ジャーマンプレミアムに挑むFRスポーツサルーン
アルファロメオブランド復活の狼煙となるか。新型ジュリア、衝撃のワールドプレミアから1年。待ちに待った試乗の日がやってきた。
ヨーロッパ諸国向けの生産が始まったばかりの5月、アルファロメオの聖地とも言うべきバロッコ・プルービンググラウンドで国際試乗会は開催された。21世紀になってから登場したブレラ以降の主要な新型アルファロメオは、ほとんどがこの地で処女テストドライブを行なってきた。われわれアルファ好きのジャーナリストにとっては、もうすっかり馴染みの場所というわけだ。
新型ジュリアは、欧州Dセグメントに属するFRのスポーツサルーンである。つまり、メルセデス・ベンツCクラスやBMW 3シリーズ、アウディA4がライバル、で、キャデラックATSやレクサスISとともに、強力なジャーマンプレミアム御三家に、果敢にも挑戦するという立場にある。
従来、アルファのミドルクラスといえば、155、156、159とFFサルーンが3世代続いた。FRへの回帰は75以来というわけで、もうその事実だけでもアルファファンの期待は膨らむ一方だと言っていい。
もっとも、アルファロメオは、このジュリアからブランドの上級移行を模索している。ドイツの御三家をライバルとして名指しすることで、自らもその立ち位置に割り込もうという意思がみえる。それゆえ、ブランド105周年となった昨年6月にジュリアがワールドプレミアされたときには、510psを発する最上級グレード“クアドリフォリオ”のみを披露し、BMWのMやメルセデスのAMGに対抗する用意のあることも、大いにアピールしてみせたのだった。
専用V6ツインターボはフェラーリが生産
新型ジュリアの概要を先に報告しておこう。ボディサイズはほぼDセグ標準サイズ、と言っていいが、車幅は1.87mと図抜けてワイド。典型的なFRサルーンのサイドプロポーションを持ち、見た目にもBMW 3シリーズのそれに近い。マセラティ系のシャシー設計をベースにするものの、フロアなどは完全に新設計。そこに新開発の4気筒エンジンと6気筒エンジンを積み、6MTもしくは8ATを組み合わせた。
4気筒には4種類ある。280psと200psの2L直噴ガソリンターボ、そして180psと150psの2.2Lディーゼルターボだ。
注目は、もちろん6気筒で、これがクアドリフォリオに搭載される510psエンジンである。当初はマセラティ開発の3L 60度V6ツインターボが積まれると予想されたが、明らかになったのは衝撃の専用設計V6ツインターボ、だった。排気量2.9L、Vバンク角90度というこのV6は、フェラーリカリフォルニアT用の3.9L V8ツインターボをちょうど3/4にしたもの。つまり、ボア×ストロークがまるで同じで2気筒少ないだけ。フェラーリテクノロジーで開発、とだけ発表されていたが、決して誇張ではなかった。もちろん、マラネロのフェラーリ本社工場内にあるエンジンプラントにおいて生産され、アルファロメオに供給される。
アルファファンにとって、気になるのは3ペダルMTが果たして日本にもやってくるのかどうか、だろう。実をいうと、現時点では難しい状況だ。というのも、そもそも右ハンドル仕様には今のところ6MTの設定がない。そう、英国向けにも、ない。それなら左ハンドルのままで、と言いたくなるが、昨今、左ハンドル車の輸入をお上がなかなか認めない。高額車両となる公算の高いクアドリフォリオなら限定輸入の可能性も残るが、少なくともノーマルモデルのMTは、右ハンドル仕様での設定を待ってから、となるから、17年中と言われている日本導入のタイミングに間に合うかどうか、微妙なところだ。
ライバルに負けぬ、軽快で懐の深いライドフィール
というわけで、日本チームに与えられた試乗車は全て8ATのジュリアだった。まずは、グレード名“スーパー”の2L直4ターボ200ps仕様で走り出す。走り始めた瞬間に、“これは乗り心地がいい”という、およそアルファロメオらしくない( ? )印象が先に立つ。156の初期モデルを彷彿とさせる、軽快で懐の深い、いなしの効いたライドフィールである。
ステアリングの動きはシャープのひと言。ニンブルさでは、最新のBMW 3シリーズやジャガーXEを上回っている。それでいて、乗り手の気持ちがちゃんと付いていけるのは、素早く動く前アシに対して、リアもまたソリッドに気持ちよく反応し、自然な追従をみせているからだ。鼻先が機敏に動いても、クルマが勝手に動くような悪い気分には決してならない。ただ、助手席では自ら曲がる意思が持てないぶん、動きに反応する準備時間が少なく、アジャイルさが鼻につく場面もあった。
クルマの軽さが効いているのだろう(プロペラシャフトは日立オートモーティヴシステム製カーボンだ)。ガソリンエンジンでも充分に力強く走ってくれる。エンジンフィールはスムースかつ洗練されており、ぶん回す魅力にこそ欠けるものの、日常使いにおいて不満はまるでない。もっとも、以前のツインスパークのような官能性は持ち合わせておらず、実用に徹したエンジンであることだけは強調しておく。そう、プレミアムにお似合いの……。
2.2Lの180ps版直4ディーゼルターボも、キャラクター的には同じベクトルのエンジンだった。つまり、官能的な味わいや圧倒的な演出よりも、適切によく働くという実利のほうを取った。8ATとの相性はガソリンターボよりさらによく、巷のディーゼルターボらしい爆発的な力強さは巧妙に抑えこまられ、太いトルクを効率的に使うことで、必要充分な動力性能と良好な燃費のバランスを見極めようと、プログラムされているように思える。そして、さほど元気よくは回ってくれない。
だから、450Nmというトルクスペックどおりの過激な力強さを期待すると、拍子抜けするかも知れない。もちろん、加速そのものはガソリンエンジンよりも充分に力強く、明確に速いと感じられたが、体感的にはそれほどではなく、驚くほどではない。むしろ車体全体の完成度の高さを実感することになる。むしろ、高速道路を低い回転域を使って淡々と走る、ということが得意なGTカーの趣が色濃かった。
2台は装備充実の“スーパー”というグレードで、日本に導入されれば主力になりそうなモデルだったが、いずれにせよ、以前のFF 3世代はもちろんのこと、FR時代とも異なるクラスに、こと走りの面においてはチャレンジしようとしていることは明らか。ハンドリング性能で3シリーズに、ライドコンフォートと高速クルーズでCクラスに、それぞれ並んだ。これに内外装の、デザインはいいけれど見栄え質感のモノ足りなさが解決されれば、レクサスやキャデラックとともに、世界に蔓延するドイツプレミアムの寡占状態を突き崩す第一歩にはなるだろう。
完成度の高いトップグレード、クアドリフォリオ
そう期待させる一つの理由として、バロッコのテストコースで存分に試した最上級グレード“クアドリフォリオ”の完成度がとても高かったことを最後に挙げておきたい。メルセデスAMG C63SやBMW M3を絶対的なパフォーマンスやドライビングファンという点において、現時点では、明らかに勝っていた。
こちらも欧州仕様には3ペダルMTの用意もあって、日本のアルファファンはさぞかし楽しみにしていることだろうし、ボクもそうだった。もっとも、撮影のためにテストコース内をちょっと味見した限りでは、3ペダル仕様ならどのクルマでももちうる手足を駆使してのドライビングファンはもちろん認められたものの、510psのビッグパワーを存分に楽しめるとは到底思えず(特に大パワー×パドルシフトに慣れた身には!)、相性的には、やはりZF製8ATを組み合わせた仕様が、ノーマルグレードと同様に、似合っていた。
まるで昔に戻ったかのように細くまとめられた最新のステアリングホイールにはフェラーリのようなエンジンスタートボタンと、その向こうに大きなアルミニウム製パドルシフトが備わっている。
パドルを弾くように操作すれば、大パワー&大トルクのおかげで、デュアルクラッチDCTに比べてもまるで遜色なく、途切れのない豪快な加減速をみせた。とても“身体のキレ”がいいFRであるがゆえ、ステアリング操作に専念できるというメリットの方が、手足と頭の忙しさの増す3ペダルマニュアルを操る歓びより、上回っていると言っていい。
加速は、すさまじい。車体の強靭さと軽量化(クアドリフォリオはルーフやボンネットフードがカーボン)の賜物だろう。右足の踏み込みに対する車体の反応は鋭敏で、なおかつ動いてからの姿勢も極めて安定している。サウンド的には、スポーツカーの4Cをさらに野太く、野蛮にしたような音質で、フェラーリやマセラティとは全く異なっていた。
ノーマルグレードと同様に、驚くほどシャープなのに手応えのいい前アシと、ワイドトレッドから想像できたように、驚異的に安定した後アシのおかげで、意のままに向きを変えながらも、ドライバーを不安に感じさせることは皆無だ。鋭い切り込みでタイトベントをクリアした際、トルクベクタリングの働きにほとんど違和感を覚えないのは“シャシー・ドメイン・コントロール”というクワドリフォリオ専用の電子制御指令が優秀だからだろう。
アルファDNAに新たに追加された“Race”モードを試してみると、こんどはタイトベントでいとも簡単にリアがブレークした。滑り始めはこれまで乗ったFRの中でも最も分かり易い部類に入るもので、そのうえ前アシの反応が鋭く正確だから、下手の横滑り好きでも、まったくもって慌てることなく対処できた。
前述したとおり、日本市場への導入は2017年中の予定とされている。完成度の高さを考えると、もっと早くして欲しいところだが、こればかりは一日でも早い上陸をインポーターに頑張ってもらうほかない。プライスタグも気になる。おそらく、これまでのような価格帯ではなく、3シリーズやCクラスを睨んだ価格になるはずだ。多少は戦略的になってくれることを望むばかりだが、プライスレンジは450万円~1100万円といったところだろうか。クアドリフォリオは、欧州市場でも9万ユーロ前後なので、4C以上の値札、つまり1000万円オーバーとなる公算が高い。