東京都内のマンションで、エレベーターによる痛ましい死亡事故が起きたのは2006年6月のことです。それからしばらくの間、今日も閉じ込めがあった、また誤作動があった、というような報道が連日のように流れていました。
しかし、決してその時期に事故が急増したというわけではなく、それ以前にも数多くの事故がありながら、ほとんど報道されてこなかったのでしょう。
また、2007年3月にはエレベーターの検査員資格を取得するための実務経験を偽装していた2社が明らかとなったほか、4月には六本木ヒルズの「森タワー」でエレベーター機械室の火災が発生し、保守点検会社によるずさんな管理や点検の可能性が指摘されていました。
エレベーターの設置台数の急増や大型化に対して、各社のメンテナンス要員の確保が追いつかないような背景もあったのでしょうか。
近年はエレベーター事故の報道を目にすることが少なくなっているものの、事故そのものがなくなったわけではありません。
国土交通省は2010年12月以降の「昇降機等事故の概要」をまとめていますが、その資料によると2016年7月までの5年半あまりの間に、82件のエレベーター事故(うち死亡事故は27件)が報告されています。
このうち2015年は19件ですから、年間の事故件数はむしろ増えているといえるでしょう。2016年も半年あまりで、すでに6件の事故となっています。
また、事故があった82件のうち46件は「違法設置」されたエレベーターでした。違法設置は工場や倉庫に多いものの、住宅の事例もあるようです。
適法に設置されたエレベーターの事故で、マンションなど共同住宅の居住者が被害に遭ったものは10件程度(国交省の資料では明確に分けられていません)とみられ、マンション全体の中の割合で考えれば少ないのかもしれませんが、その大半は骨折を伴う重傷のようです。
なお、国土交通省の資料にはエレベーターの閉じ込めなど「単純な不具合」で、人身事故などではないものは含まれていませんから、これを合わせればかなりの事故件数になるでしょう。
マンションでは、たとえ軽微であってもエレベーターの不具合が頻発すると困ってしまうのですが、2006年の死亡事故のあと、少し興味をひく取材記事が新聞で報じられていました。
エレベーターの設置当初からトラブルが相次いだあるビルでは、オーナーからメーカーに対して「正常になるまでエレベーターに常駐しろ」といって徹底的な修理を要求したところ、その後はトラブルが起きていないという話です。
どのメーカーであっても機械の初期不良を完全になくすことはできないのでしょうが、いざ何らかの不良が生じたときにマンションの管理主体である住民がとるべき態度を示唆しているようにも感じられます。
故障のたびに応急処置で直してもらえばそれで大丈夫、というわけではありませんからね。
上記の国土交通省がまとめた事故概要では、エレベーター点検作業者の死亡事故も多く、一人ひとりは真剣に点検・修理作業に取り組んでいるはずですが……。
>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX
(この記事は2007年5月公開の「不動産百考 vol.11」をもとに再構成したものです)