いまだに勘違いされている体罰の位置づけ
体罰は子どもの心に何を残すのか?
最近の相次ぐ虐待事件も、やはり事の発端は「しつけがうまくいかない」というケースがほとんどです。体罰を「しつけの一環」と位置づけていると、子どもが言うことを聞くまで力を加えるため、当然エスカレートし、虐待へとつながるのです。
海外ではすでに家庭での体罰を禁止している国が数多くある中、日本はずっとこれまで、「親権を行う者は、第820条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる」という民法のもとに置かれていました。しかし、昨今の虐待事件の増加を受け、2020年4月、ついに児童福祉法と児童虐待の防止等に関する法律において、親による体罰の禁止が明記されたのです。しつけと称しても体罰はダメということです。
しかし、この法改正は、「ではどうやってしつけをすればいいのか?」という戸惑いももたらしているようです。
しつけに強い力は必要なのでしょうか。この記事では、オーストラリアで発表された「体罰にまつわる10の迷信」にフォーカスし、いまだに勘違いされている「しつけとは何か」についてお伝えしていきます。
体罰の禁止が法律で定められている国は、すでに60か国
「Global Initiative to End All Corporal Punishment of Children」のサイトによると、子どもへの体罰を、法律で禁止している国は2020年7月までに、世界で60か国。これは家庭内での体罰も含んでいます。サイト内には、体罰禁止が法律化された年度ごとに国名が書かれているのですが、子育て先進国の北欧が1970年代にまず着手、その後、ヨーロッパ、そして全世界へと広がっているのが分かります。最近では、2019年にフランス、そして2020年に日本が加わりました。でもよく見ると、アメリカ、カナダ、ロシア、イギリス、イタリア、オーストラリアなど、主要国でも未整備のところがまだたくさんあるのです。その背景には何があるのでしょうか?
体罰にまつわる思い込み
2011年の調べで、イギリスでは40%の親が、フランスでは87%の親が、「子どもを叩いたことがある」と答えています。そこには、体罰が当たり前のように存在し続けている現状があります。なぜなら、今なお、体罰への思い込みが根強く残っているからです。そんな状況を踏まえ、最近、オーストラリアの大学が、世に存在する「体罰にまつわる思い込み」について調査し、次のようなデータをまとめました。
体罰にまつわる10の思い込み
- しつけの一環としての体罰であれば子どもに害はない
- たまに叩くくらいなら子どもを傷つけることはない
- 体罰で子どもに責任感を学ぶ
- 体罰は他のしつけ以上に効果がある
- 体罰を用いずに子どもをしつけるのは、机上の空論であり現実的ではない
- 体罰こそ子どもが唯一理解できる教えだ
- 体罰は男の子、女の子両方のしつけに使える
- 体罰を使わないのは、子どもを甘やかすことになり、言うことを聞かなくなる
- 子どもは体罰により他者をリスペクトすることを学ぶ
- 子どもが悪いことをするたびに体罰は使われるべきだ
これを読んでどう感じましたか? 「ありえない!」と憤りを覚えた方もいる中、「その通りだ」と感じた方もいるのではないでしょうか。
実際に、日本ではまだまだ体罰を容認する意識が根強く、2017年7月に国際NGOセーブ・ザ・チルドレン・ジャパンが行った調査では、しつけのための体罰を容認する人が56.8%にのぼりました。でも、この容認派も、ニュースで流れるような虐待事件には「ひどい」と怒りを覚えるはずです。ということは、「少しならいい」こういうことでしょうか。
体罰は親から子へと受け継がれやすい
体罰というと、イメージとして非常に暴力的なものを想像するかもしれませんが、実際には、「頭を手で叩く」「ほほをつねる」「尻叩きする」なども含まれます。では、子どもはそれで何を学ぶのでしょうか? 親が思っているようなことを学んでくれるのでしょうか?
残念ながら、親の期待する学びは起こりません。むしろ、その期待とは逆のことを学びます。「叩かれたら叩き返せ」「困ったら叩けばいい」と。親が叩いているのに、子どもに「お友達を叩かないの」「弟を蹴らないで」と言っても、子どもは矛盾を感じるだけです。
次にご紹介するYoutubeのビデオは、体罰に反対するフランスの団体が作ったものです。30秒という短い映像の中に、ずしりと来る教えが込められています。非常に多くの反響を得た作品ですので、ぜひクリックしてご覧になってみてください。
「clip tele contre les violences educatives ordinaires de la fondation pour l'enfance」
ジュースをこぼした娘のほほに平手打ちをする母親。それをキッチンから見ていた祖母(母親の母親)が、手を出した娘に「Pardon... ごめんね…」と自らの子育てを謝るシーン。体罰が子どもに伝えるものをストレートに描いています。
しつけとは子どもに学んでほしいことを親が形で示していくこと
親が子どもを叩くと、その子が親になったときにまた叩くようになる。これは多くの研究で立証されているものです。それにもかかわらず、その事実はまだまだ浸透しておらず、体罰の効果を信じている人はいまだに多いのです。虐待にまで発展してしまうとニュースとして取りざたされますが、表にはならない家庭内でうっかり出る体罰も深刻な問題です。その多くは「感情的になって思わず手が出てしまった」というケース。このようなケースは、親の感情を子どもにぶつけて吐き出しているに過ぎません。それは教えでも何でもなく、言ってしまえば八つ当たりです。本来、親はその感情をどう処理するかを教えなくてはいけない立場なのに、そこで叩いてしまっては、「感情的になったらそれを相手にぶつければいい」と教えてしまっています。
先に挙げた「体罰への迷信」がどれも過ちであることがお分かりいただけたでしょうか?
- 親が叩いたら、子どもは叩くことを学びます
- 親が叩かずに対応したら、叩かずに対応することを学んでいきます
*出典:Personality and Individual Differences. (2015) 「Smacking never hurt me!」より
【関連記事】 ※初回公開2016年05月30日の内容に最新情報を盛り込み、一部改稿したものです。