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中国が全人代で耳を疑う発言!? 日本株は大丈夫?

全人代後に行われた李克強首相の記者会見を聞く限り、中国企業はかなりせっぱ詰まった状況にあるように思います。中国は何とか乗り切っていこうとしていますが、その途中にはショックがあることも予想されます。

戸松 信博

執筆者:戸松 信博

外国株・中国株ガイド

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借金に押しつぶされる中国の資源企業

次のチャイナショックに備えるべき時・・・

次のチャイナショックに備えるべき時・・・

先日、中国を代表する石炭会社である中国第2位の国営企業、中煤能源(香港市場上場、証券コード:01898)が決算を発表。2015年の通期ベースでの最終損益は初の赤字となりました。決算書を見てみると、営業利益は2億9600万元(約51億円)の赤字なのですが、純損益で32億6700万元(約567億円)の大幅な赤字となっています。

では、どうして大幅赤字になったのかと言えば、有利子負債に対する利払いコストが49.5億元(約859億円)にも膨らんだことによります。実際の利払い額は64億元(約1111億円)なのですが、うち14.5億元(約252億円)を資産に組入れて経費に計上せずに済ませています。

いずれにせよこの利払い額が最終赤字額に直結する大きさとなっており、ここから利息収入など幾らかの経常収益を足して、最終▼32.7億元の赤字となっているわけです。

どうしてこのように借入金が膨らんでしまったのかというと、石炭の需要が弱い中で、借入金を増やして設備投資をせっせと進めて来たからです。いつか石炭価格が反発するとの見込みだったのでしょうが、一向に市況が回復せず、石炭価格は下がり続けました。結果として利払いで大幅な赤字を計上するようになってしまっています。

もっとも、中煤能源は国営企業であり、代表的な大手企業ですので、破綻の心配は薄いと思われます。中国が何としてでも存続させると思われるからです。ただ同社が民営の企業で、中国以外の国に属していれば(純粋な市場競争にさらされていれば)、2~3年後破綻の心配もある状況と思います。

中国が全人代で耳を疑う発言!?

上に書いた中煤能源(01898)の決算は、中国全体に拡がる、借入金による供給過剰体質を象徴していると思います。需要がないのに鉄や石炭、セメント、ガラスなどの生産設備を一方的に拡大させ、しかもそれは借金による資金調達が基となっています。その過剰生産の捌け口を求め、「一帯一路」という構想が生まれたのだとも思います。

ここで問題となってくるのは中国企業の借金返済能力ですが、国全体で考えて見ると、全人代後に行われた李克強首相の記者会見(2016年3月16日)が状況を良く語っていると思います。

会見で同首相は、耳を疑うような言葉を発しました。中国企業のレバレッジ解消(借入比率の低下)の為、「デット・エクイティ・スワップ(DES、債務の株式化)」を活用して行くと述べたのです。「デット・エクイティ・スワップ」とは通常、債務返済が不可能となった破綻寸前の企業に使われる言葉で、借金を増資にすり替えてしまうという荒技です

多額の債務を残して大企業が破綻すれば、貸し手である銀行の不良債権問題ともなり、信用不安を生みます。破綻、もしくは債権放棄を強いられれば、銀行側のバランスシート上にある債権資産が消え、同額の損失を計上する必要があるからです。

しかしその債権を、銀行が出資(増資)したことにすり変えてしまえば、債権資産を株式へと、勘定科目を換えるだけで済み、借り手からすれば負債が株主資本に替わり、返済しなくても済みます。銀行は、企業がきちんと再生して株価が上がれば売却し、もともと貸していたお金を回収することもできますが、債務を抱えている借り手は銀行向けに新株を大量に発行する必要があり、大幅な希薄化によって既存株主にダメージを与えます。

いずにせよこれは非常手段であり、破綻の危機にある企業に(再生までの)時間的余裕を与え、また銀行の不良債権問題を先送りにする手法です。つまり、そこまでしなければならないほど、中国の過剰生産問題を抱える企業の状況はひどいということを表す発言と思います

一般の国では、「デット・エクイティ・スワップ」という言葉を出した段階で破綻を意味する状況ですが、中国企業の多くは国営なので、国主導で当面を乗り切ろうという話だと思います。

日本株への影響は?

中国企業の供給過剰問題は今に始まったことではないので、直ちに世界的に株価が急落するといった事態には繋がりません。しかしながら、このままドル高や資源価格の下落が続くようであれば、中国の資源企業は利払いに苦しみ、借金に押しつぶされるところも多くなってくると思います。

実際のところ、中国上場企業はここ1~2年、損益計算書上は黒字なのに、売り掛け金を回収できずに営業キャッシュフローが赤字に転落している企業が多くなっているように思います。これはここまでに書いてきた供給過剰の問題が、幅広いセクターで起こっていることを意味しているのだと思います。

中国のこれらの企業が、今の事業環境で、多額の有利子負債の利払いを返済しながら、なおかつ借金自体をまともに返済して行くのは難しいと思います。だからこそ中国政府が対策を立てようとしているわけですが、ここまで膨らんでしまったバランスシートをどう調整して行くのか、不透明な部分が多いように思います。

とすると、2015年8月に起こったようなチャイナショックが何らかの形で再発する可能性があることを意識しておく必要があると思います。もちろん、そのような世界の株式市場を揺るがすようなことが発生すれば、日本株も無傷ではいられません。

おそらくそのタイミングとして考えられるのは、次に米国が利上げをする前後あたりのタイミングなのではないかと思います。米国が利上げをすればドル高になり、人民元には切り下げ圧力がかかると同時に、ドル建て債務の利払い負担が拡大するためです。

【関連記事】
三井物産(8031)の創業来初の赤字転落が意味するもの

参考:日本株通信

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