ブニアティシヴィリ(ピアノ) ムソルグスキー:展覧会の絵、ラヴェル:ラ・ヴァルス、ストラヴィンスキー:「ペトルーシュカ」からの3楽章
グルジア(現ジョージア)出身のピアニスト、カティア・ブニアティシヴィリの新作は、すべて巨大管弦楽のヴァージョンも存在するピアノ曲3題。カティアはもともと極めて色彩的なピアニズムを特色としており、今回の選曲はまさに彼女にうってつけのものといえるだろう。どの曲も技巧的にきわめて難易度が高いが、カティアはむしろそれを一層カラフルに彩った表現ですばらしい万華鏡のような世界を描写することに成功している。
■ガイド大塚の感想
歴史に残る衝撃作……。『展覧会』は冒頭から揺れるテンポ。飾られる絵はただの絵画ではない。自分の過去の物語なのか? 生物の記憶なのか? 「古い城」のわずかなタッチのずれ、「ブィドロ」の朦朧、「バーバ・ヤーガ」による電光石火の攻撃、「キエフの大門」は立派な門ではなく、我に返る警句のような門。何なんだこれは……、圧倒的世界観。。『ラ・ヴァルス』も絢爛豪華にデカダンスに吹き飛ぶ人生のよう。『ペトルーシュカ』も自由な演奏で街の喧騒だけでなく光も描き込むようなカラフルさ。
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グリモー(ピアノ) ウォーター
グリモーらしい知的且つ直観的な切り口でまとめられた「水」をテーマとした「音楽と自然を繋ぐ」コンセプト・アルバム。グリモーが「水」をテーマとした作品を、NYのパーク・アヴェニュー・アーモリーの一面に水を張った特設会場で演奏したライヴ録音と、それらを「プロムナード」のように繋ぐニティン・ソーニーの作曲・演奏によるアンビエントな楽曲によって全体をまとめるというユニークかつ意欲的な作品です。
■ガイド大塚の感想
単に水に関する曲を集めた、のではなく、楽譜も人体の制約をも超えて水の動き、彩り、香りをも捉えるよう。ラヴェルの途中の速すぎる「水の戯れ」では、その技術に驚く前に水の恐ろしさを感じさせるし、ドビュッシーの「沈める寺」は幾分官能的な気配から始まるも、大聖堂が出るところでは激しくゴゴゴという音と共に現れるように、単に美しさだけを求める演奏ではないところにグリモーのリアルがあり、引き込まれる。
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シャマユ(ピアノ) ラヴェル:ピアノ・ソロ作品全集
フランス近代の抒情を音に投影する作曲家のモーリス・ラヴェルと同じくフランスの地に生まれ育ったシャマユにとって「ラヴェルはとても近しい作曲家」であり、「フランス語をしゃべるように対峙できる作曲家」だと語っています。作品の背景にある「言語」や「環境」、そして作曲家に内含する「哲学」までをも研究し、演奏に投影するシャマユ独特のピアニズムで語る、フランス近代を生きたラヴェルの世界。綿々とフランスに息づく芸術的陰翳礼讃を現代にトレースした、シャマユの意欲作の登場です。
■ガイド大塚の感想
一音一音はしっかり芯のあるものだが、1つの流れに結びつける巧みなレガートや強弱が自然で全体としての柔らかさを生む。そのあたりが雰囲気で弾かれたラヴェルとも、ドライに描かれすぎたラヴェルとも異なる。容器によりカタチを変え、また自由に流れる水のようで、それゆえ「水の戯れ」や「海原の小舟」のような“水”が題材の作品は特に美しい。前者は絶妙のペダリングも相まってマイナスイオンを浴びるよう。感傷主義に陥らず、現代の目線で凛としたラヴェルを聴かせてくれる。
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小菅優(ピアノ) ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ集 第5巻「極限」
世界を舞台に活躍する若き日本人ピアニスト小菅優が2011年から着手した「音楽の新約聖書」といわれるベートーヴェンのピアノ・ソナタ全集録音も、とうとう最終章。第5巻は有名な『悲愴』と『熱情』というベートーヴェンのピアノ・ソナタ中でも最大の人気ソナタを前半に、そして後半にはベートーヴェンが生涯追求したピアノ・ソナタの集大成ともういべき『30~32番』という後期三大ソナタを収録。まだ若き小菅優のコスモスがここに描き出されます。
■ガイド大塚の感想
作曲家への畏敬と共感が強く感じられ、思いつくまま、また直感的に弾いたのではなく、全体的に重心低く地に足を付けたところから描かれている。それゆえ、仰ぎ見る宇宙はとても広く、また遠くまで見通せる。彼女が楽譜から見つけ出した・見出した感情の機微やまた不変などのテーマがはっきり描かれていて、その偉大な仕事自体と演奏内容の素晴らしさに感銘を受ける。
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