おろそかにされがち? 住まいの基本性能
しかし、住まいの質というのは本来、様々な角度で評価されるべきです。間取りや設備、内装、さらに価格や広さなどは評価の指標の一つにすぎません。耐震性の高さや省エネ性能も大切なことで、リノベーション物件であれ、中古住宅であれ、おろそかにしてよいものではないと私は考えます。さて、なぜこのような事例を紹介したかというと、このリノベーションマンション、つまり中古住宅だけでなく、新築を含めた住まいに関わる人たちに、このような基本的な部分への配慮にルーズな部分があるということを指摘したかったからです。
具体的にいうと、住まいの評価指標の中で、「見えやすい部分」(価格、立地、広さ、間取り、設備、内装など)に重きを置き、「見えにくい部分」(構造の強度、耐久性、耐震性、省エネ性、可変性、メンテナンス性、資産性など)への努力の度合いが弱まっているのではないか、と思われるのです。
で、それが象徴的に世の中に表れた出来事が傾斜マンション問題だった、と考えられるということなのです。報道によると、建物の安全性を保つ最も大切な基礎部分について、しっかりとした施工体制が確立されていなかった、とされています。
この問題の本質は、おそらく建設コストや納期の問題から、建物の構造を含めた安全性、要は本来、最も大切な部分がないがしろにされていた、ということでしょう。杭を施工した企業を中心に非難されていますが、売主を含めて広く責任があると私は考えます。
そして、その責任は国やマスコミにもあるように思います。こんなことにならないよう、国には仕組みづくりや監督責任がありますし、マスコミには監視する責任があったはずだからです。
特に、マスコミには住まいに関する情報発信について、前出の「見えづらい部分」についてもっと様々な注意喚起をしておくべきだったと思います。後出しじゃんけん的に色んな報道や意見が発表されていますが、遅きに失したという感があります。もちろん、責任の重さを痛感しなければ行けないのは、その末席にいる私も同様です。
今後はさらに施工の健全性確保が難しくなる
ところで、傾斜マンション問題では、「資産価値」をどう評価するかが解決のポイントになると思われます。この資産価値こそが住まいの「見えにくい」部分の最も核心的になると考えられます。あるビルの建設現場の様子。写真を撮影したのは夜の8時頃。通常、一日の工事は5時か6時くらいには終了するものだが、この時間まで続けなければいけないのは、施工をする人たちの数が少ないことなどが背景にある。こうしたムリが、それは施工ミスやデータ改ざんなどの温床になっている(クリックすると拡大します)
このように、住宅取得にあたって後から何か問題が発生すると大変です。住宅は人がつくるものである以上、何かしら問題が発生するもの。問題が発生しても大ごとにならないようどんな工夫がされているかに注目するなど、慎重な検討が求められそうです。
このマンションの問題が今後、住まいづくりや購入を考えていく上で大きな分岐点になれば、と私は願わずにいられません。ただ、懸念されるのは、こうした問題が今後も起こる可能性が否定できないということです。
というのも、現在は東日本大震災の復興や、アベノミクスによる公共事業の増加、東京五輪開催に伴う建設需要の高まりなどから、横浜の傾斜マンションが建てられていた頃より、施工の健全性はさらに厳しい局面に置かれているといわざるをえないからです。
このことはこれまでに何度か指摘してきましたが、現在の住宅を含めた建設・不動産業界が置かれる状況をみていると、再度、懸念をしなければならないように思われます。今後、住宅取得を検討する皆さんには、これまで以上に「見えづらい部分」にこだわって、詳細な検討をしていただきたいと願っています。