心の病に対する鍼灸治療の効果とは

心の不調

誰にでも起きうる心の不調。うつ病や適応障害などの精神疾患には、自殺リスクもあります。様々な対策が練られる中、鍼灸治療による治療効果も注目を集めています

先進7か国において自殺率の高さが際立って高い日本。中でも若い世代(20~39歳)の死因の第1位が自殺であることは大きな問題となっています。

日本財団による「自殺意識調査(2016プレスリリース)」によると、今回の20歳以上の男女4万人を対象とした大規模調査では「過去に自殺したいと思ったことがある」という人が4人に1人にのぼった事実が明らかになりました。

主な原因は、うつ病や病気などの健康問題が最も高く、次いで経済的な生活問題家庭問題仕事の環境となっています。多くの問題が関係していますが、うつ病や統合失調症、自閉症、適応障害などの精神疾患を発症しているのではないかと推測されています。近年はうつ病などの精神疾患への理解が進み、対策も練られてきていますが、とはいえ、未だ大きな問題であることは間違いありません。

いわゆる心の病は、西洋医学では脳機能に原因があるためとされています。一方で近年、心の病に対する鍼灸治療の効果も注目されてます。先日も知人の鍼灸師が「米で注目のうつ・自殺対策、日本独自の「無痛鍼灸」とは」(ダイヤモンドオンライン)という記事で紹介されておりましたが、精神疾患の改善にも可能性を秘めた鍼灸治療を、より多くの方に知っていただければと思っています。

服薬して体内で効くような薬と違い、「心の病を鍼灸で治す」と聞いても、東洋医学に馴染みのない方には今ひとつピンと来ないかもしれませんので、まずは東洋医学では心の病をどう捉えて考えているかについて、以下で解説します。

「気」を整える東洋医学の考え方…陰陽・気血水・五臓六腑

東洋医学の基本は、「気を調えるために、独特の診断、診察を行い、漢方や経絡、いわゆるツボ(経穴)などを用いて治療を行うこと」です。気とは、いわゆる「エネルギー」のようなものと考えてください。東洋医学では、身体を巡っている気(エネルギー)の流れが悪い、気(エネルギー)の質が悪いことで、病気となると考えます。

さて気の話をする際、必ず質問が出てくるのが「実際に気というのが存在するのか?」ということです。「気」も「経絡」も「ツボ」も目に見えず、測定することさえできないものなので、画像診断などでいろいろなことを明らかにしていく西洋医学の考え方に慣れた状態では少し理解が難しく感じるかもしれません。

まず、東洋医学の根底にある理論として、陰と陽(陰陽論)があります。陰陽は相対論として考え、例えば月が陰で太陽が陽、大地が陰で天は陽、女は陰で男は陽というふうに考えます。私たちの身体でいうと、陰は肉体を作り、陽は機能を表しています。肉体は実際に存在し、見て触ることができますが、機能は見て触ることが難しいですね。ボールを投げるという動作ひとつをとっても、実際には腕や足が動きますが、気(エネルギー)という機能が働き、ボールを投げるという動作になっています。

■東洋医学における「陰」と「陽」の考え方
陰陽の考え方

陰陽の考え方


さらに、東洋医学は気、血、水という物質を大事にします。血と水に関しては見て触ることができるので陰。気に関しては見て触ることができないため陽に分類されます。

たとえば「死」というのは、肉体はあるが動かない状態で、「気(魂)」が抜けた状態を表します。怒りや悲しみ、喜びなどの精神も見て触ることができないものなので、最終的には「気」といっても過言ではありません。

もちろん、「気」というものが単独で存在するわけではなく、血や水と密接に関係するので、切っても切り離せるものではありません。お互いに助け合い、抑制する関係があります。さらに気は根本的なエネルギーと考え、血や水を作るときに必要な物質です。貧血など血が不足すると、気が動員され、血となり結果、血は増えるが気は消耗していきます。

気血水

気血水


さて、この東洋医学でいう「気血水」は「五臓六腑」で作られます。気血水を作るためには、食事や呼吸、運動、睡眠、生まれ持った生命力などが原料となります。つまり、食事や呼吸、運動などの規則正しい生活を行い、五臓六腑が正常でなければ、気血水は作られない、もしくは質の悪い気血水を作ってしまうと考えられています。
五臓六腑

五臓六腑


良い気血水は全身を巡り、身体を健やかに維持しますが、悪い気血水は身体を悪い方向へ導いていきます。それが肥満や肩こり、腰痛、むくみ、肌荒れ、便秘、冷え、倦怠感、風邪にかかりやすいという身体的なトラブル、そしてイライラする、うつっぽい、不眠、涙もろい、落ち着かないなどの精神的なトラブルを引き起こします。

そしてこれらの状況は病気とは考えず、身体からのメッセージであり、これを「未病」といいます。

東洋医学における心の不調…「精神(神)は心に宿る」

西洋医学では「脳」が精神活動を支配していると説明されますが、東洋医学の考え方では精神を支配するのは「心」です。こう聞くと驚かれるかもしれませんが、何も東洋医学が「脳」の存在を無視しているというわけではありません。脳もしっかり臓腑として認識しています。

東洋医学では、脳を「元神の府」や「髄の海」と表現します。元とは首脳の意味で、人体の高級的な中枢神経の機能活動を担い、また髄とは骨髄、脊髄、脳髄があり、これらが集まったものを脳といい、精神活動を管理、統括していると考えます。

精神的な問題が「心」と関係のある部位に反応として表れやすいという経験からも「心と精神」の関係が言われているのかもしれません。たとえば緊張すると手のひらに汗をかき、心臓がドキドキしますよね。緊張した時の発汗(精神性発汗)は、心と深い関係があります。「緊張したら手のひらに「人」という字を書くと落ち着く」というのも実は「心のツボ」への刺激だったりします。

心と脳に精神(東洋医学では神ともいいます)があるので、そこへのエネルギー供給がしっかり行われること、しかも良いエネルギーが送られることが心の安定に重要です。

精神的なトラブルがあるとき、単純に心や脳の問題と考えず、陰陽、気血水、五臓六腑などの状態を把握し、さらに食事などの生活習慣、住環境、さらには性格などを踏まえ、診察診断を行わなくてはなりません。その際、鍼灸や漢方だけでなく、生活の改善などへも対応することが肝心です。

現在、私の治療院にもうつ病と診断されている方が多く来院しています。中でも特徴的だった女性の例をご紹介します。精神的に不安定になったのは35歳。会社で不安と苛立ちが抑えきれず大声を出し、気を失ってしまったそうです。気が付いたときは病院のベッドの上で、精神安定剤を処方されていたとのこと。2週間後退院しましたが、会社に行くのが怖くなり、そのまま退職してしまいました。

その頃、職場環境があまりにも劣悪でありストレスがひどかった、またちょうど生理で出血量が多く貧血を患っていた。初診時は、顔色が悪く、うつむき、猫背、声は小さく、動きも小刻み、ため息が多く、皮膚は乾燥し、髪の毛が痛み、どうみても実年齢より老けてみえる状態でした。身体を触ってみても、弾力はなく、筋張っていました。生活習慣を聞くと普段から食欲はあまりなく、ベジタリアン、甘いものを多く食べる、家から出ることが得意ではなく、ゴロゴロしていることが多い、という状態。

鍼灸治療は初めて受けるということで、恐怖感を与えることがあってはならないため、接触鍼や細い鍼による弱い刺激と指圧で身体中の滞っている場所へ刺激を行いました。また心へ有効なツボへシールタイプの置き鍼をはりました。

この女性は、気と血が少なく、気と血を作る栄養も摂れていない、動きたいと思うこともないなど、明らかに栄養不足だったようです。「気血両虚証」という状況で、五臓六腑も疲れ切っていました。鍼灸治療は体力がないとかえって負担となることがあるので、食事の指導と漢方薬、運動の指導を徹底しました。
毎週1度の鍼灸治療(回数を重ねるたびに普通の鍼を使用)と1年間生活習慣の改善によって改善傾向となった。1年間という長時間にわたる治療でしたが、薬を使わないレベルまでいくことができました。

私は鍼灸師なので鍼灸治療をする仕事ですが、東洋医学は鍼灸だけを指すのではなく、漢方、薬膳、運動などを含めた総合的なアプローチが重要です。
機能、つまり気の状態を調えるために、栄養状態の改善、そして流れの改善を並行して行い、「いい塩梅である」こそが心身ともに健康だといえます。

心の不調時、精神安定に効くツボ

精神安定に有効とされる代表的なツボをご紹介します。
精神安定のツボ

精神安定のツボ

  • 百会……正中線上、両耳の穴を結んだところ
  • 神庭……正中線上、髪の生え際
  • 印堂……正中線上、眉間
  • 神門……手首の内側のしわで小指側
  • 失眠……かかとの中央
上記のツボに当たる部分をご自身で押しても良いですし、ツボ押しなどの棒を使って押しても良いです。押す際は力を入れすぎず、やさしく押すようにしましょう。

何だか心に雲がかかってきた、気分がすぐれなずモヤモヤする、心の病気と診断されたという方は、一度鍼灸院でも相談されてみてはいかがでしょうか?
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