リナ・トゥール・ボネート(ヴァイオリン) ビーバー:ロザリオのソナタ集
15通りにチューニングを変えてゆく超絶技巧のヴァイオリンひとつで、聖書の物語15編を精彩あざやかに描き出すバロック屈指の重要曲集『ロザリオのソナタ集』。今年はなぜかこの曲集の新録音が相次いでいますが、きわめつけはこのスペイン新世代の古楽器奏者の新録音! しなやか&自然体な音作りで、調弦の違いから生じる多彩な音表現をたっぷり味あわせてくれます。解説書に1曲ごと添えられた意味深な美麗写真も独奏者自身が撮影。
■ガイド大塚の感想
卓越した演奏で、録音も適度な残響があり、音楽的であると同時に宗教的でもある。イエスの磔刑の場面など、激しさと祈りが同居するような演奏で心が動かされる。場面ごとにチェンバロ、テオルボ、ヴィオラ・ダ・ガンバ、オルガンなど用い効果的に聴かせる伴奏のムジカ・アルケミカも好サポート。
コパチンスカヤ(ヴァイオリン) 『Take Two ヴァイオリニストとふたりで』
ステージには裸足で登場。バロック・ヴァイオリンを使う古い音楽から今の現代新作まで、とてつもない腕前で何でも自然に聴かせてしまう異才コパチンスカヤ。「娘アリスへのプレゼント」として、オカリナ、クラリネット、チェンバロ……とさまざまな楽器とのデュオで録音された24の小品。先に解説の「はじめに」だけ読んで、あとは2曲目から流し聴き、ん?と思ったら写真満載の解説へ……それが、一番楽しくお聴きいただく出会い方かも?
■ガイド大塚の感想
ファジル・サイとの共演など、個性的で自由な演奏で知られるコパチンスカヤの娘愛・音楽愛に溢れたアルバム。個々の演奏では、ミヨーとファリャが面白かった。ミヨーらしいラテンな愉悦さを鮮やかな技法でカラフルに描き出し、ファリャはポルタメントがクラシックというよりスペインの民族音楽的。バロックから現代まで、縦横無尽にコパチンスカヤ・カラーで演奏していてさすが。
タロー(ピアノ) バッハ:ゴルトベルク変奏曲
「ゴルドベルク変奏曲」は、構造美あふれる佳曲。ただし、もともとが二段式の鍵盤を持つチェンバロで演奏されることを前提に作られているので、ピアノで演奏することが難しい変奏も含まれています。全てのピアニスト、ピアノ音楽ファンが愛するこの曲に、満を持してアレクサンドル・タローが対峙します。的確で安定したテンポ、特にメリハリの強弱をつけた左手の動きは、この作品の新しい感覚をわたしたちに埋め込めるはずです。
■ガイド大塚の感想
上のオススメコメントにもあるが、左手が特徴的で熱を帯び、ぐいぐい引き込まれていく。アクセントやスタッカート気味にする箇所を設けるなど、かなり細かく表情をつけていて、音楽にリズムと流れを生み出し、また対旋律の明瞭な提示も行われ、かつて高橋悠治がやったものとは違うがルネサンス的旋律に溢れた演奏に近付いている。第6変奏のなめらかなレース生地のカーテンが風にそよぐような繊細なレガートなども面白い。
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清水和音(ピアノ) ベートーヴェン:ピアノ・ソナタ「悲愴」「月光」「熱情」
日本を代表するピアニストがついにベートーヴェンのセッション録音に臨みました。『演奏設計がしっかりしていて、堂々たる風格があり、「いい曲だな」という思いが胸いっぱいに広がる。それは清水和音の円熟を物語るものだろう。』青澤唯夫(ライナーノーツより)。純度の高い美しい音色はもちろんのこと、楽曲の味わいを存分に引き出して、必聴の価値ありといえるでしょう。ベートーヴェンの全てが再発見できるはずです。
■ガイド大塚の感想
力任せとは違う、芯のある力強さがリリシズムを漂わせる演奏。こういうのは真に大人の男性にしかできないと舌を巻く。「月光」1楽章の音の粒が均等に揃っている感じは、仕立ての良いスーツのようなパリッとした美しさがあるし、「熱情」の最後で力強く畳み掛けるところなど、決断力と行動力を併せ持ち正にパッショネイト。
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