歯科インプラント

歯科診療で活躍するいろいろな麻酔

歯の治療が苦手な方の多くは「痛み」が理由でしょう。歯科医はこうした痛みや恐怖を取り除くため、さまざまな麻酔を使って対応しています。今回はこの麻酔について、詳しく解説します。

梅田 和徳

執筆者:梅田 和徳

歯科医 / 歯科インプラントガイド

歯医者は好きですか?

歯医者が大好き!という人よりは、歯医者に対して少なからず抵抗のある人の方が多いことでしょう。それは私たち歯科医師も十分に承知しています。とあるデータによると、歯医者が好きな人はわずか7%。それに対して嫌いと回答した人は60%を超えるそうです

子ども

幼いころの体験が忘れられない方も……

ではなぜ歯医者が苦手な人が多いのでしょうか?嫌いな理由の多くを占めるのは、「治療がとにかく痛い」「キーンという治療の音が嫌い」「歯医者のにおいが独特で苦手」でしょう。多くの方に心当たりがあるかと思います。

その中でも今回は「治療がとにかく痛い」という理由を無くすために、私たちが患者さんに対して出来ることをご紹介させて頂きます。

痛みを軽減してストレスを無くそう

多くの方が感じている歯科治療の際の痛み。親知らずなどの抜歯、歯科インプラントの手術といった明らかな外科処置をおこなう場合だけでなく、進行してしまった虫歯の治療や、長い間放置してしまい、歯肉の中までこびりついてしまった歯石除去……といった一般治療の際にも痛みを感じることがあります。

ただ、このような痛みを感じる可能性がある治療をする際、みなさんのストレスを軽減させる方法があります。それが麻酔です。

歯科治療における麻酔のあれこれ…局所麻酔

麻酔と一言で言ってもさまざまな種類があります。みなさんに馴染みの深いのは、治療箇所に直接麻酔をする「局所麻酔」でしょう。

局所麻酔には「表面麻酔」「浸潤麻酔」「伝達麻酔」の3種類があり、注射針で麻酔をするのは浸潤麻酔と伝達麻酔です。しかし、いくら治療の痛みを抑えるための麻酔といっても、注射針を刺す段階で痛みを感じることもありますので、その痛みを軽減するために準備するのが、表面麻酔です。

表面麻酔は注射針を刺す歯肉表面にジェル状の麻酔薬を塗布する麻酔法です。塗布後数分で麻酔が効いてきます。医院によっては表面麻酔を行わないところもありますので、麻酔前にひと声希望を伝えるのも良いかと思います。

浸潤麻酔は先に述べたように、注射針を使用しての麻酔です。浸潤麻酔で大切なのは、麻酔薬と注射針の選択です。

麻酔薬は患者さんの持病や既往症、妊娠の有無といった身体の状況や、麻酔のしびれが長時間続くのが嫌(小児の場合はしびれが長時間にわたることで唇や粘膜を咬んだりして傷ついてしまう可能性もある)などの条件に適しているものを選ばなければなりません。

そして注射針は、注射をする箇所により太さと長さを適切に選択する必要があります。人間には痛みを感じる「痛点」というものが多数存在しており、同じ口腔内でも前歯と奥歯の付近では痛点の数が異なります。だからといって一概に細い注射針を選択すればよいというわけではなく、麻酔の効きにくい箇所には少々太めの針を選ぶなど、部位と状況によって選択することが大切なのです。

また、麻酔液を注入する際にも、さらに痛みを感じることがあります。この原因は麻酔液が自分の体温より大幅に低いこと、麻酔液を注入するスピードにムラがあることです。解決するために手のひらやカートリッジウォーマーで麻酔液を温めたり、一定のスピードと量で麻酔を注入できる電動麻酔器を使用することもあります。

伝達麻酔は、痛みや治療の箇所が広範囲に広がる可能性が高い場合に行います。局所の神経ではなく大元の神経自体に麻酔しますので長時間効きますし範囲も広くなります。

「下顎孔伝達麻酔」は親知らずの抜歯の際によく用いられます。下顎骨は非常に硬く厚みがあり、浸潤麻酔では効果が薄い場合があります。特に奥歯の部分にはその傾向が強く、親知らずの抜歯の際の痛みを減らすためには、下顎孔を通る下歯槽神経(下唇や顎の知覚、顎舌骨筋や顎二腹筋前腹といった頸部の筋肉を支配する神経)に働きかける下顎孔伝達麻酔が効果的なのです。これにより歯槽骨の厚みや密度に関係なく下顎全体に麻酔効果を与えることが出来ます。

歯科治療における麻酔のあれこれ…精神鎮静法

痛みも苦手だけど、これまでの経験が積み重なり歯医者に対する恐怖感が拭えない!という歯科恐怖症の方や、口の中に異物が入ると吐き気を催してしまう…という嘔吐反射の方におすすめなのが「精神鎮静法」。

精神鎮静法には「笑気麻酔」と「静脈内鎮静法」があります。歯医者に対する拒否感とストレス、そして過度な緊張を解きほぐすのにぴったりの麻酔法です。

笑気麻酔は笑気ガスと医療用酸素を用いた吸入鎮静法という麻酔です。空気中の3倍以上もの酸素を含んだ麻酔ガスを鼻から吸入し、全身の緊張をとります。意識を失ったり眠ってしまうほどではありませんので治療中の声掛けには反応できますし、ふんわりとした微睡状態でリラックスして治療を受けることが出来ます。

笑気麻酔には鎮静作用だけでなく鎮痛作用もある為、リラックスに加え痛みを感じにくいといった利点があります。表面麻酔と併せることで痛みのない局所麻酔を実現することが出来ます。また、使用する笑気ガス自体も体への悪影響が無いためお子様にも使用することが出来ます。治療後麻酔の吸入をストップすると呼気によって速やかに体外へ排出される為、覚醒も早く治療後の食事や車などの運転にも制限はありません。

麻酔科医と静脈内鎮静法

麻酔科医管理のもとで静脈内鎮静法をおこなう

一方、静脈内鎮静法は痛みを和らげたりリラックス効果のある薬を点滴により直接血管に投与して行います。全身麻酔のように意識を失ったりすることはありませんが、夢うつつの状態で治療を受けることになります。

直接薬を投与する分笑気麻酔よりも効果が高く、嘔吐反射が強く今まで歯科治療を全く受けることが出来なかった方や歯科インプラント手術などの外科処置を必要とする方に非常に効果的な鎮静法です。

笑気麻酔同様意識が有るので医師からの呼びかけに応じることが出来、患者さんの様子を見ながら処置を進めることが出来ますし、ウトウトとした状態ですので治療そのものを短く感じることもあります。血管に薬を投与するため薬剤が代謝により体外へ排出されるのに時間が掛かりますので、しっかりと覚醒するまで(出来れば当日中は)安静にして頂き、帰宅時含め自転車や車の運転はおこなわないようにしていただく必要があります。

静脈内鎮静法は麻酔科医の管理のもとで行われるのがベストです。事前に確認した既往症、服薬情報、身長体重をもとに薬の量を決め、当日麻酔前の全身状態確認は必須ですし、術前4~5時間は絶食となります。

正しい麻酔の選択

局所麻酔も精神鎮静法も大切なのは治療に適切な麻酔法を歯科医師に選択してもらうことです。どれほど痛みを感じているのか、歯医者に対しての抵抗感がどの程度なのかといった自身の状況をしっかりと担当医に相談し、最適な方法をとってもらうべきです。体の内部の病気と違って日本では歯の治療自体が後回しにされがちです。幼いころのトラウマや今自分の置かれている環境で歯医者へ通うのを躊躇っている方、是非とも麻酔を有効活用してもらい歯科治療をして健康な口腔環境を取り戻しましょう!


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