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『サウルの息子』強制収容所という地獄にようこそ(2ページ目)

アウシュビッツ強制収容所の地獄を体験できる、とんでもない衝撃作『サウルの息子』が1月23日(土)より公開されます。なぜ無名の新人監督の作品がここまでの絶賛を浴びたのか? その魅力を紹介します。

ヒナタカ

執筆者:ヒナタカ

映画ガイド

もうひとつ、『サウルの息子』とカメラワークが似ている作品をあげるのであれば、『バードマン あるいは(無知がもたらす予期せぬ奇跡)』です。

『バードマン』はずっと長回しの撮影のように見せることで、実在する劇場の中を浮遊しているかのような、不思議な感覚がりました。

『サウルの息子』は『バードマン』のようにすべてをワンカットで見せているわけではないのですが、時折、信じられないほどに長い“カットなし”のシーンが続きます。これも“観客がいままさに収容所にいる”という没入感を高めてくれるでしょう。

また、カメラはずっと後ろに張りつくわけではなく、ときどき主人公の複雑な表情を捉えたり、山積したおぞましい数の死体を“ぼかして(ピントを外して)”写したりもします。主人公の表情と、おぞましい光景がぼかされていることには“もう見たくない”という心情が表れているかのようでした。

このカメラワークは革命的なものなのではないでしょうか。これだけでも、本作を劇場で観る価値があると断言できます。


過酷な仕事を強制された囚人“ゾンダーコマンド”とは?

もうひとつ、本作を観る前に知ってほしいのは主人公が“ゾンダーコマンド”と呼ばれる種類の囚人であったことです。

ゾンダーコマンドとは、新たに収容所に送られてきた囚人を安心させてからガス室に連れて行き、その後にガス室の掃除や死体の運搬を迅速に行うという仕事を担った者たちのことです。

この時点で過酷ですが、さらに大量虐殺の証拠が残らないよう、彼らはナチスの親衛隊によって3、4ヶ月ごとに殺されていたりするのです。

過酷な仕事に従事する主人公

過酷な仕事に従事する主人公

なお、ゾンダーコマンドの記録には、収容所の“死の工場”の正確さが記されていたそうです。過酷な作業のリズム、シフト制などが明確に記録され、さらに死体は“部品”という生産品のような呼ばれ方をされていたそうです。

この映画では、そんな人間の尊厳なんて何もない場所でのゾンダーコマンドの生活を、ヒーローもののようなカタルシスなどを一切排除し、ただただ丹念に追っていきます。主人公の“息子をただ埋葬したい”という想いを描きながら……。

本作は、“地上の地獄”を体験出来る極上の作品です。とても気の滅入る内容ではありますが、それこそがこの映画の魅力であり、意義なのでしょう。

また、どんなことよりも息子(を埋葬すること)を優先する主人公に感情移入できる日本人は、きっと多いはずです。平凡な“父”の信念の物語としても、オススメします。

『サウルの息子』公式サイト

(C)2015 Laokoon Filmgroup

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