このところマンションをはじめとした建物の杭の問題が世間を騒がせていますが、数年前には住宅の耐震強度偽装事件などもありました。他の業界でも、食品の原材料偽装、不正表示、あるいは情報の不正流出などが大きな社会問題となっています。
それにつれ、企業のコンプライアンス、社会的責任、モラルなどへの関心も高まり、企業の高度な専門性が問われるケースも多くなっているでしょう。
不動産業界も例外ではなく、取引前の物件調査や重要事項説明の対象範囲が広がったり、内容が複雑になったりして、ある程度の経験がなければ的確に対処できないケースも増えています。
マンションデベロッパーや建売業者など、自ら売主となる宅地建物取引業者では、なおさら専門知識を必要とする場面が少なくありません。
ところが、この宅地建物取引業に対する免許制度といえば、その骨格自体は昭和27年の制定当時からほとんど変わっていないのです。
意外に感じる人もいるでしょうが、一人だけで営業している会社も、千人を超えるような規模の会社も、月額2~3万円程度のアパート仲介がメインの会社も、数千億円の売り上げを計上する会社も、年に1回ほど不動産を扱うだけの兼業会社も、外資の巨額資金を相手にする会社も、大都市の再開発を手掛けるような会社も……専門分野が大きく異なっていても「宅地建物取引業」としてはすべて同じ免許です。
違いを挙げるとすれば、支店設置場所に応じた都道府県知事免許と国土交通大臣免許の種類でしかありません。
例えが悪いかもしれませんが、自動車の普通免許一つで大型トラックも大型クレーンも、路線バスもタクシーも、さらには列車や船舶、飛行機も操縦できてしまうようなものです。
また、従業者5人に1人以上という宅地建物取引士の設置義務ですが、裏を返せば社員5人のうち4人は不動産の知識がまったくなくても、宅地建物取引業の免許には影響がないのです。
証券会社などで金融商品取引業務をするためには全員が外務員資格を持つことが前提となっているのと比べて、大きく立ち遅れているともいえるでしょう。
消費者保護の観点から宅地建物取引業者の責任も、これからさらに大きくなっていくはずです。それに伴い、幅広い不動産業務の中で何を専門に扱うかによって、求められる知識や経験の範囲も大きく変わらざるを得ません。
そろそろ宅地建物取引業の免許も細分化、あるいは業態による要件の段階化が必要な時期だと感じられます。たとえば、1億円以上の売買物件を仲介するなら、従業者全員あるいは半数以上が宅地建物取引士の資格を要するというような分け方も考えられるでしょう。
宅地建物取引士の資格を持っていない社長や役員が、社員の宅地建物取引士に強引な契約を強要するケースもあるようです。宅地建物取引業者の社長などには取引士の資格を義務付けるだけでも、一歩前進になるかもしれません。
>> 平野雅之の不動産ミニコラム INDEX
(この記事は2008年3月公開の「不動産百考 vol.21」をもとに再構成したものです)