう思いがちだし、それは尊いことのように思われているが、果たして本当にそうなのだろうか。
がんばりすぎて自分が破綻することも
「つらい恋愛」は、確かにやりがいがあるのだと話してくれたのは、ジュンコさん(33歳)だ。彼女は「ダメ男」と3年ほどつきあい、それまで一生懸命ためた貯金の半分をつぎ込んだ。「彼はいつかメジャーデビューするとがんばっていたミュージシャンだったんです。私はそんな彼を支えている自負があった。自分が彼の役に立っている、必要とされていると感じる瞬間があるんですよ。だからつらくても酔える。むしろつらいから酔えたんでしょうね」
彼にお金をせびられたわけではない。スタジオで録音したいなあとつぶやくのを聞き、自らお金を渡したのだ。彼の自転車が壊れたときは、どうせならいいのを買えと金を出した。
「彼にかっこよくあってほしい、私が彼をプロデュースしているという感覚だったんでしょうね、今思えば。だけどそのお金で、彼は他の女性にプレゼントをしたり旅行したりしていたんですよ。それがわかっても、ここはぐっと耐えたほうがいいと思ってた」
彼を成功させることができるのは自分だけ。他の人では長続きしないはずだという実感があったから、いつかは世間的に認められるカップルになるのだと信じていた。
「結婚したくて我慢しているわけじゃないと当時は思っていました。彼のことが好きだから、今は耐えるときなんだと本気で思ってた。あとから思えば、ただないがしろにされていただけだったのに……」
我慢していれば、きっといつかいいことがある。彼が変わってくれる。そんな漠然とした期待があったのだろう。
自由を選んだとき、体中の細胞が喜んだ
今まで目をつぶってきたストレスから、ついにキレた。
ところが3年たったとき、自分でも意外だったがジュンコさんの気持ちじたいが破綻してしまう。
「あれは何だったんでしょうね。見て見ぬふりをしてきたストレスがたまって、とうとう爆発したのかもしれません。何度目かの彼の浮気疑惑が浮上したとき、『もういいわ。あー、今までバカだったわ、私』と彼に向かって言ったんです。言うつもりもなかったのに、自然と口からそんな言葉が出ていた。半同棲状態だったので、私、すぐに荷造りを始めたんですよ。そうしたら彼が焦ってね、『まさか出ていくつもりじゃないだろうな』と。『出て行くわよ、もう一緒にいられない』と言うと、彼が急に涙声になった。いつもは彼が情けなさそうな声を出しただけで、私はすぐ折れていたんだけど、そのときだけは『泣きまねするな!』と怒鳴ってしまった」
そのまま彼女は身の回りの荷物だけをもって部屋を出た。追ってきた彼を蹴飛ばして振り切ったのだという。
「町を走りながら、なんだかとても自由になったと感じました。私は彼を独占したいと思っていたけど、結局、そう思うことによって自分も拘束されていたんですよね、恋愛に。お互いに思いやりをもって一緒にいるならいいけど、無理して我慢していただけだったとそのとき思いました。身も心も軽やかになって、体中の細胞が喜んでいると感じました」
体中の細胞が喜んでいるーー重い言葉だ。恋愛において、必要以上の我慢が実を結ぶことはほとんどないと言ってもいいのではないだろうか。
今、我慢すれば、のちにすべてが好転するというのは、我慢している側の錯覚でしかないのだ。
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