あるとき、一般消費者の方から電話で相談を受けた事例は少し信じられないような内容でした。
マンションの買い替えで、先に購入物件を不動産業者の仲介によって決め、それまで住んでいた自宅の売却も同じその業者(大手某)に頼もうとしたところ、営業担当者が買い取り(下取り)の話しかしないのだそうです。
「そうじゃなくて普通に売り出して、相場で売却して欲しい」と言っても、まったく聞く耳を持たなかったとか。
当然ながら提示された価格は相場より低いものの、「この価格で当社が買い取るから安心です」「この金額なら買い替えは大丈夫です」「うちで買いの契約を決めたのだから、売りも任せるのが当然です」「だからうちに任せてください」という話ばかりで堂々めぐり。
たしかに不動産業者にとっては、単純に仲介するよりも買い取って転売したほうが大きな利益を見込めるため、買い取りをしたいのがその業者の本音だったのでしょう。ある意味では、正直な営業担当者だったのかもしれません。
しかし、売主にとってそれは最終手段であって、初めから低い金額での下取りを希望することはありません。たぶん、お客様への応対に不慣れな営業担当者の暴走だったのだと考えられます。
当然の成り行きとして、その不動産業者に大きな不信感を抱き、「購入物件を決めた業者に、売却も頼まなくてはいけないのか」という相談だったわけですが……。
住宅を買い替えるとき、新居の購入と自宅の売却を同じ不動産業者に頼めば、段取りがスムーズにできるといったメリットはありますが、決して「同じ業者でなければならない」などといった決まりはありません。
もちろん、それぞれ違う不動産業者に依頼して構わないわけです。しかし、そうすると消費者側の手間が増えることもたしかでしょう。
住宅の購入の場合でも売却の場合でも、不動産業者選びが重要なことに変わりはありませんが、買い替えのときにはその重要性がより一層高まるともいえます。
先に購入の話だけを進めて後から売却の話をすると、「買いはよかったけど、売りはイマイチ」みたいな業者だったことに気付かされることもありそうです。
住宅を買い替えるときは、まず初めに購入と売却のことをしっかりと話し合い、その両方を安心して任せられる不動産業者かどうかをきちんと見極めることが欠かせません。
最初から、売却に強い不動産業者、購入に強い不動産業者を別々に探すことも有効でしょう。
>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX
(この記事は2008年2月公開の「不動産百考 vol.20」をもとに再構成したものです)
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