「性格の違い」や「特徴」を活かした木の空間づくり
木には種類、つまり樹種によって性格が違い、それぞれ特徴があります。住友林業では、数多くの木の“性格”について詳しく知ったうえで、それを活かしながら木を自由に、大胆に使うべきではないかと考えています。特に住宅より規模の大きな建物には、適材適所を見極めて木を使っていく必要があります。東京都文京区の店舗。有機栽培の野菜の販売と料理を提供する店で、2階の飲食スペースは、構造材や内装に木をたくさん使い、木質感たっぷりの空間になりました
上の写真は、国産スギ材を利用してつくられた店舗です。構造材はスギ材に難燃薬剤を含浸させた耐火集成材「FRウッド」。火に強く、耐久性に優れた部材です。屋内には、太い柱や梁(はり)、垂木(たるき)といった構造材がそのままデザインに活かされており、存分に木質感を味わうことができます。有機栽培を扱うという店舗のコンセプトと、国産スギ材という自然の木を使う組み合わせもぴったりです。
古くなっても美しいのが木のすばらしさ
自然の木は時間が経つにつれて色が変わり、独特の風合いを出していきます。日頃新しいものにばかり触れていると、ときにそれは古ぼけたものに見えたり、あるいは汚れてしまったものとして見られてしまうことがあります。しかしそれは本当に「汚れたもの」なのでしょうか。例えば、京都銀閣寺の外壁の色。建築されてから500年以上経ちますが、時代の風合いを残しながら丁寧に管理されてきた銀閣寺の外壁は、それを見たほとんどの人が「古くても美しい」と言うでしょう。そしてそれをうまく表現しようと思っても、色に名前がなく、表現することが難しいものでもありました。
そこで私たちは、このような年月が経って趣のある色を、時が経っても美しい色として、「とき美色(ときみいろ)」と呼ぶことにしました(「とき」は木偏に時)。
「とき」という字は木偏ですから、木の時間的魅力を語る上でより相応しいと思ったのです。
銀閣の木製の外壁は、古くても美しく、新緑や紅葉などによく映えます。木という素材は、日本では昔から構造や外壁だけでなく、内装や建具などに使われ、愛されてきた歴史があります
「とき美色(ときみいろ)」をした木は、春の桜、初夏の新緑、秋の紅葉、冬の雪など、日本の四季の風景を背景にしたときにとても美しい情景をつくり出します。それだけ、自然の木というのは、長い時間が経っても独特の美しさを持っているわけです。
私たちが手がける木の建物がこの「とき美色(ときみいろ)」の魅力を持ち続けていられるようにしたい。「木化」はそのための事業でもあるのです。
木でつくる「子どもたちの五感を育む空間」
近ごろ、「キレやすい子」や「落ち着きのない子」が問題になっていますが、欧米では学校教育の中で、子どもたちが自然のものに触れる時間を積極的につくっているといいます。「日本でも、保育園や学校など、子どもが長時間過ごす空間こそ、木造で建築し、もっと木を感じられる設計であってほしいのです」と杉本さんは話します。子どもは、木などの自然素材にたくさん触れ合うことで、五感が育つものではないかと考えているからです。
木造で建てられた神奈川県川崎市の保育園。吹き抜けの空間の構造材、無垢の床、階段や手すりなど、目に入るところや肌に触れるところにふんだんに木を使用しています
上の写真の保育園も、「木化」の事業として建てられたものです。子どもたちのからだにもこころにもよく、健全な成長につながるだろうと、木造が採用されました。素足でも気持ちのよい無垢材の床や、構造材の力強い木を目にしながら、子どもたちはのびのびと遊んでいるそうです。
私たちは、「木化」という事業を通して、店舗やコミュニティースペース、教育施設など、住宅以外でも木という素材のすばらしさを実感できる建物を街に増やしていこうと考えています。街のランドマークとして愛されるような建物づくりが使命です。今回ご紹介したカフェのような店舗はまさにその一例です。誰もが気軽に入れる場所で、木の良さを実感してもらいたいと考えているのです。
【参考記事】
住友林業「MOCCA-木化事業-」
インテリアを個性豊かに彩る『世界の銘木』6選
“黄金の木”と呼ばれる「マホガニー」の魅力
直線美と涼感をもたらす「バンブー材」
子どもの心とからだを豊かに育む「庭づくり」