熊本地震の発生からひと月以上が経過しました。現地では依然として多くの方々が避難生活を余儀なくされており、そうした方々が一日も早く平穏な暮らしを取り戻すことができるよう願わずにはいられません。さて、この地震を、私たちは改めて災害への備えについて考える契機にすべきです。そこで今回は、私が普段担当している戸建て住宅の分野をいったん離れ、どなたにも役立つ災害への備えについて考えていきます。

築年数だけで耐震性の高さを判断しない慎重さを

さて、皆さんがこれから賃貸住宅に入居するとします。その際、どんな考え方で物件を選びますか。家賃や駅からの距離、広さや間取りが中心だと思います。ただ、災害への備えはあまり考慮しないのではないでしょうか。

ピロティ

ピロティのあるマンションの事例。駐車スペースを確保するため、1階部分の片側には壁がなく柱のみで構成されている。この建物は4階建てで、柱も比較的しっかりしているので安心と考えられるが、果たして震度7クラス、しかもそれが連続した場合、耐えられるだろうか、と筆者は考えるのだが…(クリックすると拡大します)

考慮するのは築年数くらいではないでしょうか。築浅だったら安心と、思われるかもしれませんが、本当にそうでしょうか。例えば建物の周囲の状況はどうでしょうか。古い木造住宅が密集している場所ではありませんか。

古い木造住宅の場合、地震の揺れで倒壊することはもちろん、火災により燃えてしまうことが考えられます。そうなれば、避難することすらままならなくなります。要するに、皆さんが住む賃貸住宅がいかに耐震性が高くても、周囲に問題があることがあるわけです。

では、周囲に古い木造住宅がなく、建物の倒壊や火災の心配も少ないとしましょう。そこで問題となるのが建物の形状です。1階部分がゲタ履き形状だったりピロティがあったりしませんか。これらは耐震上あまり優れているとはいえません。

ゲタ履きとは、駐車スペースなどを確保するため壁や柱がゲタのよう配置されていることをいいます。ピロティは2階以上を部屋とし1階を吹き放ちにした、その1階部分のこと。ゲタ履きの一種で、2階部分を支えているのは柱だけというケースもみられます。

これらは、つまり1階部分に壁が少ない建物形状であるわけです。もちろん、どんな建物でも構造計算をした上で建てられているはずで、特に築浅の建物はそうですが、とはいえ構造上弱い部分があることは確か。

このような物件に住む場合は、それを建てたのが信頼できる事業者なのか、についてもしっかり確認したいものです。少なくとも私なら、このような物件はできるだけ避けるようにします。

災害時に身を守るのは自己責任が原則

なぜこのようなことを書くかというと、災害時に自らを守れるのは結果的に自分自身以外にないのであり、基本的に自己責任だと思われるからです。災害への備えとして考えられることをできるだけしておくことが、何よりも自分や家族のためになるのです。

川口

筆者の住む川口市は荒川の氾濫が懸念されている。200年に一度の洪水では4mの高さまで水が到達する可能性があるという。だから私は、4m以上に位置する3階部分に現在住んでいる(クリックすると拡大します)

熊本地震では、賃貸住宅に限らず築年数が浅い建物も倒壊しているケースが見られました。その要因は、震源地の直下に近く地盤の変動が大きかった場所だったことのほか、もしかしたら建物に対する手抜き工事があったことも考えられます。

特に今回は震度7クラスの地震が二度あり、さらに震度6や5も連続して発生し、今も震度3や4の地震が時折発生するという、これまでに私たちが経験したことのないタイプの地震です。阪神淡路や東日本大震災でも倒壊しなかった、鉄骨造や2×4の建物も倒壊の事例が報告されています。

新耐震基準以降の建物はもちろんのこと、現在の耐震基準についても残念ながらこのようなケースは想定されていません。いつどこで同じようなタイプの地震が発生するかわからないわけですから、皆さんはできうる範囲で構いませんから、地震に耐えうるであろうという建物を選ぶべきなのです。

そのためには例えば、どのあたりに地震を超す可能性がある断層があるのかなど、を知っておくべきでしょう。特に、戸建て住宅を建築したり、マンションを購入する際はそのくらいの配慮をして決断をすべきでしょう。

各自治体が発表しているハザードマップで確認すると良いでしょう。事前に、皆さんがお住まいの地域にどのような災害が起こりえるのか、ということを知っているだけでも、心構えとしてずいぶん違ってくるはずです。

大規模な災害が発生した場合、仮に建物は無事だとしても水や食料の確保に難儀しがちです。熊本地震では特にこの点がクローズアップされたように思われます。私の友人は熊本市内の病院で勤務してますが、数日間、まともに食べられなかったといっていました。

水や食料を無理なくストックしておくには

私も九州の出身ですから身に覚えがあるのですが、九州に住む人たちの多くが「大きな地震は来ない」と信じ切っていたように感じられます。熊本の方々も例外ではなかったのではないでしょうか。

ストック

これくらいの量の備蓄があれば当面の間は水や食料が確保できるはず。しかし、これを一度に確保するのは費用や体力などの面で大変だろう。日頃から少しずつストックに努めることが大切だ(クリックすると拡大します)

今回の地震も含め、大きな災害が発生した場合、どうしても水や食料が手に入りづらくなります。阪神淡路大震災でも東日本大震災でもそうでしたし、今回の熊本地震でもそうでした。万が一のためにしっかりと備えをしておきましょう。

で、こんな方法はいかがでしょうか。何らかの災害が発生するたびに、自宅に少しずつストックしておくというもの。例えば、水のペットボトルやカップラーメン数個でもよいのです。もちろん、消費しながらで構わないわけです。

ちなみに、5月16日の夜に関東地方で震度5弱の地震が発生しましたが、それを受けて翌日、私は500ml入りのお茶を1本だけストックしました。東日本大震災以降から続けていることですが、そんなことを続けているうちに1週間分くらいの水と食料が常に自宅にあるという状況を作れました。

もちろん、ストックできる収納の問題もありますから、住まい選びにあたってはその点も注意されることをお勧めします。要するに常に水や食料を絶え間なくストックできるようにしておけば、もしもの時に少なくとも食事の面では何とかなるはずです。

また、一人ひとりがそうした配慮をしていれば、被災直後の食糧不足を防ぐことができますし、災害弱者と呼ばれる方々に物資が行き届きやすくなるはずです。被災地に支援物資を送ることは大切ですが、まず自分のことをしっかりと守ることも重要だと思います。

今後発生が予想される南海トラフ大地震では、1週間くらい物流が止まって水や食料が極端に手に入れづらくなる可能性があるといわれています。ですので、このような地道な対策を各自でしておくべきではないでしょうか。

地域コミュニティとの接点を持っておくことも大切

ところで、東日本大震災の際には人々の「絆」の重要性が叫ばれました。ただ、例えば皆さんが東京に住んでいるとして、首都圏直下型地震などに遭遇したとした場合、「絆」に頼れるでしょうか。都会暮らしでは近所づきあいがほとんどないことが多いのではないでしょうか。

居酒屋

行きつけの居酒屋でもあれば地域コミュニティとの接点になる。ちなみに、筆者はこの居酒屋の店長と災害時の炊き出しをするよう、半ば強引に約束を取り付けている。気休めに過ぎないが、これも個人的な災害への備えの一つだ(クリックすると拡大します)

そこで、お勧めしたいのが、皆さんが暮らす地域に「居場所」を作っておくこと。もしお酒が好きなら居酒屋でもいいのです。「行きつけ」を作っておけば、そこのつながりがきっと皆さんを助けてくれるはずです。

話はそれますが、私は今年2月に財布の盗難に遭いました。個人事業者で近くに頼れる家族や親戚がいません。財布には現金のほか、キャッシュカードやクレジットカード、免許証など全て入っていましたから、その時点で使えるお金がなくなってしまったのです。

そこで助けになったのが、行きつけの飲み屋のネットワーク。1万円ほど貸してもらったことで当面の生活をまかなえましたし、飲み仲間と過ごすことで気休めにもなりました。私には、大変なエマージェンシーな出来事でしたから、大変勇気づけられました。

何を言いたいかというと、そうしたつながりが災害時にもきっと役に立つということです。災害時の対応というのは、基本的に個人で何とかしなければいけないものですが、とはいえ一人では心細いもの。誰かの助けが必要になります。

「困った時はお互い様」と言いますが、そんなつながりがある居場所を普段の生活の中で少しでも多く確保しておくことも大切なのではないでしょうか。要するに、災害時に頼れるのはコミュニティということです。

災害の影響をできるだけ減らすことを「減災」といいます。それは、例えば特別な備えをした住宅で暮らしたり、特別な備えをするということでなく、日常生活の中で無理にならない範囲で私たちそれぞれが備えをしておくことが重要なのだと考えられます。
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