“性能を発揮すること”は、必ずしも重要でない
もちろん、“スペック・アピール”はスーパーカーに欠かせないポイントだ。そのスタイリングとともに、核心であると言っていい。常に世界トップレベルの性能であることが求められるし、性能の進化なしに顧客からの継続的な支持も得られそうにない。
けれども、“性能を発揮すること”が、必ずしも重要でないことは、公道上で試すには非現実的な最新スペックを見れば、誰でも判ること。600馬力、700馬力、なんて、公道はもちろんのことサーキットでもその実力をフルに引き出すことは難しい。
ということはつまり、“引き出すことはしないけれど、凄い性能を持っている”から買う、というわけだが、では、スーパーカーに乗ることの楽しみって、持てる性能の発揮じゃなくて、いったい何なのだろう。
ランボルギーニ最新モデル「ウラカンスパイダー」inマイアミビーチ
今回、ランボルギーニの最新モデル、ウラカンスパイダーの試乗会はマイアミビーチで行なわれた。速度規制の厳しいアメリカ、平坦な市街地で渋滞の多いマイアミ。スーパーカーの試乗に、さほど向いているとは思えない。けれども、乗っていて、とても気持ちがよかった。時速50km/h以下でなら、およそ18秒で開閉できるソフトトップを開け、2月だというのに燦々ときらめく陽光を浴びて、だらだらのんびりとクルージングする。ときおり、ミラーウォールのビル街に、V10サウンドの咆哮が木霊して。
乗り心地は、ノーマルとさほど変わらず良好だ。引き締まってはいるけれども、姿カタチから想像される以上に心地いい。
オープン化にともなって、各所の補強などがあり、重量が約100kg増えている。けれども、610馬力のV10エンジンにとって、限界域での影響こそあれども、一般領域では誤差。その加速フィールは、クーペとさほど変わらない。むしろ、豪快なV10サウンドがコクピットへダイレクトに降り注ぐから、気分は速い。スポーツモードで走れば、アクセルオフ時の疑似バックファイア音も凄まじく、街ゆく人々の視線を釘付けにする。
最上級のライフスタイル・アイテム
みなさんは、マイアミという土地に対して、どんなイメージを抱かれるだろうか?
どんなイメージにしろ、“お金”の匂いが強いことだろう。そういう場所に、ランボルギーニのオープンカーは本当によく似合っている。
ソフトトップを開けて、オーシャンドライブの大渋滞に巻き込まれていると、街行く人々からの羨望の眼差しが降り注ぎ、束の間、街のヒーローになった気分がする。借り物のクルマで、仕事中であるなんてことを、さっさと忘れてしまうぐらいに。コースト沿いを歩くビキニの女性たちに、声を掛ける蛮勇はさすがにないけれども、ペースを合わせてゆっくり走ってみせるくらいの勇気なら、どこからか、沸いてくる。
真のオーナーなら、それが自分らしさの表現というわけなのだろう。マイアミでの筆者のように、それが仕事で借り物なら、普段と違う自分になったかのような“勘違い”が心地良いというわけだ。そのあたりに、派手なスーパーカーの本質的な魅力が潜んでいそうである。
ウラカンスパイダーは、ガヤルドのときの同様に、ふたたびソフトトップを採用した。ミドシップ2シーターのマルチシリンダー・スーパースポーツのなかでは今やウラカンだけがソフトで、他のモデルは全てリトラクタブルハードトップ。その違いは大きい。
否、ソフトトップとはいっても、ウラカンのそれは、3レイヤーでとても頑丈だし、硬い。静粛性もクーペ並みを実現しているから、あとは単に見映えの問題ということに。ちなみに、最近のハードルーフは軽くなっていて、2シーター用、つまりルーフ面積が小さく、システムが小型にできるのであれば、重量差や重量移動の問題も、たいしたものではなくなってきた。
ソフトトップスタイルは、エレガントだ。リトラクタブルハードルーフは、クーペと変わらぬ見映えで、一粒で二度美味しいというけれど、それじゃ何だかリバーシブルウェアがいいと言っているようでケチ臭くないか、といったあたりがランボルギーニの主張だろう。
ウラカンスパイダーのクローズドスタイルは、クーペとほとんど変わらない。けれども、メタルとクロスの質感、色といった見映えの大きな違いが、その組みあわせのパターンとあいまって、スーパーカーをよりいっそうエレガントにみせる。センスのいい内外装のコーディネートを選び、それを使いこなす器量がオーナーの側にも求められる。これは、最上級のライフスタイル・アイテムというわけだ。
だから、欲望渦めく、マイアミのような場所にはよく似合う。無縁な日本のオッサンを、たちまちヒーローにしてくれる。コクピットの2人をスーパーヒーローにしてくれるクルマだから、スーパーカーなのだ。少なくとも、マイアミのような場所では。