肺・気道の病気/間質性肺炎・マイコプラズマ肺炎・SARS

マイコプラズマ肺炎流行の時期・早期発見のコツ

【医師が解説】マイコプラズマ肺炎は、以前は4年に一度の周期で流行して「オリンピック病」とも呼ばれていました。子供だけでなく大人も感染し、長引く咳などのつらい症状が出ます。マイコプラズマ肺炎の流行時期、早期発見のために知っておくべき初期症状、予防法などを解説します。

清益 功浩

執筆者:清益 功浩

医師 / 家庭の医学ガイド

オリンピック病とも呼ばれるマイコプラズマ肺炎とは

マイコプラズマ肺炎の流行時期

肺炎マイコプラズマという病原体はこのような形をしています(旭化成提供)

マイコプラズマ肺炎は、「Mycoplasma pneumoniae」という細菌によって引き起こされる肺炎です。発熱、咳、鼻水が見られ、特に、咳がひどい病気になります。症状については、「マイコプラズマ肺炎の症状・治療・予防法」で詳しく説明しておりますので、参考してください。

マイコプラズマ肺炎は感染症です。細菌が感染して発症までの潜伏期間は1~3週間で、非常に幅があります。そのためいつ感染したのかわからない状態で、感染していることがあります。

まずは、咳や発熱などの症状が出ている場合、マイコプラズマ肺炎かどうかを調べる必要があります。マイコプラズマは人から人へ、咳、痰、唾などで飛沫感染しますので、咳が出ている人はもちろん、周りに咳をしている人がいる場合はマスクなどで予防するなどして、それぞれが感染拡大を止める工夫が必要です。
 

マイコプラズマ肺炎の流行時期と現状

マイコプラズマ肺炎には流行の波があるので、現在日本で流行しているのかどうかを知ることも大切です。以前は、夏季五輪の開催年に流行することが多かったため、「オリンピック病」とも呼ばれてしましたが、現在は流行時期が少しずれています。2016年はたまたまリオ五輪と重なっていますが、近年は五輪開催年に限らず、数年に1回は流行しています。

数年ごとに流行するのは、マイコプラズマに対する免疫は、長くは維持されにくいためです。一度罹ったからと言って、誰しも安心はできません。

国立感染症研究所マイコプラズマ 過去10年との比較のグラフ」では、過去の流行状況が判るだけでなく、現在の流行状況も判ります。グラフの見方は、年によって色分けされています。

1週が1月から始まりますので、夏から冬にかけて、徐々にマイコプラズマに感染する患者が増えていること、2011年、2012年に大流行があったことが判ります。2016年のグラフは、2012年と同じような形になっており、このデータから見ても、2016年はマイコプラズマ肺炎に注意すべき流行り年でした。2017年以降はそう多くなく、COVID-19以降は減少していましたが、2024年は2016年を上回るほどの流行状況になっています。
 

マイコプラズマ肺炎を早期発見する方法・迅速検査とは

迅速検査キット

迅速検査キットです。リボテストと呼ばれる検査キットで本院で使用しています(写真:旭化成ファーマ提供)

まずは、早期発見が大切。マイコプラズマ肺炎が疑われる症状がある場合、風邪だと思って放置せず、医療機関を受診するようにしましょう。

早期診断のためには、感度、特異度の高く、簡便な迅速検査を受けることが大切です。現在の迅速検査ですが、インフルエンザに関しては迅速に診断ができるようになっていますが、マイコプラズマの迅速検査は検査キットにもばらつきがあり、感度、特異度ともに残念ながらあまり高くない状態です。そのため、診断の正確性はインフルエンザと比較するとよくありません。その現状も踏まえたうえで検査を受けて、見つけられるものは早期に対処していくことが必要なのです。

実際のマイコプラズマの迅速検査は、ノドをしっかりとぬぐって検査します。マイコプラズマという菌は主に肺に感染して増えるため、実のところノドではほとんど増えません。そのため、ノドをぬぐう方法でちゃんと検査できるようになるのは、咳がひどくなってからです。肺に存在するマイコプラズマがノドに運ばれることで、検査で陽性になります。私の病院でも採用しているリボテストと呼ばれる検査は、10人の患者さんに対して検査で陽性になるのは10人に7人程度です。
少し時間がかかりますが、感度、特異度の高い検査が、マイコプラズマの遺伝子検査です。LAMP法と呼ばれています。同じようにノドをこすった綿棒でマイコプラズマの遺伝子があるかどうか増やしてみて、増えると陽性だとわかります。ただし遺伝子を増やす機械が必要ですので、すべての病院では測定できません。外注検査を行って検査会社で測定することは可能ですが、その場合結果がわかるまでに2~3日はかかります。

また、血液検査による迅速検査がありますが、こちらも感度と特異度が悪いのが現状です。マイコプラズマに対する抗体はペア血清での比較という方法で行います。初期と回復期で抗体が上昇していれば、マイコプラズマ肺炎だったことが診断できますが、残念ながら早期治療には役に立ちません。

では結局、早期発見するために手がかりになるのは何なのでしょうか? それはまず、周りにマイコプラズマ肺炎の人がいるかどうか、過去4年以上マイコプラズマ肺炎にかかっていないことなども合わせて参考にして考えるしかありません。これらの条件にあい、ひどい咳が出始めた場合、しっかりとノドを綿棒でこすって迅速検査してみることで、比較的早期に発見できるのではないかと思います。2~3日時間的な余裕がある場合は、上記の遺伝子検査を行うことが有効です。
 

マイコプラズマ肺炎の予防法……飛沫感染を防ぐ手洗い・うがいも有効

マイコプラズマ肺炎は主に飛沫感染なので、他の風邪などの呼吸器感染症と同じ方法で感染しないように予防と対策を行うことが大切です。
  • しっかりと手洗いすること
  • 人混みを避けること
  • マスクをすること
  • 帰宅時にはうがいをすること
  • 屋外と屋内で衣服を替えること
  • 周りの身近な人がマイコプラズマ肺炎と診断されたら、治療を受け、マスクをしておくこと
などが有効です。
 

マイコプラズマの重症化予防・感染拡大を止めるために

上記のような予防法を心がけても、マイコプラズマの感染リスクをゼロにできるわけではありません。もしも感染してしまった場合は、数多くの種類があり一般的に処方されやすいペニシリン系、セフェム系抗菌薬などを使っても、残念ながらマイコプラズマに対して効果がありません。マクロライド系、テトラサイクリン系、ニューキノロン系抗菌薬を使って、適切な治療を受ける必要があります。ただし、マクロライド系抗菌薬に効かないマイコプラズマもありますし、8歳未満ではテトラサイクリン系抗菌薬は、歯の色が変色する可能性があるので、使用しないなどの注意点があります。

つまり、重症化しないためにも、まずはマイコプラズマ肺炎ではないかと疑い、確定させるための検査を受ける必要があるのです。適切に早期治療を受けることが重症化予防の最善策でしょう。

もしも高熱が出て、咳がひどく、自分の周りの状況を考えてもマイコプラズマ肺炎が疑われるようなときは、なるべくすみやかに医療機関で検査を受けましょう。早期発見できれば、治療を受けて症状を和らげることもできますし、周りへの感染拡大を食い止めることもできます。

まずは今年の流行状況を知ったうえで、症状が出た場合に疑う気持ちを持つことが大切です。

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