そもそも以前から、農業体験をしたい人を農家で迎え入れて宿泊させるといったことは、行われていました。民泊の先駆けと言えるでしょうが、民泊が今のように注目されるようになったのは、欧米で利用者の多い「Airbnb」(エアービーアンドビー)が、数年前から日本でも広がってきたからです。
民泊は観光客との交流からビジネスへ
注目されるきっかけは「Airbnb」
「Airbnb」というインターネットの仲介サイトに、泊まりたい人や受け入れたい人が登録し、泊まりたい部屋があった場合には、双方でメールなどのやり取りを通じて具体的な宿泊プランを立て、泊まった後は互いについてサイト上で評価するといった流れになっています。最近では、日本人が海外に宿泊する際や、海外の観光客が日本に宿泊する際などで「Airbnb」を利用するようになり、若い世代を中心に注目を集めていきました。外国でその国の人と触れ合い、生活や文化を理解する一助になるといったことが、大きな魅力だからです。
日本で「シェアリングビジネス」が広がってきたのも、普及の要因として挙げられるでしょう。空いている時間や場所を他人とシェアすることで、有効活用しようというものです。車や自転車、駐車場、労働時間…さまざまなものがシェアされるようになってきています。
宿泊施設不足や空き家対策の救世主としても注目
東京や大阪、京都などで「観光客の宿泊施設が不足している」という問題が深刻化するなか、「個人住宅の空き家が増加している」という課題も表面化しました。そこで、一般の住宅にも観光客を泊めればいい、空き家対策にもなるということで、にわかに民泊が注目を集めるようになってきたわけです。観光立国を目指す安倍政権も、訪日外国人の受け入れに向けて民泊に注目するようになりました。先行して、「国家戦略特区」(=地域を限定して規制緩和や税制面の優遇をすることで、国際的な経済活動の拠点の形成を促進するもの)で、旅館業の許可を得なくても民泊が行える制度を設けました。
具体的には、東京都の大田区と大阪府、大阪市が民泊に対応した条例改正に動き出し、大田区では2016年1月から民泊を行う事業者の申請や認定も行っています。ただし、条例で定めた居室の広さや設備、6泊7日以上の宿泊日数などのハードルが高いため、興味はあっても参入には慎重な事業者も多いようです。
2016年3月24日に行われた国家戦略特区の6区域合同会議の資料「平成27年度国家戦略特別区域の評価について」では、大田区では申請が6件、認定が4件にとどまっていますが、極めて有意義としてさらなる地域拡大を求めています。
近隣住人との民泊トラブルも発生
一方で、民泊によるトラブルも表面化しました。日本では、宿泊施設には旅館業法による生活衛生上や防災上のさまざまな規制があります。インターネット仲介による民泊は、匿名性が高いために、その大半が無許可で営業しているという法制度上の問題があります。さらに、収益ビジネスとして着目する事業者が一般の住宅を宿泊施設として利用するようになると、マンションの一部の住戸を外国観光客にホテル代わりとして提供し、マンション内を見知らぬ観光客がうろうろしたり、生活文化の違いから騒音やゴミ出しなどの近隣トラブルが生じたりといった問題も起きるようになりました。
例えば、賃料7万円の部屋があったとして、1泊7000円で宿泊させれば10泊以上で賃料並みの収入が、稼働率が高ければさらなる収入が得られます。交流目的ではなく収益目的なので、宿泊客に日本の暮らし方や生活ルールなどを理解してもらおうという配慮がないことで生じるトラブルといえるでしょう。
ほかにも無許可営業による事故や火災の発生、防犯機能の低下などの危険性も指摘され、観光客や近隣住民を不安にさせない新たなルール作りが必要となってきました。
新たなルール作りに向けて、検討会を設置
こうしたトラブル回避に加え、民泊は旅館業界のビジネスを圧迫するという指摘もあり、2015年11月に厚生労働省と国土交通省が、有識者による「『民泊サービス』のあり方に関する検討会」を立ち上げ、民泊のルール作りに着手しました。2016年3月15日に公表した「『民泊サービス』のあり方について(中間整理)」では、第一弾(早急な課題)として、民泊の施設を旅館業法上の「簡易宿所」(カプセルホテルや民宿が該当)と位置づけ、面積基準や玄関帳場設置義務の緩和などを盛り込んだうえで、旅館業法の許可を受けることが必要であることを周知することを提案しています。
さらに第二弾(中期的な課題)としては、家主居住のホームステイ型の民泊で小規模なものなどは、旅館業法の許可ではなく届け出を認めるなどの緩和策や、近隣住民とのトラブル回避のための措置の検討、仲介事業者への規制などの法整備を進めるように提案しています。
民泊については、観光振興やトラブル回避、シェアリングビジネスの成長、旅館業界との共存など、多様な観点からの意見があり、今後もさまざまな議論がなされるでしょう。個人的には、安易な宿泊施設や空き室対策としてではなく、観光客を安全で快適に、かつその土地を好きになってもらえる工夫のある宿泊施設になってほしいと思っています。