酵素はからだの中でどう働くのか

健康志向の人たちの中で酵素ドリンクが流行っているようです。聞いたことがあるようで何なのかよく分からない酵素。今日は酵素についてお話します。
ある洗剤のCMで「酵素パワー」という言葉を耳にします。これは洗剤に含まれる酵素が、汚れとして付着しているたんぱく質や脂肪を分解し、分子を小さくすることで衣類の繊維との絡まりをほどき、きれいになるというメカニズムです。このように、酵素はなにかしらの物質のかたちを変化させる働きを持っています。
ただし、酵素は物質があれば何でもかんでも変化をさせる万能なパワーを持っているわけではありません。そもそも酵素とは酸素(さんそ)や窒素などのように、ある一種類の物質を指しているわけではなく、こうした反応をもたらす物質の総称なのです。
多種多様にある酵素は、それぞれ変化をさせる物質(炭水化物、タンパク質、糖質など)が決まっています。さらに、その変化させる物質の中でも○○の部分に影響を与える……など、酵素は細かく決められた1つの仕事しかできません。
有名なところで例を挙げると、だ液アミラーゼは炭水化物を、リパーゼは脂肪を、プロテアーゼはたんぱく質を分解する酵素として消化管の中に存在しています。
酵素は「たんぱく質」でできている…熱や酸などの影響を受けやすい
酵素本体は「たんぱく質」でできています。そのため加熱や酸などによって変性すると、その効果を失ってしまいます。二度と元へは戻りません。
目玉焼きを冷やしても生卵には戻らないように、たんぱく質は熱や酸などの影響を強く受けます
また、他にも酸やアルカリを加えることによっても変性させることができます。調理においても、酢を使って卵を変性させる酢卵(卵酢)がありますね。
「酵素ドリンク」はからだに良い?
これまでご説明の通り、酵素はその種類によって、決められた仕事しかできません。「酵素ドリンクはからだに良い!」と書かれていても、その飲み物に入っている酵素が何なのかが分からなければ、何に作用するのかまったく分かりません。また酵素は「温度」や「pH」の影響を強く受けます。仮に酵素の活性が高い状態で飲用したとしても、一般の酵素ドリンクは中性ですから、酸性の強い胃酸(pH1~1.5)の影響で活動ができなくなってしまいます。そうなると酵素は単なるタンパク質として消化・吸収されることとなります。まったくムダになってしまうわけではありませんが、必ずしも狙った効果は得られないように思います。
普通にタンパク質を摂りたいのであれば、酵素ドリンクのような高価なものでなくても、肉や魚、卵などの一般食品のほうが安価で入手しやすく、オススメできます。
「酵素ドリンク」の正体は、「野菜ドリンク」かも
酵素ドリンクのパッケージには、便秘解消・美肌効果・ダイエット効果などという宣伝文句が掲げられていることもあります。なんとなく身体によさそうに感じてしまいますが、その効果は酵素によるものとは言えないものもあります。
ふんだんに使われた野菜が「酵素ドリンク」の効果を生み出している?
もっと意地悪に考えるなら、「酵素を飲んでいるから便秘が治る」と思い込むことで本当に治ってしまうというような、いわゆる“プラセボ効果”かもしれません。
酵素は取り扱いが大変!
本来の働きを維持したまま摂取できるかは疑問アリ
最後に私の経験談ですが、大学の助手時代、酵素実験の用意をするよう教授に頼まれたことがありました。一般の実験試薬は1ヵ月や2ヵ月経っても問題なく使用できますが、酵素の試薬だけは機能を失いやすいので、実験の直前に用意しなければならず、早朝からの準備が大変でした。「酵素ドリンク」のすべてを否定するつもりはありませんが、この経験を踏まえて考えると、あれだけ失活しやすい酵素が3ヶ月・半年と高い活性を保持できるとは思えません。
安易に健康商品に手を出すよりも、まずはいろいろな食品を食べることから始めるほうが、最終的には健康によいでしょう。
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