中古住宅あるいは完成済み新築住宅の売買では、契約書の中に「現況有姿のまま引き渡す」といった条項が記載されていることも多いでしょう。
しかし、「現況有姿」(または現状有姿)という用語自体に明確な定義はなく、ケースバイケースで売主や仲介業者に都合よく解釈されている面があることも否めません。
一般的には「契約時点の状態のままで引き渡す」という意味であり、売買契約を締結してから引き渡しまでの間に「新たな工事をしない」「リフォームや修繕工事をしない」「建物の躯体部分に変更を加えない」などのように解釈されます。
したがって、建築工事途中の建物であれば「現況有姿」は成り立たないでしょう。
「現況有姿」の対象物を把握することが大切
その他の付帯設備についても、「付帯設備状況確認書」などにより「売主が撤去する設備」「残して引き渡し対象に含める設備」を、売買契約締結時点で明確にしておくことが通例です。
「現況有姿」をめぐり問題が起きやすいのは、建物の躯体部分などに傷みや故障、不具合があったときです。誰も気付かないような「隠れた欠陥」であれば瑕疵担保責任の問題となるのですが、あらかじめ見えていたり分かっていたりした欠陥などは瑕疵担保責任の対象外です。
そのため「現況有姿だから、壊れているものは壊れたままで引き渡すのが原則」とばかりに、後から苦情を申し立てても突っぱねられることが少なくないのです。
敷地内や建物内に “余計なもの” があった場合も同様で、「売買契約締結前に見学したときから存在していて買主は納得しているはず。現況有姿という契約だから撤去には応じられない」と主張されることになりかねません。
本来であれば、買主が何に気付いていて、何に気付いていないのかを細かくチェックし、気付いていないことについては不動産業者がしっかりと説明をするべきです。
さらに、その欠陥や “余計なもの” による影響の度合いについて買主が誤解していることもあり得ますから、あらかじめ気付いているものについても入念な説明がされれば理想的でしょう。
それらを買主がすべて理解したうえで「現況有姿」が成り立つと考えたいところですが、実際にそこまで細かく説明されることは稀でしかありません。
買主としては、購入を決めようとする物件の見学を1回で済ませるのではなく、万全を期して2回目あるいは3回目の見学ができるように手配をしてもらうくらいの慎重さも大切です。
なお、この「現況有姿による引き渡し」と「瑕疵担保責任の免責(隠れた欠陥について責任を負わないとするもの)」を混同した説明がネット上に数多くみられます。これも「現況有姿」の認識の違いによるトラブルを生み出している一因なのかもしれません。
「現況有姿」はあくまでも引き渡し方法に関する規定であり、瑕疵担保責任に関する規定とは別物であることを理解しておきましょう。
また、「現況有姿」は「売買契約締結から引き渡しまでの間に、対象物に何らかの変化が生じても売主は責任を負わず、そのままの状態で引き渡す」という意味に解釈される場合もあるようですが、これもあまり一般的ではありません。
>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX
(この記事は2008年1月公開の「不動産百考 vol.19」をもとに再構成したものです)