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イギリス国民がEU離脱を望んだ本当の理由とは

6月23日、EU(ヨーロッパ連合)からの離脱を問うイギリスの国民投票が行われ、離脱が過半数を獲得。約2年後を目処にした離脱が確定的となった。日本では離脱による経済的デメリットが強調されたことで株価が暴落するなどの影響があったが、反面、離脱に動いた理由にあまり目が向けられていない。今回イギリス国民が離脱を求めた本質的な理由とは何か?

松井 政就

執筆者:松井 政就

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去る6月23日、EU(ヨーロッパ連合)からの離脱を問うイギリスの国民投票が行われ、離脱が過半数を獲得。約2年後を目処にした離脱が確定的となった。
イギリス国民がEU離脱を望んだ本当の理由とは

イギリス国民がEU離脱を望んだ本当の理由とは


この結果は当初の予想を覆すものであり、とりわけ日本では株価が大幅に下落するなどの影響があった。ところが日本以外の国ではそれほどの変動は起きず、日本が過剰反応だったことがわかった。

その原因は日本では離脱による経済的デメリットばかりが強調され、イギリス国民が離脱を主張した本質的な理由にほとんど目が向けられていなかったからである。

誇張される経済的デメリット

今回の国民投票は各局がリアルタイムで開票速報を打ち、結果が判明すると、一斉に離脱が日本経済に与える打撃について報じた。日本企業にとってイギリスはEUにおけるビジネスの拠点であることなどから、離脱によるデメリットが強調された。

だが、メディアが報じるデメリットはそのほとんどが日本のビジネスに限定されたもので、国家としてのイギリスを憂うものは少なかった。

そもそも本当に国家としてデメリットしかないならばそのような決断をイギリス国民が下したりはしない。

実はこの決断の根底には、経済面で多少の犠牲を覚悟してでもイギリス国民が守ろうとしたものがある。

経済を犠牲にしてでもイギリス国民が守ろうとしたもの

EUの一員であることでイギリスは工業製品の輸出など経済面での大きなメリットを受けてきたのは事実である。

その一方で、押し寄せる移民による雇用の悪化、治安の悪化、またEUの共通漁業政策によってイギリス国民の漁が制限されている問題などの火種がくすぶっていた。

EUの政策によって起きている問題であるなら、EUがその対処に動くのではないかと思われがちだが、現実はそうではない。社会主義的とも言われるほどの中央集権体制をとるEUにとって、各国の事情はしょせんローカルな問題でしかなく、問題解決を望んでもその声に耳を傾けることはない。ならば自国で対処したいところだが、EUとしての共通政策に反することはできない

人間にとって、経済さえ豊かなら他のことは我慢できるかといえば、必ずしもそうではない

わかりやすく日本に置き換えてみよう。

日本に置き換えると深刻さが理解できる

次のような「仮定」をしてみよう。
たとえばアジア地域に「アジア連合」というEU的な連合体が誕生し、日本もそれに加盟したとする。

アジア連合の本部はたとえば上海に置かれるとする。本部には各国から1名の代表者が出され、発言権は各国1つで、何事も全体最適を基準に中央集権的に決められる。すると、次のようなことが起きると予想される。

まず、加盟国間の行き来は自由となり、学生が留学することや、労働者が他国で働くことも原則自由となる。また工業製品への関税もなくなることで大企業の経済活動は活発化し、株価も上がり、経済指標はよくなるだろう。

やがてイギリスと同じことが起きる

ところがその裏では別の事態が進行する。
加盟国間の人の行き来が自由となったことで、仕事を求めて大量の移民が日本にやってくる。人件費抑制を理由に日本企業は積極的に彼らを雇い日本人の失業率が上昇する。しかしアジア連合としての取り決めにより自国民だけの優遇は許されない。

さらに外国人が日本で土地や住宅を自由に取得できるようになり、商業エリアや高級住宅街などを莫大なお金を持つ外国人富裕層が買い漁る。不動産価格は高騰し、日本人がその場所に住めなくなり、転居を余儀なくされる。

(※参考までに申し上げると、中国に返還されたマカオでは、自治権は今もマカオにあるにもかかわらず、中国人富裕層によって不動産が買い占められ、マカオ人が住めなくなる問題が深刻化している)

自分のことを自分で決められる権利が失われる

とくに漁業は深刻な事態に直面する。
アジア連合の共通漁業政策によって加盟国への漁業割り当てが決められる。もし国土や人口の比率が基準となれば、現在の日本領海内で日本の漁船が自由に操業できず、逆に中国の船のほうが多く操業するような事態も起きるようになる。

だが、抗議の声はアジア連合本部には聞き入れらえず、自国の問題を自国で解決する権利を失った状態となる。
つまり、事実上の「主権を失った状態」である。

社会は混乱し、現在でさえ問題となっているヘイトスピーチのような排他的活動も深刻化する。

EU離脱問題の本質

自分たちの社会で起きている問題を自分たちで解決する権利も奪われ、不満や問題点に対してアジア連合本部が耳を傾けてくれないとしたら、あなたはどう思うだろうか。

こうした状況に耐えられなくなり、イギリス国民は自分たちのことを自分たちで決める権利を取り戻そうと考えた。これが今回イギリス国民がEUから独立したいと考えた本質的な理由である。

それでもあなたは残留すべきと断言できるだろうか

もし日本が同様の状態に置かれた場合、果たして我々日本国民は、それでもなお連合体に残留すべきと判断するだろうか? 経済面のメリットさえあれば主権を奪われた状態でもいいと考えるだろうか?

その答えは一人ひとりが自分の心に問いかければ一番正直な答えが返ってくるはずだ。

日本では離脱による経済的なデメリットばかりが強調され、離脱に投票したイギリス国民を無責任であるかのように報じるケースが目立つ。

しかしイギリスのEU離脱を問う国民投票はこのような状況下で、奪われた主権を取り戻そうとして行われた切実な叫びに他ならない。

52対48が意味するもの

今回の結果は離脱と残留が52対48という僅差であったことから、まさに国民の判断は二分されたかたちだ。

だからといって国民の心も完全に離脱と残留に分かれているかといえば、決してそうとは言えない。投票結果が52対48であったのと同じく、国民一人ひとりの「心の中」も離脱か残留かの間で激しく揺れ動いていたはずだからだ。

今回の問題を語る際、そうしたイギリス国民の苦悩を思いやることを、くれぐれも忘れてはならない。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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