「失敗したくない病」は読書の世界にはいらない

――ちょっと時間が空いたらTwitterやFacebookをチェックしたり、今はいろんな所で時間の奪い合いがありますよね。本を読む機会が減ったのも、そういうものが影響していそうです。

 最近はネットが主体になっていて、人がそれに振り回されている気もします。本来は自分が楽しく健やかに生きるための道具なはずなのに、それが○○をやらなきゃいけないというようなタスクになっていたら本末転倒ですよね。個人的にはSNSなどに没頭しすぎるのではなく、もっと孤独になってみるのもいいんじゃないかと思っています。僕はSNSをほとんど使いません。アーセナルFCの情報を見る以外は(笑)。友達は少なくないですが、多くもないです。偶然にも会った人とはちゃんと付き合いたいけど、あらゆる人と繋がりまくりたいとは思えませんね。

幅さん

FacebookやTwitterは、閲覧専用だという幅さん。プレミアリーグのアーセナルFCが好きで、もっぱらサッカー情報をチェックしているとか。

――それ以外にも、そもそも本の選び方がわからない、という人も多いかもしれません。

 一冊、騙されたと思って自分の直感が働いた本に30分だけ向き合ってみるのをオススメします。そのぐらいあれば、書き手のニュアンスとかリズムもわかってくるので。

今は「失敗したくない病」が蔓延している気がするんですよ。たとえば、レストランでも本でも、何かを選ぶときにネットのレビューとかそういうものの点数を気にしすぎている。本はみんなに同じように根付くものではなくて、百者百様の作用があります。だからこそ、自分の直感みたいなものを晒しながら探っていくのがおもしろいんじゃないかなと思いますね。

――今って裏付けがないと何か言っちゃいけないとか、バックアップがあったりするのが当たり前になっていて、直感というのは一周回って新鮮な感じがします。

 もっと動物的な自分の無意識みたいなものを、いい意味で自由に走らせる場所と捉えたほうがいいと個人的に思っているんです。自分の直感が許される場所がどんどん日常から少なくなっていますし、探そう探そうとするよりも、ただ本当に気になるものをピックアップしてみると、思ってもないような自分の興味みたいなものに出会えるかもしれません。

本を選ぶのは「狩り」のようなもの

――無意識を走らせるといっても、普段慣れていないとなかなか難しいですよね。実際に幅さんが本を選ぶときに気をつけていることなどあれば教えてください。

 個人的に気をつけているのは、3つのことです。なるべく荷物を軽くする。腹六~八分目にする。後ろにスケジュールを入れない。

要は、身体的にリラックスした状態じゃないと、人は未知なるものなんて受け入れようとは思わないということです。僕は腰痛持ちだから荷物が軽いほうが嬉しいし、お腹が空きすぎても早く下の階の飲食フロアに行きたくなっちゃうから(笑)。後ろのスケジュールが詰まっていると焦っちゃうので、仕事の最後にふらっと寄ったりすることが多いですね。あと、カートでふらふらーっと買うのも実はいいですよ。本を持ちながら買い物するのはつらいじゃないですか。

体が気持ちいい状態で行くと、なんか見つけなきゃダメだとか、探そうというよりはふらーっと回るんですよ。イメージとしては「狩り」みたいな感じで。

幅允孝さん

「書店も都内は大型化が激しいので、疲れないようにカートで買うのもいいですよ」

――「狩り」ですか(笑)

 そうそう、ハンティング(笑)。「ハンター協会」に所属してる気持ちで愉しんでください。あーこういうの出てるんだとか、なんだよこの変な表紙、とか、このタイトルが妙に気になるとか、いろいろ引っかかりどころはあると思うんですけど、そういうのは自分の直感というか無意識が支えているものだと思うんですよ。

僕の中では迷ったら「えいっ!」って買います。5000円の本ってなかなか勇気が必要ですけど、5000円のTシャツだと買っちゃうじゃないですか。僕は書店で働いていたときにものすごく給料が安くてお金がなかったんですよ。転職して一番最初に給料もらったとき、本をカートで7000円分ぐらい買って、ものすごい贅沢なことをしたと嬉しかったのを覚えています。本の価格帯って雑誌や文庫だったら数百円とか、単庫本だったら1000円あたりで、2000円近いと高いなというイメージ。だけど、実は中に詰まっている熱量に比べると、ずいぶん安いものだと僕は思います。なかなか難しいかもしれないけれど、自分の価値観をちょっと自由にしてあげると、買うのが楽しくなるはずです。