アドバイス1 現状の生活費では老後資金はやや不安
老後に必要な資金について考える場合、やはり、今わかっている範囲で試算をしてみることが必要です。まず、ご主人が70歳になるまで今のペースで働くとします。毎月20万円の貯蓄ペースは維持できますから、今後4年間で960万円貯蓄ができます。手持ちの貯蓄に加算すれば約3000万円の老後資金が用意できることになります。
ご主人の70歳以降の収入は月額12万円の公的年金だけとなりますが、問題はそのときの生活費となります。仮に今と同額であれば、月額34万円ですから、お子さんからの生活費4万円を差し引いても、18万円の赤字。奥様はちょうどこのときから年金支給が始まりますが、データによれば60~61歳までの2年間は月額5000円ですから、実質の赤字は月17万5000円。2年間で420万円、貯蓄を取り崩すことになります。
以後、奥様が62~65歳の3年間は615万円の赤字。65歳からは75歳までは、公的年金に加え個人年金保険の年金受給が加算され、実質の収入は月15万円ですから、赤字は月3万円。10年間で360万円の赤字。ご主人が90歳まで生きられるとすれば、その間の赤字は576万円となります。
結局、老後の生活費の赤字分をすべて足すと2000万円弱。この分を貯蓄から差し引くと、手元に残るのは約1000万円。奥様も90歳まで生きられた場合、残り10年間を公的年金とこの貯蓄の残高1000万円でやりくりできれば、老後資金は足りることになります。
しかし、要介護になってしまう、あるいはそれ以上に長生きしてしまうといったリスクも当然あります。計算上は足りても、この試算結果を見ると、「大きく不安」ということはありませんが、「安心」とも言い難いところです。
アドバイス2 収入に合わせて支出の軌道修正を
上記の試算のポイントは、ご主人が70歳になるまで今と変わらず仕事をするということが前提になっています。可能であれば、今後のマネープランを考える上でも、ぜひ働いてほしいところですが、がんを患い、現在経過観察中ということであれば、無理はできません。当然、体調によっては仕事をセーブする必要もあるでしょう。そういった家計リスクに対処するには、支出を見直すしかありません。つまりは、収入に合わせて、生活そのものを軌道修正していくことです。
家計支出を費目ごとに見ていけば、やはり「食費9万円」が目立ちます。大人4人分ですからそれなりに高くはなるでしょうが、少なくとも今後は節約意識が必要になってきます。
あとは夫婦の小遣いと雑費の合計が8万5000円ほど。これも抑える工夫が必要でしょう。もっとも年金受給額が多いときで、夫婦合算で27万円ほどですが、それでもその3分の1を占めることになります。やはり割高と言わざるを得ません。
一方、気にされている保険については、現時点では解約せず、このまま継続してもいいと思います。まとまった貯蓄はありますが、今後、ご主人が働けなくなるリスクがあり、またご夫婦とも現在「治療中」の状態であることも考慮すると、少なくとも慌てて解約する必要はないのでは。目標の家計改善ができ、収入が年金だけになっても大きく貯蓄を取り崩すことがなくなれば、その時点で改めて解約を検討されてはどうでしょう。
アドバイス3 無理に働くより家計管理で老後に備える
しかし、生活費はそう簡単に抑えられるものではありません。一度習慣化してしまった生活レベルを金額的に落とすのは容易ではないですし、一時的にそれができても、継続していかなくては意味がないからです。したがって、今のうちから抑える工夫を重ねていくべきでしょう。具体的には、段階を踏みつつ、最終的には現在よりも7万~8万円程度は削減したいところ。たとえば、食費は徐々に減らし、最終的には6万円台にする。雑費も見直して必要のないモノは買わない習慣を身に付け、小遣いと合わせて5万円台に抑えるというように、ご夫婦で可能な目標額を決め、それに向けて工夫をしていくことがポイントです。
仮に、ご主人が70歳までに月7万円の削減ができれば、20年間で1680万円生活費を抑えることができ、奥様が80歳のときには手持ち資金が約2700万円に増えています。また、そうなれば、ご主人が67歳、68歳でリタイアされたとしても、結果的に貯蓄での対処が可能となるわけです。
さらに、奥様の年金がもっとも高くなる65歳からの10年間、貯蓄を取り崩さず、逆に貯蓄ができる状況になる点も大きなメリットです。家計に大きなプラスであることはもちろん、精神的にも老後への不安が緩和します。
途中、お子さんたちが独立すれば、生活費として受け取っていた4万円もなくなりますが、その分、食費や水道光熱費が必然的に下がりますので、そこは家計に大きな影響はないでしょう。
また、奥様が働いて少しでも収入を得るという選択肢もありますが、ご主人同様、無理をすべきではありません。逆に、専業主婦として、その時間を家計の見直しや、支出削減の工夫に費やすことで、収入を得ることと同様の効果が得られるはずです。健康を第一に考え、今後のマネープランを組み立てることが重要でしょう。
「まりぶー」さんから寄せられた感想
食費と雑費、小遣いが多すぎるんですね。じつは、以前はもっとかかっていたんです。主人が身を粉にして稼いだ大事なお金ですので、これからは気を引きしめて、日々節約に励まねば、と固く決意致しました。FP深野康彦先生、ひとつひとつ分かりやすく教えて下さりまた思いも寄らなかったことにも気付けました。本当にありがとうございました。深野先生のお人柄のせいなのか(お会いしたこともないのに)、ご回答を読み返せば読み返すほど、素直に納得できしみじみ考えさせられました。ありがとうございました。教えてくれたのは……
深野 康彦さん
取材・文/清水京武 イラスト/モリナガ・ヨウ
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