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街を楽しく豊かにする「ミズベリング」とは何か?

都市の中などで生まれた空間を生かしていこうという発想の下、川や海辺など「水辺」の可能性に着目し、楽しく豊かな街づくりに若者たちが取り組んでいる。それが「ミズベリング」だ。街を流れる川を生かせば、そこでの生活が楽しく豊かになるだけでなく、パリのような素敵な街にも生まれかわる。その取り組みを取材した。

松井 政就

執筆者:松井 政就

社会ニュースガイド

「ミズベリング」とは何か?

まず「ミズベリング」とは何かを簡単にご説明したい。

ミズベリングとは、都市の中などで生まれた空間を生かしていこうという発想の下、とくに川や海辺といった「水辺(ミズベ)」の可能性に着目し、そのエリアを中心に暮らしやすい豊かな社会づくりをしていこうという活動だ。

3月3日に行われたフォーラム「ミズベリング ジャパン」では、水辺開発の最前線で活躍する若手により具体的な事例が発表され、話を聞こうと600人を越える人が参加した。

盛り上がる会場の様子

盛り上がる会場の様子

プロジェクトが訴えるのは、一人ひとりの「発想」や「妄想」が水辺を豊かで魅力的な空間に変えていくことが可能という点だ。

それは、従来のように「お上」の計画に従って粛々と街作りをしてきたこととは大きく異なり、その土地に暮らす人自らが豊かで満足できる街作りを行おうというものだ。

ではなぜそのターゲットが「水辺」なのか?

大切なのに忘れられている「水辺」

これまでの日本の街の開発を振り返ると、陸上の交通路一辺倒で行われており、水路を含む水辺が大切にされてこなかったことがわかる。

その象徴が日本橋だ。
日本橋は日本の交通の起点であり、歴史的にも非常に重要な場所であるにもかかわらず、上には首都高が走り景観は台無し。しかも川の真上に造られた首都高が日差しを遮るため水質も悪化している。

現地を見た人なら誰もが感じることだが、東京(江戸)で最も重要で由緒あるはずの場所が散策さえままならないほどの環境に追いやられているのだ。

その姿はまさに、利便性や経済効率を優先した開発の弊害と言える。

水辺を活用すると人が集まる

水辺を利用した街づくりと言えばまず思い浮かぶのがフランスだ。
フランスは年間の観光客数が約8,000万人という世界最大の観光国だがその中心がパリ。セーヌ川を船で行く観光も人気。さわやかな風を受けながら川を進んだ後は川辺のバーやレストランで楽しむというように、川は重要な役割を果たしている。

陸上路は早く遠くに行けるという利便性でのメリットはあるが、素敵さや優雅さという点では川に一歩も二歩も譲っている。

ドイツのベルリンでも同様に、川は人がゆったり楽しむための場所として活用されている。
ベルリン上空から

ベルリン上空から

船を下りた後は川辺のレストランで楽しむ

船を下りた後は川辺のレストランで楽しむ


夢の実現のしかたを披露

フォーラムでは「ニコタマ(二子玉川)に歩行者専用の橋をかける」「福岡で水上公園を作る」など(詳細はhttp://mizbering.jp/を参照)、実現に向けて取り組んでいる活動やすでに実現した活動が紹介された。

最初は夢を語っていたに過ぎなかったものが、言い出しっぺ自らが行動を起こすことで次第に実現してくる様子が伝わるものであった。

その中で、一般社団法人水都大阪パートナーズ理事の泉英明氏の言葉が頭に残った。

「成功例ばかり話しましたが失敗談も聞いてほしい」という言葉だ。泉氏が訴えたのは、今後日本の発展において民間の力を生かすのであれば、「失敗を許し、みなが思い切ってチャレンジしやすくなるような考え方」を行政自身が持つことの必要性だ。

さらに、民間だけに努力を強いるのではなく、たとえば資金面で行政がサポートすれば、さらに夢は実現しやすくなるはずだ。

ご存じの通り、東京五輪のために巨額が費されるが、そんな贅沢過ぎる投資のほんの一部でも水辺整備のために使ってくれたら、日本にはもしかしたらフランスやドイツの川辺のような場所がたくさん出来るのではないかと考えされられた。

川、水辺の魅力を再認識

フォーラムでは、「RIVER VIEW」で水辺の“見える化”を推進!と題し、ミズベリングディレクターの有澤卓也氏が神田川および日本橋川をグーグルのストリートビューで公開した。

ネット利用者の多くが知っているストリートビュー。その画面がスクリーン上に映し出された時までは会場は静かだった。ところが視点が水上に移ると会場から「おおお!」という歓声が沸き上がった。
川のストリートビューに参加者はクギ付け

川のストリートビューに参加者はクギ付け

これはミズベリングプロジェクトおよび有澤氏がグーグルから特別に借りた機器で実際に撮影したものだ。

有澤氏がポイントを進めると映像が川を進んでいく。陸上の道路のように川が水路として使えることに参加者は素直に感動したのである。

もちろん川なのだから交通として使えると頭ではわかっていても、単に知識として知っているということと感情を伴って理解するということがこれほどまでに違うということを、フォーラムに参加した人たちは共通認識として持っただろう。

「水辺を整備し活用する」というように言葉から思い描くイメージは人それぞれだが、実際に水辺を整備し、憩いの場として活用されている具体例を見るたび、「この手があったか!」と膝を打たされた。

つまり私自身、水辺のもつ可能性や価値に十分に気づいていなかったのである。

「便利だけどつまらない街」から「住む楽しさ優先の街」へ

興味深い発言もあった。
株式会社ネクスト HOME'S総研所長の島原万丈氏によれば、日本の再開発には画一化されたフォーマットのようなものがあり、それが正しくないせいで街から人間的なものが奪われていってしまうのだという。
島原万丈氏の発表

島原万丈氏の発表


例えば某有名経済誌では、最も住みやすい街はどこかというアンケートが行われているが、その結果が毎回千葉県の某市である。

その名前が出ると、会場から「ええー!?」という疑問の声が上がった。その市に住んでいる人に悪いのであえて名前は伏せるが、その市が1位になる原因は評価の仕方そのものに問題があるからだ。

「建物や施設がより多く、より大きく、より新しく」といった、人生の本質的豊かさとは無関係の評価尺度が用いられているせいと島原氏は指摘。

街の暮らしやすさや楽しさは、そんな表面的便利さではなく、人間らしい生活の満足度(氏はこれを「センシュアス度」と表現)で判断されなくてはならないという島原氏の意見はまさに正鵠を射ている。

役所の中で考えられたモノサシにより作られてきた「便利だけどつまらない街」から、そこに暮らす人が自ら考え、「利便性よりも住む楽しさ優先の街」への転換こそが必要なのだ。

自分の住む街なのだから自分の手で素敵にしよう

ミズベリング・プロジェクトの行っている街作りは、これからそこに住み、働き、子を育てることを前提とした「若者」たちが自ら考え行動するという「当事者意識」によって行われている。

しかもその着眼点が、これまで行政が軽視し、丁寧に手を加えてこなかった水辺である。

しかもその活動は、国家プロジェクトなどによく見られるような拝金主義的な面が全く感じられないどころか、発案者自らが自腹を切って行われている。そのわけは、自分の住む街を良くしたいという思いに他ならない。
「水都大阪」のユニークな発表

「水都大阪」のユニークな発表


これまで地域の活性化というと、やれ企業誘致だ、やれテーマパークだと、何かを新しく作るような発想が多かった。

しかし人口も減り、財政的にも決して潤沢とは言えなくなるこれからの時代は、「今あるものの価値に気づくこと」が重要だ。

しかもそれが、ずっと前からあるのにみながその存在を忘れていた水辺であるならなおさらのことだ。

このプロジェクトが社会に浸透し、道路を車で走るより「川を船でいく方がおしゃれで楽しい」という時代が来ることを期待したい。

取材協力:ミズベリング プロジェクト事務局
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。

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