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『うんこしりとり』ヒットの秘密とうんこ絵本の歴史

第7回 MOE絵本屋さん大賞 2014で第3位となった『うんこしりとり』。発売から現在にいたるまで、その人気に陰りはありません。題材のインパクトと、単純だけれど飽きのこない「しりとり」という仕掛けによって、ハマるこども(それから大人も)が続出。なぜ人はうんこに魅了されるのか。同書のヒットからその秘密に迫ります。

執筆者:All About 編集部

こどもも大人も楽しめる、『うんこしりとり』

ちょっとした時間に、こどもと遊ぶしりとり。

「こいぬのうんこ」「こうしのうんこ」「こどものうんこ」「こうちょうのうんこ」……。

決してふざけているわけではありません。これは、2013年末に発売されてから息の長いヒットを記録している絵本『うんこしりとり』(白泉社)の一部。同作を手がけるのは人気クリエイティブユニットtupera tupera(ツペラツペラ)の二人です。エンドレスに続けられる言葉遊びとかわいいイラストが醸しだす世界観がうけて、こどもから大人まで絶大な支持を得ています。

『うんこしりとり』の一部。だんだんとエスカレートして……

『うんこしりとり』の一部。だんだんとエスカレートして……


それにしても、「うんこ」を使ったしりとりの絵本だなんて、こどもが夢中になるツボを見事におさえていますよね。「ちょっと下品なのでは?」と眉をひそめる人もいるかもしれませんが、これまでにも「うんこ」を題材にした絵本は数多く出版されてきました。きっとそこには目的があり、長く愛されるものには理由があるはず。「うんこ」はなぜ、うけるのか。『うんこしりとり』を担当し、これまでにたくさんのこども向け絵本を手がけてきた編集者の森綾子さんに話を聞いてきました。

 

『うんこしりとり』ヒットの秘密

本屋さんに行くと必ず見かけるほど、絵本としては異例のヒットを記録している『うんこしりとり』。お母さんたちだけではなく、お父さんが買っていくことも多いのだとか。編集を担当したのは、親子時間を楽しみたいママに向けた雑誌『kodomoe』でも編集長代理を務める森綾子さん。今回のヒットをどのように感じているのでしょうか。

【プロフィール】森 綾子さんundefined白泉社に入社後、書籍編集を経て絵本雑誌『MOE』に配属。雑誌編集の傍ら、絵本の出版を手がける。『ノラネコぐんだん』シリーズ、『うんこしりとり』など担当したものの人気作多数。現在、『kodomoe』編集長代理。1児の母。

【プロフィール】森 綾子さん 白泉社に入社後、書籍編集を経て絵本雑誌『MOE』に配属。雑誌編集の傍ら、絵本の出版を手がける。『ノラネコぐんだん』シリーズ、『うんこしりとり』など担当したものの人気作多数。現在、『kodomoe』編集長代理。1児の母。


――いきなりですが、タイトルもコンセプトも、インパクトがありますね。

森さん そうですね(笑) 作家のtupera tuperaさんからアイデアが出てきたとき、「これはおもしろい!」と直感的に感じました。とはいえ、それは素材が「うんこ」だからというわけではありません。「うんこ」のインパクトに目がいきがちですが、個人的にはしりとりを使ったリズムの楽しさがうけたのではと思っています。実際、『うんこしりとり』の出版後、歌にあわせてしりとりをしていくプロモーションビデオを作ったのですが、これが思いのほかこどもたち、親御さんたちから好評だったんです。

また、読み終わってもエンドレスに遊べるという要素も受け入れられた理由かもしれません。本を閉じた後も、しりとりなので自分たちで新しい「『こ』のつくうんこ」を作って、親子でずっと楽しめるんですよ。タブーに触れる、言っちゃいけない言葉を言い続けられる心地よさもあるようです(笑)

最後のページにこめられたメッセージ

最後のページにこめられたメッセージ


――なるほど、最後のページ(写真上)には深い意味が隠されていたんですね。このほか、『うんこしりとり』を作る上で工夫した点はありますか?

森さん 「うんこ」を扱うので、品が悪くならないように気を使いました。一番苦労したところは、実はうんこの色なんです! 色校正の段階では、当初、茶色く沈んでリアルな感じが出てしまっていたので、原画どおりの上品なオレンジになるよう何度も調整しました。矛盾しているかもしれませんが、清潔感のあるうんこの色を模索したんです(笑) また、うんこ以外のイラストをモノトーンにするなど、おしゃれな画面になるようにtupera tuperaさんが工夫してくれました。

デジタルではなく、すべて貼り絵。紙を貼り付けたときにできるうんこの影の処理にも気を配った。

デジタルではなく、すべて貼り絵。紙を貼り付けたときにできるうんこの影の処理にも気を配った。



――『ノラネコぐんだん』シリーズなどこれまでにも数々のヒット絵本を手がけている森さんですが、絵本を作るうえで心がけていることはありますか。

森さん 絵本にとって一番大事なのは「アイデア」で、その次に「絵」だと考えています。私自身もこどもを持つようになってあらためて感じるのですが、とりわけ幼児向けの絵本については「誰かに読み聞かせてもらうこと」が前提。その意味では、こどもたちにとって「大好きなお母さん(あるいはお父さん)が読んでくれる時間そのもの」が重要なのではないでしょうか。

つまり、ストーリーを作りこむよりも、親子のコミュニケーションをより豊かにするようなアイデアや素材が大事だと思うんです。こどもが好きな「うんこ」を通してしりとりをする、という『うんこしりとり』のコンセプトは単純だけれど、そうした考えにハマった企画でした。

絵本一冊に、想いが詰まっている

絵本一冊に、想いが詰まっている


また、「絵」についてですが、絵本は何度も味わうものなので、こどもにも大人にも「本物」を届けることが大切だと考えています。

ちなみに文章ですが、『うんこしりとり』に限らず、文字数を極力減らすことを常に意識しています。読み聞かせる、ということを念頭に入れたとき、あまりに文章が多いと、こどもも大人も疲れてしまいますから。

雑誌『kodomoe』でもそんなことを意識して付録の絵本を作っています(※『kodomoe』の付録はその多くが後に単体の絵本としても発売される)。通常、絵本と言えば32ページが主流なのですが、『うんこしりとり』などkodomoe発の絵本はほぼ24ページです。絵本初心者の親子でも、読み聞かせで疲れたり、だれてしまわないように、あえて少ないページで構成しているんです。


こんなにあった! うんこ絵本の歴史

『うんこしりとり』から約2年半、4月27日には第二弾となる『おならしりとり』が発売されたばかり。これをうけて、『kodomoe』6月号(5月7日発売)では、「うんこ」「おなら」「おしっこ」の絵本を厳選した特集が組まれるのだとか。その特集も担当したという森さんに話を聞いていくと、実はうんこをテーマにした絵本はたくさん出版されていることがわかりました。特集で紹介した作品以外も含め、『うんこしりとり』へと続く、その長~い(?)歴史を振り返ってもらいました。

輝かしきうんこ絵本の金字塔

輝かしきうんこ絵本の金字塔たち


森さん うんこ絵本の元祖といえば、やはり五味太郎さんの『みんなうんち』だと思います。1977年に発売され、いまだ版を重ね続ける超ロングセラーですね。当時、こども向けの絵本で「うんち」を前面に出すのはタブーに近かったのではと思いますが、福音館書店の「かがくのとも」シリーズの一冊だけあって、ちゃんと「生物」のお勉強として読めます。この絵本のおかげで『うんこしりとり』も出版できたのかもしれません(笑)

 

1989年の『ひとりでうんちできるかな』も、ずっと読まれ続けている絵本ですね。これは、うんちのトレーニングにも活躍してくれる絵本として人気が高いです。ページをめくる時の仕掛けもふんだんにあって、飽きさせません。

海外の絵本からは『うんちしたのはだれよ!』。主人公のもぐらの頭におちてきた「うんち」。誰のうんちか犯人を捜していく物語なのですが、『みんなうんち』同様に科学的な要素をもりこみながら、ユーモアもあって世界中で人気です。生まれ故郷のドイツだけでなく、英語以外に数十か国語で翻訳されています。

うんこの話が止まらない!

うんこの話が止まらない!


もう一冊、海外の絵本で印象的なのは『うんちっち』。なにを言われても「うんちっち」と答えるうさぎの子が主人公です。とにかく「うんちっち」と連呼されるので、そのキャッチーさも手伝ってこどもに人気なのではないでしょうか。知育というよりは、その言葉遊びの感覚がうけているように思います。

日本に戻って、比較的最近の絵本だと、タイトルがストレートな『うんこ!』が挙げられます。この作品はダジャレのオンパレード。こどもがハマる、うんことダジャレという二つの要素をたくみに使って物語を盛り上げています。これも言葉遊びが秀逸ですね。


うんこ絵本は進化し続ける

森さんの話を聞いていると、うんこ絵本にも歴史があり、それぞれの時代を経て今があるような気がします。まだまだ「うんこ」を扱うのにも抵抗感があった40年前。『みんなうんち』は、こどもにわかりやすい科学的な視点でうんこ絵本の先駆けとなりました。その後、トレーニング用としても使える絵本が登場。うんこならではのユーモアを交えた絵本も出てきました。言葉遊びやダジャレを使って楽しめる絵本は、純粋にこどもたちの心を捉えて本棚の常連に。

そして、『うんこしりとり』です。素敵なイラストとユーモアのエッセンス。単純な言葉で、ひびきもいいため言葉遊びだってできちゃいます。「しりとり」という仕掛けを使うことで、物語に終わりはありません。まさに親子のコミュニケーションツールとして、森さんの大切にするコンセプトがしっかりと実現されているように思います。

「こどもの喜ぶ顔がみたい」

「こどもの喜ぶ顔がみたい」


インタビューの最後、森さんは次のように語ってくれました。「絵本作家の方々に、ほかではなかなか通らない企画がkodomoeだと通るとよく言われるんです」。『うんこしりとり』もそのひとつだと笑いながら、こう付け加えました。「社風だったり、あるいは個人としても、絵本はこうあるべきという固定観念があまりないのかもしれません。王道なんだけれどじつは見たことがない、新しいタイプの絵本を作家さんと一緒に“発明”する、というのが今後の目標です」

前述したように、森さんが担当した最新作、『うんこしりとり』第二弾の『おならしりとり』は発売されたばかり。こちらも期待を裏切らない、ケッサクです!

<思わず「プッ」とふきだす! 『おならしりとり』動画>



 

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