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津田大介氏が「マンション高齢化問題」について語る

あのジャーナリスト津田大介さんが、なんと住宅について語る! というのでセミナーに行ってきました。主催は住宅診断などの不動産サービスを行っている「さくら事務所」、テーマは「直面する2つの老い~マンション管理組合が問われる策」についてです。

山本 久美子

執筆者:山本 久美子

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津田氏

津田大介氏


津田大介さんといえば、Twitterのフォロワーが100万人を超える注目のジャーナリスト。筆者は、フジテレビ「みんなのニュース」の「ネットNAVI」コーナー(10月の番組リニューアルで終了)が大好きで、津田さんの紹介するネットの話題をいつも楽しみに見ていました。

津田さんの得意分野は、メディアやIT・ネットサービス、コンテンツビジネスなどだと思っていたので、「住宅」についてどういったコメントをされるのか、とても興味を持ちました。

津田さんが住宅のプロに質問「マンションの現状と課題は?」

セミナーの主催者は、ホームインスペクションなどでお馴染みの「さくら事務所」。セミナーのテーマは「直面する2つの老い~マンション管理組合が問われる策」についてです。

2つの老いとは、マンション自体も新築時に購入した人も、年を重ねるにつれて老いていくこと。老いによる課題は、マンションが住まいとして機能しなくなること、高齢者がもう長くは住まないから、家計的に大きな支出をしたくないからと、メンテナンスの費用負担を嫌うことなどです。

セミナー

津田大介氏ゲストのセミナー開催


セミナーは、津田さんがご自身のコメントを交えながら、住宅の専門家であるさくら事務所のお二人、長嶋修さん(不動産コンサルタント)と土屋輝之さん(マンション管理コンサルタント)に、質問を投げかけるというスタイルで進行していきました。

「都内各地でマンション建設に伴う訴訟やトラブルが起きていることがメディアで取り上げられていますし、東京の臨海地区のタワーマンションが今後どうなるのかなども気になります。以前から、マンションの問題には興味を持っていました」というのが、津田さんの開口一番。

「メディアやコミュニケーションという視点から、専門家のお二人に質問していきたい」とスタートしました。

まず、マンションの現状について津田さんが長嶋さんに質問。「マンションのストックが相当量あること、条件が厳しくて建て替えを実施することが難しいことから、マンションを長く持たせることが重要」と長嶋さん。アメリカのシアトルでは、築100年や120年といった建物でもしっかりメンテナンスをして、高い価格で売買されているといった事例も紹介して、「こうした環境を作っていくべき」と指摘しました。

また、「日本では、メンテナンスの違いがあるのに、エリアや築年数が同程度であれば価格も同じということがある。築年数ではなく、建物の状態を適切に判断して資産価値を評価することが理想」(長嶋さん)で、「すでに、マンションを長く持たせてきちんと評価する仕組みを作ろうといった動きも出ている」と政策的にもこの方向性で動いていることに触れました。

マンションを長く持たせるには、管理組合の活動が鍵を握る

津田さんの興味は、マンションの居住者に移りました。「どんなことで悩んでいるのか?」という質問には、土屋さんが「マンションの居住者は維持管理の費用が高額になっていくことへの不安や、合意形成する際に反対勢力がいるなどで決まらないといった問題を抱えている」と答えました。

長嶋さんの「一握りではあるが、リテラシーが高くて積極的な活動をしている管理組合もある」という話から、津田さんが、「管理組合のリテラシーが上がるとどうなるか?」と土屋さんに質問すると、「管理費や修繕積立金の無駄をなくすように精査して、減額するのではなくそれを貯めておいて、マンションの共用設備などのインフラを整えていこうと考える管理組合が多い」という説明でした。

インフラの整備については、津田さんも「マンションを賃貸した際に、光ファイバー回線はあっても回線速度が遅くて、YouTubeを見ている途中で落ちてしまうということがあったが、共用部分なので管理組合で解決しないといけない問題だと分かった」というご自身の経験を挙げて、「イノベーション(技術革新)に対応してマンションのインフラをいつどうやって更新していくのかなど、しっかり考えていく必要がある」と重要性を指摘しました。

津田さんはほかにも困った経験があったそうで、「自宅ではなくオフィスを賃貸したときのことですが」と話し始めた内容は、「隣室が英会話教室だったのでレッスンの内容が筒抜けで、うるさくて仕事にならなかった。どうやら、もともと1室だったものを仕切って2室に分けたので、天井まで壁がなく、防音工事もできなかった」というものでした。

マンションは、専有部分は所有者に決定権があり、ルールの範囲内で自由にできるので、所有者のモラルという問題もありますが、共用部分は所有者で構成する管理組合で協議して決めなければならないので、管理組合内のコミュニケーションはとても重要なのです。

登壇者

セミナーの様子


近年多く建てられた、タワーマンションは今後どうなる?

さて、津田さんも関心の高い「タワーマンションは今度どうなるのか?」についてです。長嶋さんは、「東京の湾岸部は都心に近く立地条件は良いが、埋め立て地なので液状化の懸念がある。首都直下型地震などのリスクが高まるなか、地震でマンションは倒壊しないけれど周辺地域でインフラがストップするリスクも考えたほうがよい」。

土屋さんは、「免震マンションも多いが、免震装置の耐久性などについては時間的な検証ができていない。タワーマンションは、免震装置だけでなく、そもそもの大規模修繕計画についても、推定レベルで立てている状態なので、実際に工事を行うには不透明な面もあるはず」。

そこで津田さんは「タワーマンションは、管理組合の意思決定も大変そうですね」と。管理組合を構成する人数が多くなるので、例えば話の分かる人を味方に引き入れたり、ベストな選択ができるように誘導をしたりといったことも必要ではないかとお考えのようでした。

これについては「管理組合の判断に正解はないので、コンサルタントとして参加する場合は中立性の立場を守って、どういった考え方ならどのくらいのコストがかかるのか、細かく提示して協議してもらうことになる」とコンサルの立場から土屋さんなりの解決法が紹介されました。

リテラシーとガバナンス 管理組合のキーワード

さて、長嶋さんが何度も口にしたのが「管理組合のリテラシー」という言葉です。「例えば、高額マンションでは築年数によらない価値評価がされる傾向があり、高額で売買される事例もある。管理組合のリテラシーが高く、早く適切に決定をしていることも要因」(長嶋さん)。

これに対し、津田さんは「会社組織のようなガバナンスが必要」と指摘していました。コーポレート・ガバナンスのように、管理組合も長期的にマンションの資産価値を向上させていく取り組みをしていくべき、ということなのでしょう。

いずれにせよ、管理会社任せではなく、管理組合が主体的に総合的に意思決定をしていくことが、マンションを長持ちさせるためには不可欠ということですね。

合意形成には徹底した情報公開が鍵

質疑応答のコーナーがあったので、筆者は津田さんに「今マンションでは、役員のなり手不足や総会の出席率の低さなど、合意形成が難しいという問題があるが、合意形成についてどう思うか?」と質問してみました。

津田さんは「合意形成のプロセスにおいて、情報公開を徹底することが大切」と、フィンランドに取材した事例を挙げて説明してくれました。フィンランドは、原発の最終処分場を建設した国です。当然賛否両論あるなか、「どんなメリットがあるのかなどの情報を公開することを粘り強く繰り返して、妥協点を見いだすことをしてきた」のだそうで、「それには三方一両損のような妥協点を探れる司会役の存在も大きい」(津田さん)。

つまり、マンションでは管理組合の抱える課題について、メリットやデメリットをしっかり提示し、粘り強く協議していくことが合意形成の鍵になり、妥協点を見いだす調整役がいるのが望ましい、ということになります。

情報公開については、長嶋さんが「シアトルの住宅を購入する際に、管理状態に関する膨大な書類を見るように言われた」ことを挙げて、「管理に関する情報の公開が進んでいるので、購入するほうも評価がしやすかったが、日本ではまだ購入予定者への情報公開も遅れている」(長嶋さん)という指摘もされていました。


ほかにも、津田さんからいろいろな質問が繰り出されたのですが、文字量の都合もあるので、少し絞って紹介させていただきました。津田さんの頭の回転の速さでしょうが、トークが停まることなくどんどん展開していき、聞きごたえのあるセミナーでした。

新しく始まったインターネットの「津田大介のULTRAネットナビ」も楽しみにしています。

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※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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