鍼灸とは何か・鍼灸効果のメカニズム

鍼灸

東洋医学のひとつである鍼灸治療。近年の研究で科学的根拠も明らかになりつつあり、WHO(世界保健機関)も多くの疾患に、鍼灸療法の効果がみられることを認めています

鍼灸は皮膚や筋肉などの「体の表面」に分布する感覚神経を刺激し、その刺激が脳、脳幹、脊髄などの「中枢神経系」を介して作用すると考えられています。その結果、体にある様々なカラダを調整する機能(内因性痛覚抑制系、自律神経、内分泌系、免疫系など)に影響を与え、自然治癒能力を高め効果を発揮します。

自然治癒能力とは

自然治癒力とは、人が本来持っている治癒能力のことを指し、薬品などの投与なく自らの力で治す機能のことであると考えられています。しかしながら、近年の西洋医学の発達により、本来持っているはずの自然治癒力を発揮する機会が減ってきており、病にかかりやすくなるなど免疫力の低下も危惧されています。身近な例として、なんでも抗菌加工をしてしまうことで、本来持っている身体のバリア機能が失われるという話を聞いたことがあるかもしれません。また、現代生活で毎日忙しい日々を送っていると忘れてしまいがちですが、実は人間には、本能的にさまざまな機能が備わっているのです。

本来は私たちも生き物ですが、長年に渡り元々持っている身体の働きに対して、人間独自に持つ知恵を絞り快適に暮らせるようにしてきました。しかしながら、その知恵のひとつである薬などを服用し続けると、自身の力での回復は難しくなり、効かなってしまうことは明らかです。近年、西洋医学は飽和状態となり、さらにより安全で、効果的な代替方法を求める人が増えてきています。そこで、再度注目を集めているのが、 4,000年とも5,000年の歴史とも言われている長年東洋医学として医学の中心的な役割を担い続けてきた鍼灸治療です。

WHO(世界保健機関)鍼灸適応症一覧

現在、WHO(世界保健機関)において鍼灸療法の適応とされている疾患は多科に渡ります。また、臨床研究が進められている疾患も大変多くあります。私自身は生殖医療(不妊症治療)に力を入れていますが、海外ではエイズや薬物中毒者へ鍼灸を行い、一定の効果を得ているようです。

以下に、WHOによる鍼灸適応症一覧を示します。
■神経系疾患
神経痛・神経麻痺・痙攣・脳卒中後遺症・自律神経失調症・頭痛・めまい・不眠・神経症・ノイローゼ・ヒステリー

■運動器系疾患
関節炎・リウマチ・頚肩腕症候群・頚椎捻挫後遺症・五十肩・腱鞘炎・腰痛・外傷の後遺症(骨折、打撲、むちうち、捻挫)

■循環器系疾患

心臓神経症・動脈硬化症・高血圧低血圧症・動悸・息切れ

■呼吸器系疾患
気管支炎・喘息・風邪および予防

■消化器系疾患
胃腸病(胃炎、消化不良、胃下垂、胃酸過多、下痢、便秘)・胆嚢炎・肝機能障害・肝炎・胃十二指腸潰瘍・痔疾

■代謝内分泌系疾患
バセドウ氏病・糖尿病・痛風・脚気・貧血

■生殖、泌尿器系疾患
膀胱炎・尿道炎・性機能障害・尿閉・腎炎・前立腺肥大・陰萎

■婦人科系疾患
更年期障害・乳腺炎・白帯下・生理痛・月経不順・冷え性・血の道・不妊

■耳鼻咽喉科系疾患
中耳炎・耳鳴・難聴・メニエル氏病・鼻出血・鼻炎・ちくのう・咽喉頭炎・へんとう炎

■眼科系疾患
眼精疲労・仮性近視・結膜炎・疲れ目・かすみ目・ものもらい

■小児科疾患
小児神経症(夜泣き、かんむし、夜驚、消化不良、偏食、食欲不振、不眠)・小児喘息・アレルギー性湿疹・耳下腺炎・夜尿症・虚弱体質の改善
 

肩こり症状への鍼灸の効果

また、現代の多くの人が悩まされている肩こりに対しても、鍼灸は有効であるという論文が多数投稿されています。

肩こりの痛みの軽減に対するランダム化比較試験(RCT)では、ローランドモリス質問紙(RDQ)により、鍼による施術を受ける前、2週間目、6週間目、9週間目に合計4回、痛みの度合いの評価を行い、数値化して比較しています。これによると、鍼による治療を行ったグループの方が、行っていないグループに対して低い数値(痛みを少なく感じるスコア)になるという結果が出ました。これは、鍼治療を行うことにより、肩こり(=痛み)が軽減されているということになります。1) 

また、メタアナリシスにより複数の結果を総合的に解析してみると、鍼治療を受けたグループが、鍼の偽治療を受けたグループよりも効果的であったことも報告されています。2) 今回は肩こりの緩和作用について紹介させていただきましたが、鍼灸はストレスの緩和にも非常に効果的です。一定の基準を満たした医療論文データベース『Cochrane Library』にも鍼灸効果に関する論文が多数掲載されており、その数は年々増えています。

なぜ鍼治療で効果が現れるのか

鍼灸の効果を実感できる理由として考えられるのが、βエンドルフィンによる作用です。鍼灸治療を受けると、神経伝達物質のひとつであるβエンドルフィンが身体の中で放出されます。

βエンドルフィンは、痛みを抑える鎮痛効果や、免疫力の向上、心地良さを与えるなど、神経に直接作用します。また、身体への負担やストレスを軽減し、内臓の働きや筋肉の動きを正常にし、機能を最大限に高め、新陳代謝を活発化していくことにもつながります。

自律神経を調整する鍼灸

また、鍼灸治療は自律神経の調整を行うことも得意としています。自律神経は、主に内臓などの身体の働きを担っています。意識しなくても、交感神経と副交感神経という2つの神経のバランスで正常に身体の中を動かすことができています。

実は、自律神経は、本当の意味で無意識で働いているわけではありません。人間がリラックスしたりストレスを受けることにより、働きが良くなることも悪くなることもあります。この自律神経の働きにより、呼吸や消化・吸収活動を行い、ホルモンが分泌され、新陳代謝を正常に行うことができるのです。心身ともに良い状態へ導くためには、この自律神経の働きを整えることがカギとなります。3) 4)

しかしながら、この自律神経は目に見えないものであり、無意識に日々のストレスを溜め込んでしまうことで、じわじわと体調の異常やトラブル、精神的な症状を引き起こすこととなってしまいます。現代社会では、仕事の拘束時間が長く、通勤でも体力を消耗し、さらにパソコンやスマートフォンなど持ち歩くことで、気持ちの休まる暇が少なくなっています。ひどくなってしまう前にうまく気づけると良いのですが、人はなかなか自分自身のことは顧みず、気づいたときには手遅れ=病気となってしまうことがあります。

病が表面に現れる前に治す「未病治」とは

「未病治(みびょうち)」という言葉が東洋医学にはあります。意味は、病気にかかる前に治す、ということです。この未病治という概念を持って、体のメンテナンスを行う方法の一つが鍼灸治療です。長い間、中国で培われ日本に渡った後、鎖国で中国や諸外国との国交が制限されている間に、独自の発展を遂げました。日本独自の施術方法として、杉山和一が考案したと言われている鍼の施術を行う際に使用する「鍼管(しんかん)」が挙げられます。これにより、管の中を通して鍼を行うことで刺す時に生じる痛みを和らげることができ、より細い鍼を使用することができるようになりました。また、鍼だけではなく日本では温める作用のあるお灸を積極的に取りいれて、施術時の痛みや怖さの緩和も行われています。

最後に鍼灸をより身近に感じていただけるよう、鍼灸と西洋医学、医師と鍼灸師の違いについて、それぞれ簡潔に説明したいと思います。

鍼灸と西洋医学の違い

例えば、西洋医学の場合、頭痛の症状が起こった際、それに対して効果のある薬が処方されます。それに対して鍼灸の場合は頭痛に効くツボに鍼を刺したり、その原因が首・肩の凝りから来るものであれば、そこにマッサージをしたりもします。場合によっては生活習慣などの改善もお願いします。

西洋医学との大きな違いはその痛みや病気の原因に対してアプローチするところではないでしょうか? また、治療時間も鍼灸の場合は比較的長くとることができます。当院では一人の患者さんの治療時間が大よそ40分~50分ぐらいかかります。

医師と鍼灸師の決定的な違いとは

クリニックや病院では医師を中心に多くのコーメディカル(受付、看護師、薬剤師、臨床検査技師)が働いていますが、鍼灸では、多くの場合、ご予約、問診、治療、処置、アフターフォローなど、鍼灸師が一環して行う事が多いです。ですから、患者さんとコミュニケーションを取る機会も増えます。故に、医師との決定的な違いは患者様と共にする「時間」にあるのではと思っています。4)

日本中、どの町でも鍼灸院は存在していますが、なかなか実態が分からないという声もよく聞きます。基本的には鍼灸治療を行う場ではありますが、それ以上に大切なことは、コミュニケーションをとりながら客観的に体を見てもらえることにあり、少しの変化でも気付いてもらえることでもあります。

鍼灸では患者様のお体を触診しながらのタッチコミュニケーションに加え、施術中の会話もあります。一人の治療時間は大よそ40分~50分程度。会話を通じて、その人の病や不調の背景なども含めて、全人的な治療を施すことが可能です。意外に知られていないかもしれませんが、鍼灸師は東洋医学的な観点から医療行為を行う、国家資格(医師と同じ、厚生労働省管轄)であり、鍼灸院は医療機関の一つとして、医師の診断や判断を取り入れながら、より快適に暮らしていくことができるようサポートする役割を担っているのです。5)

身体の症状や不調に対して効果的に鍼灸や東洋医学の考え方を取り入れていくことで、それぞれが上手に健康を維持していけるように心がけていただければと思います。

1)Meng CF, Wang D, Ngeow J, Lao L, Peterson M, Paget S. Acupuncture for chronic low back pain in older patients:a randomized, controlled trial. Rheumatology(Oxford). 2003; 42(12): 1508-17.
2)Manheimer E, White A, Berman B, Forys K, Ernst E. Meta-analysis:Acupuncture for low back pain. Ann Intern Med. 2005; 142(8): 651-63.
3) 日本鍼灸エビデンスレポート (Evidence Reports of Japanese Acupuncture and Moxibustion: EJAM) 東アジア伝統医学の有効性・安全性・経済性システマティック・レビュー(TEAM-SR)プロジェクト
4)とうめい厚木クリニック統合医療療法科 長谷川尚哉、 MED TED プレゼンテーション
5)東洋療法学会協会 鍼灸FACT BOOK

※執筆協力 アキュビ・メセナ 野田みき
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