ベンゼンとは……石油化学製品の基礎原料で、意外と身近にも

ガス工場

ガス工場跡の土壌に含まれていることがあります

「ベンゼン」はベンゾールとも呼ばれる、基礎的化合物の一つ。少し専門的な言い方では、炭素6個、水素6個が六角形の形で結合している「芳香族炭化水素」と言われるものです。

ベンゼンそのものは、無色の液体で甘い芳香を持っており、そのため「芳香族」とも呼ばれています。火をつけると燃えやすい引火性の高い物質で、20℃で気化します。沸点は80℃と水より低く、反対に融点は水より高く6℃です。ちなみに比重は0.88と水より軽い性質を持っています。

ベンゼンは、主に石油化学製品の基礎原料になります。染料や合成ゴム、有機顔料、医薬品、香料、合成繊維、合成樹脂、農薬などの材料になったり、染料や農薬、医薬品を溶解しておく溶剤としても使用されています。では、ベンゼンは人体にどんな影響があるのでしょう? ベンゼンの毒性や体内への影響とその対処法、致死量や環境基準について詳しく解説します。

豊洲市場でベンゼン発生の原因

ベンゼン自体は特殊な物質ではなく、工業溶剤やガソリンなどのモーター燃料にも含まれています。炭素を含む物が不完全燃焼した時に発生するので、自然界でも火山噴火や森林火災などによって炭素を含むものが燃焼すると発生します。

現在は中止されていますが、都市ガス原料であるナフサ(粗製ガソリン)を貯蔵するときにも、ベンゼンが発生します。しかしベンゼンに有毒性があることから、2006年にナフサの使用が中止されたようです。

しかし、2005年までの都市ガスの工場では現在でもベンゼンが発生しているのが現状です。昨今問題となっていますが、豊洲市場でベンゼンが発生するのは、1956年から1976年までの間、その地に東京ガスの工場があったためと考えられています。

ベンゼンの人体への影響……ベンゼンの毒性・中毒症状

ベンゼンは、呼吸器からの吸収(これを、「吸入」と言います)や皮膚からの吸収、もしくは経口で、体内に入ってきます。ベンゼンは目に見えず、気体になりやすいという性質を持つため、特に呼吸器からの吸入が問題になります。まず体内に入ったベンゼンは、脂肪組織や脂肪を多く含む内臓に取り込まれ、肝臓で代謝された後、腎臓を介して尿から排出されます。また、呼吸器からも息とともに体外に排出されます。

ベンゼンの毒性は急性と慢性に分けられます。急性の毒性としては、目、口、食道、胃、気道の粘膜への刺激と脳など中枢神経の異常があります。代表的な症状は、
  • 吐き気や嘔吐
  • 多幸感
  • 頭痛
  • めまい
  • 手足の動きのバランスが悪くなる運動失調
などです。また、ベンゼンを体重あたり176mg吸入してしまうと、肺に水が溜まる肺水腫や不整脈になり、経口した場合には肺炎や気管支炎になる恐れもあります。皮膚にベンゼンが付着すると、発赤や乾燥、水ぶくれ、痛みが伴う火傷のような状態になります。いわゆる化学熱傷です。麻酔のような作用により、けいれんや意識消失、呼吸停止を起こし、3日以内に重篤な症状を患い死亡してしまう場合もあります。

その一方で、慢性の毒性として、骨髄や免疫細胞への毒性が報告されており、発がんリスクも示唆されています。ベンゼンが慢性的に体内に侵入した後、体内で変化するためです。

ベンゼン中毒にならないための予防法・対処法

ベンゼン中毒にならないためには、当たり前ですが、ベンゼンの管理をしっかりとする必要があります。火気厳禁として火災を予防し、引火する可能性のある静電気予防が必要です。

あらかじめ高濃度のベンゼンがあるとわかっている場所で、体への影響を予防するには、換気や工業用マスク、保護手袋、保護衣、シールドなどであらゆる場所からの体内への吸収を防ぐことが重要です。ベンゼンを間違って飲んでしまった場合、吐こうとせず、気管に入らないように注意しながら胃を生理食塩水で洗う胃洗浄を行います。また、体内への吸収を防ぐために、活性炭や下剤を使います。けいれんが起こった場合には、抗けいれん薬を使うことになります。

吸入してしまったら、まずはベンゼンのある場所から速やかに避難しましょう。血液中の酸素が不足している場合には酸素を吸入します。呼吸器の症状が強ければ、呼吸管理になることもあります。

皮膚についた場合は、石鹸と水でしっかりと洗いましょう。それでも改善のない時には皮膚科を受診してください。また、目に入ってしまったら、大量のぬるめのお湯で15分以上洗い、痛みなどの症状があれば眼科を受診して下さい。

豊洲地下水からのベンゼン検出、長期的な危険性は

少し専門的な話になりますが、ベンゼンのヒトに対する推定経口致死量は、約10~30gまたは15~30mlと言われています。経口では体重1kgあたり50~194mgで死亡の報告があり、吸入では5分間で2~20000ppmで死亡例があります(公益財団法人 日本中毒情報センターより引用)。1ppmは0.0001%です。

ちなみに、マウスやラットが半分死んでしまう量は、経口で約5000mg/kg、吸入で7時間10000ppmです。ベンゼンが多く環境に含まれるのは、工場などの人工的な要因が大きく、工場で働く場合以外は、大量なベンゼンにさらされることは少ないのです。

環境省によるベンゼンの環境基準は、「大気中は1年平均値が0.003mg/立法メートル以下であること」「土壌中は検査する液体1Lにつき0.01mg以下であること」となっています。

そこで、豊洲の地下水検査の環境基準の79倍を検証してみます。地下水1Lに0.79mgのベンゼンが含まれているため、致死量に達する地下水量は、ベンゼン10gとすれば、約12700Lの地下水が必要になります。2018年4月4日に東京都は、17年12月から18年2月にかけて実施した豊洲市場の地下水調査の結果、最大で基準値の130倍を超える有害物質のベンゼンが検出されたことを発表しました。130倍ですと、約7700Lの地下水が必要になります。

現状では、この地下水で急性毒性はないと言えるでしょう。しかし慢性毒性の点では安全であるとは言い切れません。慢性毒性については、どの濃度でどの程度の期間ベンゼンにさらされると血液の病気になるかは、未だ不明な点が多いからです。豊洲への市場移転の議論も揺れ動いていますが、医師としては現在の数値を見る限り、急性な毒性はないものの、移転後にも数値が下がらず長期的な影響を見るのであれば、やはり環境基準を越えないことが望ましいのではないかとも思えます。数値が変動する可能性もありますので、地下水でのベンゼン濃度の推移結果が待たれる段階といえるでしょう。

なお2018年4月の東京都の調査では、残念ながら、あまり変化していない結果でしたが、今後の調査が待たれます。
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