涼しくなっても油断禁物!魚の寄生虫による秋の食中毒
脂が乗って魚が美味しくなる季節。しかしアニサキスやクドアなど、魚の寄生虫による食中毒も報告されています。購入から調理まで予防のためのポイントをご紹介します。注意が必要です
魚の寄生虫が原因の食中毒として最もよく知られているものは「アニサキス症」。アニサキス症は海外と比べ、日本で多く発生しています。その背景は、お寿司やお刺身などの生食を好む食習慣に加え、温度管理や冷凍技術が進み、広範囲から鮭を輸送してくることが可能になったこともあるようです。
東京都内の食中毒件数を病因物質別に見ると、平成22年以降、アニサキスなどの寄生虫による食中毒はノロウイルス、カンピロバクターに次いて3番目に多く発生しており、年々発生件数が増えています(東京都福祉保健局)。また平成27年度においては、大体月間で10件程度の発生率が9月には24件ともっとも多く発生していました。
冷凍技術が向上し、事業者の温度管理などが徹底されているとはいえ、食品安全のリスクがゼロにはなりえません。消費者である私たちも、正しく寄生虫について理解しておき、安全対策をすうるようにしましょう。
最も発生件数の多いアニサキスとは
アニサキス幼虫は、長さ2~3cm、幅約0.5~1mmの白い糸のような線虫です。アニサキスの卵は、クジラ等の海洋哺乳類から糞と共に海に排出され、ふ化したアニサキス幼虫は、オキアミに食べられます。オキアミを食べた魚や、さらにその魚を食べた魚介類へと、食物連鎖で広がるため、サバ、イワシ、カツオ、サケ、タラ、イカ、サンマ、アジなど、私たちにとって日頃よく食卓に上る多様な魚介類に寄生しています。
東京都が市場に流通する90魚種750尾を検査した結果(平成24年4月~26年3月まで)、35魚種119尾でアニサキスの寄生を確認したと報告しています(東京都福祉保健局)。
アニサキス幼虫は、主に魚介類の内臓表面に寄生していますが、魚介類が死亡すると、内臓から筋肉に移動します。
アニサキス症の症状
それではアニサキス幼虫が寄生している魚介類を生で食べてしまった場合、どうなるのでしょうか? アニサキス幼虫は通常ヒトの体内では成虫になれないので、そのまま排泄されます。しかしまれにアニサキス幼虫が胃壁や腸壁に刺入することで、食中毒が引き起こされます。食後数時間から8時間後に、みぞおちの激しい痛みや嘔吐を生じます。多くが急性胃アニサキス症ですが、食後十数時間後から数日後に急性腸アニサキス症が発生すると、激しい下腹部痛、腹膜炎症状を生じます。
他に、消化管を穿通して腹腔内へ脱出する消化管外アニサキス症や、アニサキスアレルギーによる蕁麻疹やアナフィラキシー症状を呈した症例も報告されています。
アニサキス以外の主な寄生虫…クドア・ブリ糸状虫
他にもヒラメには、クドアという魚の筋肉に寄生する粘液胞子虫がいることがありますが、クドアが人の体内で成育することはありません。クドアが寄生したヒラメを刺身、マリネ等の生食したり、加熱不十分の状態で食べると、数時間程度(約2時間~20時間)で一過性の下痢・嘔吐を引き起こしますが症状は軽度で、ほとんどは発症後24時間以内に回復し、後遺症もないと報告されています。またブリなどには、目視できるミミズのようなブリ糸状虫が、血合いのところに寄生している場合がありますが、これもヒトには害がありません。もし間違えて食べても排泄されます。ただし、見ていて気持ちが良いものではありませんから、除去してほしいものです。
魚の寄生虫による食中毒予防法
生食する場合、一度-20度以下で24時間以上冷凍されると、寄生虫は死滅します。
ただし、サケ科の場合はアニサキスが筋肉内に寄生していることが多いので注意してください。イカ類は目視できることが多いので、確認したら除去しましょう。
調理する際に、無意識に寄生虫が手指から口に入ることがありますから、まめに手洗いをしましょう。また包丁やまな板を使うときは、野菜と生の肉や魚介類用の包丁やまな板は分けて使いましょう。
酢は、酢酸などを含み殺菌効果が高いと言われていますが、アニサキス幼虫は酸に対して抵抗性があり、一般的な料理で使う程度の量、濃度、時間では、酢じめにしても死滅しません。また同様に塩漬けや醤油、ワサビを付けても死滅しませんから、過大な期待は禁物です。
アニサキス幼虫も含めて、寄生虫の多くは、60℃では1分、70℃以上で瞬時に死滅するため、加熱調理をしましょう。また-20℃で24時間以上中心部まで冷凍すると死滅するので、生食する場合は冷凍・解凍後のものにしましょう。
アニサキスの寄生した生餌を与えていた場合などを除いて、養殖魚にはアニサキスの寄生がほとんど認められていないので、養殖魚は安全といえるでしょう。
■参考
・アニサキス食中毒を減らそう! (東京都福祉保健局)
•寄生虫による食中毒にご注意ください。 食品安全委員会
・アニサキス症とは(国立感染研究所)
・その他