「不動産仲介」は家を売っているわけではない?
売り手と買い手をマッチングさせる仕事
今回のドラマのタイトルには「家売る」とありますが、家を買う側から見ると、その買い方にはいくつかパターンがあります。- デベロッパー(分譲会社)が建てた一戸建てやマンションを買う
- ハウスメーカーなどに依頼して、一戸建てを建てる
- 仲介会社に一戸建てやマンションを探してもらって買う
(1)(2)の家は会社の自社商品ですが、(3)の家は仲介会社が買い取った家ではなく、売り手の持ち物をあっせんするだけなので、紹介できる家は多数あります。(1)(2)は新築が基本ですが、(3)は主に中古になります。
ドラマは(3)の仲介会社を描いています。なので「営業成績」が登場しますが、5000万円の家を売ったからといっても売上数字は5000万円ではなく156万円とカウントされています。つまり、「仲介手数料」ですね。
仲介手数料(400万円超の場合)は、法律で「売買価格×3%+6万円(税抜き)」が上限と決められているので、5000万円×3%+6万円=156万円を売り上げたわけです(買った人が払う仲介手数料は消費税込みで168万円4800円です)。
「仲介手数料は売買価格が高いほど金額が多くなる」のですが、どんなに営業しても買い手が気に入らなくて「成約に至らなければ仲介手数料はゼロ」 という点もポイントなので、覚えておいてください。
スゴ腕の営業マンは
売上より顧客満足度を重視する!?
家を買う側は何を期待している?
「希望の予算や条件」を仲介会社の営業マンに伝えて、家を探してもらうことになります。営業マンに期待するのは、「買い手のさまざまな希望をしっかり聞いて、希望に沿う家を紹介する」ことです。
ところが、これが意外に難しいのです。希望条件がすべてそろう家が売りに出ているとは限りませんし、なかには買いたい家ではなく、営業が売りたい家を紹介する場合もあるからです。
きちんと買い手の希望を聞いて、熱心に希望条件に沿う家を紹介している、工藤阿須加さん演じる若手社員は良い営業マンと言えるでしょう。
北川景子さん演じるスゴ腕がスゴイのは、第1話で「予算1億円」に対して「5000万円」の家を紹介している点です。ほとんどの営業マンは、予算1億円ならそれに近い金額の家しか紹介しません。あまり高いと買ってもらえませんし、安いと仲介手数料が下がるからです。
スゴ腕の北川景子さんがなぜ5000万円の家を紹介したかというと、買い手の希望条件が市場にミスマッチしているだけでなく、住みたい家の条件ともミスマッチだったからです。
親子3人で暮らす買い手の条件は「広い一戸建てで、リビングイン階段のある家」でした。リビングイン階段(=必ずリビングを通って2階の個室に行く)は子どものいる家庭に人気があります。顔を合わせる動線があれば、親子のコミュニケーションが取れる、とは限りません。動線より親子関係のあり方やしつけの問題が大きい、と筆者は思っています。
両親とも医師なので、「勤務する病院に近く、生活時間が異なる家族のコミュニケーションが取れる家」が住みたい家と考えたスゴ腕は、あえて希望より狭いもののリビングが広くて、仕事場にも勉強部屋にもダイニングにもリビングにもなる、予算より安い家を紹介したのです。
筆者は「代替え提案」と呼んでいますが、買い手の挙げる条件が必ずしも市場にマッチしていない場合や思い込みをしている場合などに、どれだけ買い手が満足できる代替え案を提示できるかどうか。納得できる提案であれば、成約に近づきます。これがスゴ腕かどうかの分かれ目です。
高く売るためには
誰に売るか、改修はするかが鍵
家を売る側は何を期待している?
仲村トオルさん演じる課長が、「この家を売ってくれ」と特定の家に注力するように指示を出しますが、おそらく自社で独占的に売却活動ができる「専任媒介契約(正しくは専任媒介契約と専属専任媒介契約があります)」を結んだ家なのでしょう。
契約期間内に家が売れれば、必ず売り手から仲介手数料が入ってきますし、自社で買い手を見つけたら買い手からも仲介手数料が入ってくるので、両手取引といわれています。この両手が成立するように、発破をかけているのだと思います。
第2話には、売り手が登場します。売り手が営業マンに期待するのは「できるだけ高く売ってくれる」ことでしょう(高く売ることよりも早く売ることが優先される場合もあります)。
ただし一定期間住んだ家は、傷んだ箇所があったり生活感が強く表れていたりして、それがマイナスになる場合も多いのです。そのまま売るのが原則ですが、より高く売るために売り手負担で一定の改修を施したうえで売りに出すという選択肢もあります。
改修のために出費したのに思うようには高く売れなかったというリスクも伴いますので、とても難しい判断ですが、さすがにスゴ腕は、即座に玄関を明るくする改修(壁紙を張り替え、ダウンライトを設置するなど)をし、子ども部屋のボルダリングウォール(クライミングウォール)はそのまま残すという助言をします。
結果として、マンション2室 を引きこもり中年の子どもがいる夫婦にあっせんし、1室を両親の死後も引きこもったまま生活できるように賃貸することを提案して売った結果、
- 居住用:2500万円×3%+6万円=81万円
- 賃貸用:2000万円×3%+6万円=66万円
さて、第2話では千葉雄大さん演じるやり手営業マンが、イケメンだけで売っていなかったことが分かります。家にはそれぞれ特徴があり、メリットデメリットがあります。誰にとってもデメリットになる特徴もあれば、人によってメリットになったりデメリットになったりする特徴もあります。それをきちんと理解して、一般的にはデメリットな点が、働く女性が住むにはメリットになると判断して売るのです。
ほかにも細かい点では、チラシのありきたりな写真をきれいな夕焼けの眺望写真に変えるなど、写真の大切さもよく理解したやり手ぶりを発揮していました。広告に載せる写真って、とっても大切なんですよ。
とっておきの裏ワザやNG……
ドラマのあれやこれや
ホームステージングは今後増える?
「これはないかも」ということも、ドラマでは多く登場します。例えば、実際には他に購入希望客はいないのに、いるかのように見せて買い手の判断を急がせること。完全にNGですね。地図を見ずに横道を通って案内することで顧客から信頼されるというのも、どうでしょう。
ドラマを盛り上げるためだと思いますが、ほかにも、部下の客を横取りして自分の成績にしたり、アポが取れるまで営業マンを家に帰らせないなどは、きちんとした仲介会社ならしていないことだと思います。
さて、ドラマを例に見てきましたが、家を売買しようと仲介を依頼する際には、営業マンのスキルが大きく影響します。
- 希望を聞くだけでなく、なぜその希望を条件に挙げるのかまできちんと理解しようとするコミュニケーション能力の高い人
- 売買実績が豊富で、そのエリアの市場に通じている人
- 顧客ための助言を惜しまず、その提案内容に説得力がある人
- 売買価格の高低にとらわれず、熱意をもって動いてくれる人
こうした営業マンに出会えれば、満足度が高い売買ができるでしょう。
皆さんも「GO!」
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日本テレビ「家売るオンナ」公式サイト