2017年1月、個人型確定拠出年金の規制緩和が行われる
筆者はAllAboutの401k・企業年金のガイドでもありますが、確定拠出年金制度(日本版401k)は来年に大きな改正が行われることになっており、現在大きな注目が集まっています。個人型確定拠出年金の規制緩和がそれで、現役世代は原則として全員利用できるようになるのです。2500万人以上が新たな利用者となるはずで、金融機関は新たなビジネスチャンスと考えています。
個人にとっても、確定拠出年金ほど税制上のメリットのある制度はありません。まず、自分の将来(老後)のためにお金を確定拠出年金口座に入金し積み立てるだけで、そのお金については所得税や住民税の課税対象から外れます。自分の老後のための資産形成が、自分の税負担を軽くしてくれるのです。
これは言い換えれば、所得税や住民税を引かれなかった分、最初から運用で稼げたようなもので、それだけで15~20%くらいの儲けになる可能性があります。
さらに運用で得られた収益~売却益・利息・投資信託の収益分配金等~もすべて非課税です。こうした利益については20%を引かれるのが原則ですが、これが免除されます。仮に5%の運用益があったとき、4.2%しか残らないのと5%すべて残ることを比べれば、どちらが有利かは明らかでしょう。
受取時には税金を引かれるものの、これも軽減税率が用意されており、非課税になるか引かれてもわずかな税金ですみます。
国は要するに、「自分の老後のために自分で備える人には税金を軽くしてもいいので、自力でお金を貯めることもがんばってくれないか」とメッセージを投げてきているわけで、これを使わない手はありません。
最高の税制メリットをもらう条件は「解約禁止」
しかし、都合のいいことばかりではありません。こういうメリットには何らかの「裏」があると考えるべきです。ひとつの「裏」は公的年金の縮小です。公的年金はどんなに長生きしても基礎的な生活費を保障してくれる部分だけに収まっていきます(それはそれで大きな助けであるが)。しかしこれは確定拠出年金を利用する人も利用しない人も影響を受けます。だとすればやはり利用しないほうが損、ということになります。
もうひとつの「裏」は中途解約の制限です。確定拠出年金は老後のための積立であり、強力な税制優遇もそのためのもの、という位置づけになっています。そこで、中途解約をして現役時代のお金のニーズに使うことを制限しています。
これがまた厳しい制限となっており、基本的に解約は行えません。2017年からは現状の解約制限をさらに厳しくし、無収入であるなどの理由で国民年金の保険料を免除されており、かつ残高も25万円以下といったような厳しい条件になります。
今までは結婚退職をして専業主婦となる場合で50万円以下、というように該当者がそれなりにいたのですが、今後はほとんどの人は「60歳まで解約不可」ということになります。
一見すると下ろせないことは困ったことです。しかしマネーハック的にいえば、この「おろせないことはむしろいいこと」かもしれません。
さて、なぜでしょうか。
老後の資産形成を考えればこれはむしろいいこと
本来の制度の目的である「老後のためのお金の積立」という側面を考えてみましょう。実はこれ、とても難しい問題なのです。老後のお金を貯めることが難しいことは、個人のお金に関する行動が、いかに非合理的か研究している行動ファイナンスでも格好の研究テーマとなっています。
たとえば、私たちは今お金をガマンすることが将来の幸せにつながる意義があっても、現在と未来を正しく天秤にかけることができません。やっぱり今を楽しく過ごしたいと考えてしまうからです。
しかもその将来が20~30年後であって、その目標額が3000万円といわれたら、合理的にコツコツ積み立てる「実行」には向かず、思考停止するか、実行を拒否することになるでしょう。
あるいは、ちょっとは貯めることができても、途中で何かお金を使いたいとき取り崩してしまうかもしれません。目の前の欲望と将来に向けたガマンはバランスを取ることが難しいからです。
継続し、解約しないことは老後資産形成の重要なルールなのですが、何の制限もなく、それを実行できる人はなかなかいないものです。
絶対におろせない口座を活用しよう
つまり、確定拠出年金の「60歳まで絶対におろせない」は、本当に老後のためにお金をつみあげていきたいのであれば、デメリットではなくむしろメリットと考えるべきです。幸いにして、確定拠出年金はいきなり何百万円も入金し、突然おろせなくなって困るような仕組みではありません。毎月数万円程度をコツコツ積み立てていく仕組みです(働き方などにより月1.2~6.8万円だが、多くの人は1.2万円か2.3万円が上限となる)。
また、確定拠出年金の資産は担保に取られるようなことも法律上禁止されていますので、仮に自己破産することになっても60歳へ残せる財産になっています。それくらい「中途解約禁止」の条件は強いのです。
だとすれば、確定拠出年金に毎月積み立てていく金額については「これは老後のための虎の子の資産であり、何があっても解約しないのだ」と言い聞かせて、コツコツ積み立てていくことが必要です(もちろん解約したくてもできないわけですが)。
「絶対に解約できない」ということは、長い目で見れば「確実に老後が豊かになる資産形成が進展する」ということでもあります。おろせないことをむしろ良いことと考えれば、それは確実に老後の豊かさや幸せにつながっていくのです。
2017年1月にはぜひ、確定拠出年金制度の活用を検討してみてください。