比較的大きな地震が相次いだり、首都直下地震や南海トラフ地震などによる大規模災害の発生が危惧されたりして、建物の耐震強度への関心は年々高まっています。
ところが、1981年以前に旧耐震基準で建てられたマンションの耐震改修工事はなかなか進展がみられません。
補助制度などを導入している自治体でもその利用実績はごくわずかにすぎず、耐震改修工事以前の問題として、耐震性があるかどうかの「耐震診断」ですら実施できていないマンションも多いようです。
東京都が2013年3月にまとめた「マンション実態調査」の結果をみると、旧耐震基準で建てられた分譲マンションのうち、耐震診断を実施したのは17.1%にとどまり、診断後に耐震改修工事まで辿り着いたのはそのうち5.9%にすぎません。
また、少し前のデータになりますが、長谷工コミュニティが2006年に実施したアンケート調査の結果では、旧耐震基準によって建設されて強度が劣るマンションに居住する人のうち、おおよそ半数が「改修せずにこのまま永住する」と答えていたようです。
古いマンションでは居住者全体の高齢化も大きな問題となっていますが、旧耐震基準のマンションを分譲当初に購入した人がそのまま住み続けているとすれば、その多くは70代から80代くらいになっています。
長い住宅ローンの支払いから解放されてほっとしている人もいるでしょうし、年金暮らしで耐震改修工事に回すようなお金の余裕がない人も多いはずです。
さらに、少しネガティブな発想で「いつかやってくる大地震よりも先に自分が……」と考えている人がいるかもしれません。
また、これから中古マンションとして売り出す予定の人であれば、「耐震診断なんかやって強度不足のレッテルを貼られたら困る」と感じることもあるでしょう。
さまざまな考えをもった人が暮らすマンションでは、多額の費用負担を伴う耐震改修工事の合意を形成することが極めて難しい問題です。
国や自治体が耐震改修工事を主要政策として推し進めているのとは裏腹に、そこに暮らす住民自身が大きな壁にならざるを得ないのが現実なのでしょう。
>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX
(この記事は2007年12月公開の「不動産百考 vol.18」をもとに再構成したものです)
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