ただ、それだけでは私たちが頭に描くような理想の田園風景を保つことはできません。そこにはある一定の美意識に基づいた知恵と行動力があります。「飛騨の匠」という言葉をご存知でしょうか。飛鳥や藤原京への徴用の歴史もあるほど、古来より高度な木材加工や建築技術が受けつがれている飛騨は、現在でも家具の産地として有名な地域なのです。
昔ながらの木造建築の残る「古い街並」。地域の人々によって大切に保存され、ここに暮らす人々の生活基盤を支える工夫が随所に見られ、もてなしの心も忘れない。飛騨の心意気を感じます。
“森林大国”日本の抱える問題点
国土の約7割が森林であり、戦後造林した人工林の蓄積(主に杉やヒノキの針葉樹)という資源がある日本。一方で針葉樹は、成長の早さゆえに家具としては柔らかかったり、日陰を作ってしまうため、ゆっくりと育つ広葉樹に影を作り枯らしてしまったりと、豊かな雑木林を次世代に残すには様々な工夫を必要とするタイミングにあります。また広葉樹も、その細さゆえに何十年とかけて育ち良質でありながらも規格外とされ、流通にのらずに活用されていないものが多くあります。
そういった様々な要因で、輸入材に頼る家具の産地も多いのが現状です。そんな中、飛騨は製材も木工加工も一括して取り組む体制なので、地域に自生する多様な材料を用いてデザイン性の高い家具を制作することが可能な環境にあります。
飛騨の環境を活かす「ウィンザーチェア」という椅子
とと姉ちゃんこと大橋さんのお気に入りだった「マッキンレイチェア」は、ウィンザーチェアの特徴をそのままに、日本の住宅事情に合わせたサイズ感/撮影場所:飛騨産業
ウィンザーチェアは17世紀後半よりイギリスで製作されはじめた椅子で、構造に特徴があります。上記の写真を参考にしていただくと分かりやすいのですが、座る面は分厚い材で出来ており、そこに背もたれ用のスティックと、脚が直接ささっている構造をしています。そのような作り方をすることで、国産の広葉樹のような細い木からでもひとつひとつのパーツをとることが可能になります。また、細い材に「ろくろ挽き」を施すことでデザイン性を高めています。
細い材を回転させて削る「ろくろ挽き」の作業風景/撮影場所:飛騨産業
飛騨の環境を活かすには、ウィンザーチェアは非常に適しており、昔から作られてきました。時代とともにリデザイン(既存のデザインを元に、より時代にあった諸条件で再設計すること)されながら発展して今に至ります。地産地消は、よい品質のものを値ごろ感ある金額で販売でき、技術を次世代へと受け継ぐことができる、持続可能な地域活性化の原点でもあります。
連続テレビ小説「とと姉ちゃん」の元となった「暮しの手帖」とも縁の深い飛騨の家具。飛騨の家具は長年愛用され、現在も販売されているという「ロングライフデザインの名産地」でもあります。
それでは以下で、歴史と魅力ある飛騨の家具のご紹介をします。
NEWMCKINLEY(ニューマッキンレイ)/飛騨産業
価格:60480円(税込)/サイズ:W485 D545c H945(mm)/材質:ナラ、ウォルナット ウレタン塗装仕上げ
飛騨産業初代のマッキンレイチェアは、1969 年に誕生しました。日本の住宅仕様に低めの座面高をした、当時のマッキンレイチェアはカントリースタイルの椅子でした。
「NEWMCKINLEY(ニューマッキンレイ)」は、現代の暮らしに合うようモダンにリデザインされ、シンプルで軽やかな素材感が特徴の椅子です。写真の仕様は、ウォルナットのダークブラウンと、ナラのクリアなツートンなので、引っ越しの際に床の色が変わってもどちらにも合わせることが可能です。
「kinoe (キノエ)」/飛騨産業
販売予定価格:54000円(税込)*2016年11月末発売開始。
素材の個性を活かし自然のまま家具に活かすこと、 持続的な国産材の育成を目指すこと。 この2つの想いを元に考えられた椅子「kinoe(キノエ)」。どの角度から眺めても美しく、まるで拾ってきたお気に入りの枝をそのまま用いたかのような佇まい。自然をインテリアに取り込めるような不思議な魅力があります。国産材の枝を活かし、ひとつひとつ表情の異なる椅子に仕上がるアートのようなデザインが特徴です。
デザイナーの貝山氏ご本人作の、枝のアートワークと「kinoe」。枝をより「枝っぽく見せる」ためには自然のカタチを活かしつつ、手を加えることによって「木の個性」がでてくるとお話を伺いました
AWASE (あわせ)/飛騨産業
販売予定価格:194400円(税込)*2016年12月19日の受注開始予定
「AWASE(あわせ)」シリーズは、伝統的なウィンザーチェアをベースに、現代のライフスタイルをイメージして開発しました。やや高めの背が特徴のウィンザーチェアは、座った時に広さを感じることができ、空間を軽やかに見せる効果があります。合わせるファブリックが着せ替えやすい作りになっているのも大きな特徴。「AWASE」は「合(あわせ)」という意味であり、二つ以上のものを一つにする「合わせ」という考え方を提案しています。
テーブルにキャビネットを合わせて使う等、機能面でも「合せる」というコンセプトを表現
HIDA(子供椅子)/飛騨産業
価格:33480円(税込)/ サイズ:W250 D295 H440 mm/ 材質: 杉板目材(節入り)・ビーチ ウレタン塗装仕上げ
プクッとした赤ちゃんの様な愛らしい雰囲気が漂うキッズチェア。素材は国産杉を使用。無垢材を使用し、家具材として今まで敬遠されてきた木の節を、 同じものは2つとない無垢の木ならではの美と捉え積極的に取り入れているため、世界に一つしかない木目・色合いをした愛着の湧く仕上がりになっています。
月華(ゲッカ)/柏木工
価格:58860円(税込)/サイズ:D535 W450 H830/孟宗竹・オーク ウレタン塗装仕上げ
和のイメージの強い竹ですが、他の素材との相性もよく、生活空間に新しいテイストを演出しています
デザインのポイントとなる背もたれの部分に国産材の孟宗竹が使われており、しっかりとしなって体を支えてくれます。竹は古来より工芸、生活具、建築材など多様な領域で使われ、日本独自の文化を築いてきました。竹は非常に成長が早く、3年で使用可能な材になる一方で、近年竹の需要が減り、放置された竹林が雑木林を浸食してしまうことが社会問題にもなっています。このような、美しいデザインに機能的に収まることで、様々なシーンで竹の利用が増えるようになると日本の風景が変わるかもしれません。
同シリーズの座椅子。リノベーションで畳をおいた空間にシンプルに合わせるのもおすすめです
広葉樹の森 子どもイス/オークヴィレッジ
価格:21600円(税込)/サイズ:W360 D300 H460mm SH270mm/ 材質:(国産)ブナ、サワクルミ等 ・オイル仕上げ
根尾地域で育った規格外のサワクルミとブナを使った小さな椅子。身体に直に触れる座面には、柔らかくあたたかい質感のサワクルミを、フレームと脚は粘りのあるブナを使い、伝統的な木組みで、木材の特徴を適材適所に活かしデザインされています。可愛らしい形状ながらスタッキングも可能で、機能的にも優秀です。
cobrina(コブリナ)テーブル/飛騨産業
価格:95040円/サイズ:W890 D800 H700(mm)/材質:ナラ ウレタン塗装仕上げ
コンパクトで軽快、空間を広く使える“こぶりな”家具のシリーズのダイニングテーブル。半円形のような形状は円卓としても、また、壁に寄せてコンパクトに使用することもできます。テーブルを壁から離せば、円卓のように集まって使うことができます。角がないやさしい形状の天板は、どんな空間に置いても圧迫感がなく、しっくり馴染みます。
壁付けして使える辺と、穏やかなアールが、空間を広く見せてくれる効果も
飛騨の各家具メーカーは、日本の森林を守るために様々な努力をしています。デザインで付加価値をつけて、世界中にデザインの魅力で販売していく姿勢は、西洋の文化を吸収し独自の家具に発展させていった日本人の得意とするところです。
観光に訪れるにも気持ちのいい時期に開かれる「飛騨の家具フェスティバル」の時期には、飛騨の家具メーカーがこぞって自社ショールームで新製品を発表します。飛騨観光の予定に、家具メーカー周りを加えてみるのも、東京のショールーム巡りとは違った楽しみがありおすすめです。
■関連リンク
暮しの手帳の通販会社 グリーンショップ:飛騨産業
「飛騨の家具フェスティバル」公式サイト