熊本の医学教育の歴史が詰まった大学
熊本大学の歴史をさかのぼると、宝暦6(1756)年に創設された医学校の再春館と、薬園の蕃滋園の名が出てきます。その後、さまざまな学校が統廃合を繰り返しながら、昭和24(1949)年に熊本大学として誕生しています。医学部保健学科は前身の熊本大学医療技術短期大学部と、熊本大学教育学部特別教科(看護)教員養成課程が統合され、平成15(2003)年に設置されました。専攻は看護学、放射線技術科学、検査技術科学の3つに分かれています。
保健学科のキャンパスは、熊本市内の本庄・九品寺地区にあり、熊本駅前や交通センターからバスで10分程度。学内には広い駐車場もあり、アクセスはかなり良いといえます。
学生の横、縦の繋がりにも配慮
保健師免許を取得することのできる看護学専攻の定員は70人。保健師免許取得のためのコースに進むことができるのは20人。それを超える応募があった時に選抜試験が行われます。時期は3年の前期前半で、保健師に関する科目(10科目)の筆記試験+面接を基準に決定します。この保健師に関する10科目は「看護師として働くとしても、全員に地域を診る視点を学んでほしい」(上田公代教授)との考えから、看護学専攻のすべての学生が必修です。
保健師教育で特長的なのは、まず、講義と演習を組み合わせ、実践的な学習ができるようグループワークを取り入れ、多様な考えを共有できるようにしていることです。また、保健師を希望する学生たちのモチベーション維持のため、3年生は4年生の実習発表会に参加することで、講義と実習のつながりをイメージできます。
4年生の就活や国家試験対策の経験を発表する場に3年生のみならず、1、2年生も含め参加してもらい、現場が求める保健師像をイメージしてもらうことにも積極的で、学生間の横、縦の繋がりを強くする場も多く設けています。
住民と関わると見えてくるものがある
実習は、地区踏査、地域診断、家庭訪問、健康教育のすべてを実施しています。とくに重要視しているのは、事前地区踏査や地域診断の内容と、実際に住民さんと関わってから得た内容は変わることといい、講義と実習の両方を担当する松本千晴助教は、「事前の地区踏査では統計的な資料だけで判断し、交通が不便で高齢化が進み、住民は孤独感を感じていると結論付けたとしましょう。ところが実際に行ってみたら、みんなで一緒に寄合う機会が多かった、病院から送迎のバスがあり、交通に不便さを感じている住民は少なかった、というケースがあるということも学んでほしいです」
松本千晴助教(左)と上田公代教授(右)
と語り、上田教授も
「地域診断と地域の実情に合わせ、PDCAサイクルをきっちりと回していける保健師になることが大切です。私はそういう保健師を育てたいと思っています」
言葉に力が入っていました。
チーム医療演習は人気講義のひとつ
保健学科全体の特長は、4年後期にペーパーペイシェントというチーム医療演習を行っていることです。ひとつの事例、たとえば、ある人の病気の発症から入院、退院、在宅で療養などの事例を提示し、それぞれの立場からの捉え方を、他の分野の方に分かりやすく説明するものです。お互いの専門分野の相互理解を図ることが目的で、看護学専攻なら、放射線技術科学と検査技術科学専攻に対し、看護学の立場から対象者をどう捉え、今後の支援に結び付けるかを説明します。事例の中には血液やレントゲンなど各種の検査データも入っているので、よりリアルな演習となり、広い視野で退院後の生活まで考えることができるわけです。これは入学式の時から楽しみにしている学生がいるようで、科目としても特長的なので、今後さらに充実させることを検討しているようです。
熊本大学から新卒で保健師として就職した人数は、平成24年度5人、25年度6人、26年度8人と増え、来年度も増えると予想されています。既卒者で看護師や助産師を経験した後に保健師として再就職する人も含めると、さらに人数は多くなるので、県内における卒業生のネットワークも頼りになります。
先生からのメッセージ
「まずは、住民の立場(目線)に立った活動を展開すること。社会情勢にも関心を持ち、個人や集団、地域の社会的な側面にも目を向けて、健康課題解決のために多方面からアプローチできるような保健師になってほしいです」(松本千晴助教)「保健活動では、住民を主語にして考える(住民がどうしたい、どうなりたい)というスタンスで、住民と話をし、耳を傾けるなどの努力をすること。そのような立ち位置で、住民の力の強みや弱みを感じながら、住民の生活からわき起こる健康課題に取り組んでほしいです」(上田公代教授)
(大学データ)
熊本大学医学部保健学科看護学専攻地域看護学分野:上田公代教授/西阪和子教授/東清巳教授/松本千晴助教
定員:70人
保健師コース:20人
保健師コース最終選抜時期:3年前期